賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「離職率の改善」です。
防げたかもしれない離職、見逃していませんか?
皆さんこんにちは、コンサルタントの山城です。
沖縄の賃貸管理会社に10年以上勤めた後、入居者対応や空室対策などの経験を活かして、現在はコンサルタントとして全国の賃貸管理会社に向けて情報発信および管理サポートを行なっています。
さて、離職理由というと「新しいことにチャレンジしたい」とか「業務に疲れてしまった」とか、あるいは「プライベートをもっと大切にしたい」「もっと稼ぎたい」などをよく耳にします。
もちろん細かい理由は人それぞれですが、会社が社員の離職をどう防ぐかという視点に立ったとき、離職には大きく分けて「防ぐことのできない離職」と「防げたかもしれない離職」の二つが存在すると言えます。
「防ぐことのできない離職」としては、たとえば独立、出産、配偶者の転勤など社員の個人的な事情によるものは、あらかじめ対策を取ろうにも難しいでしょう。
しかし、企業と社員のミスマッチを原因とするような「防げたかもしれない離職」なら、会社の対策次第で結果は変わってくるはずです。
賃貸管理会社に多い離職率とは?
では、管理会社にとっての「防げたかもしれない離職」にはどのようなものがあるのでしょうか。業界で10年以上働いてきた私としては、特に次のような理由が多いと感じています。
《管理会社に多い離職理由》
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皆さんの会社ではいかがでしょうか。
実際にこうした理由で離職が発生しているのであれば、「防げたかもしれない離職」だけに改善の余地は充分にあると言えます。しかし、改善しないまま問題を放置してしまうと、人口減少に突入したこれからの時代、社員の確保に困るだけでなく、組織としての存続も危うくなるかもしれません。
(表1.厚生労働省「不動産業界の入離職率」)
厚労省が公表している「不動産業界の入離職率」(表1)を見ると、直近の2019年(令和元年)は入職率が16.2%で、退職率の15.1%をぎりぎりで超えている状況です。
近年は生産人口も減ってきていますので、これから入職率が増加する見込みも低く、いつ退職率が入職率を逆転してもおかしくないでしょう。
いえ、ひょっとすると地域によっては、すでに逆転している恐れさえあります。
実際に私が管理会社に勤めていたころ、地域の業者会に集まるメンバーの顔ぶれは社員の退職によって変わることが多く、新たに人が来ないので抜けた穴が埋まらないといった問題が発生していました。身近なところで、人手不足の影響は表れ始めているのかもしれません。
そもそも、どの産業でも働き手が少なくなっている時代です。採用に時間がかかるのも当然のこと。そして時間がかかればかかるほど、今いる社員の負担が重くなり、離職に拍車をかけてしまいかねません。
そうなると、企業を大きくするどころか組織を維持していくことさえ難しくなってしまいます。社員が離職し、採用も上手くいかず、さらなる離職を誘発してしまう…。そんな負のサイクルに陥らないためにも早い段階で離職率の改善に努めるべきです。
貴重な人材、使い捨てない働き方を。
まずは何といっても大切なのが待遇面の改善です。
残念ながら、賃貸管理業には給料が低い、休みが少ないといったマイナスイメージが伝統的につきまとっています。事実、管理業は仲介業と違い、仲介成約報酬などのインセンティブが発生しにくく社員の給料を大きく上げることが困難です。さらに、業務量も多いためお休みも少ない傾向にあります。
こんな業種ですから、待遇面で他社との差別化を図らない限り、良い人材を採用できる可能性はなかなかめぐってこないのです。
加えて、改善したいのは福利厚生です。福利厚生には住居、医療、育児・介護、慶弔、年金、施設サービス、教育など、社員のプライベートに関わるさまざまな内容がありますよね。この福利厚生を充実させることができれば、社員の生活サポートが職場環境の満足度につながり、ひいては仕事に対するモチベーションUPに役立つことが期待できるのです。
今いる人材こそ大事にすべき。
とはいえ、会社の経営陣にとって、待遇面や福利厚生を改善しようにもすぐには難しい話ですよね。
それに人口が減っているこの時代、採用活動も簡単ではありませんし、仮に採用できたとしても確実に戦力になるという保証もないのです。そうなると、やはり大事にしなければならないのは今いる人材となります。
ですから、防げたはずの離職で人材をいたずらに失うことは極力避けたいところです。そういう意味では、この先、業界にありがちだった「人材の使い捨て」はもはや通用しなくなるでしょう。「離職しても新しいリソース(人員)を確保すればいい…」そんな使い捨ての時代は終わっているのです。
空室対策でテナントリテンション(解約抑止)という言葉がありますが、現在の業界は、言ってしまえば社員に対しても「リテンション」する時代です。
長く会社に在籍してもらい、長期にわたってパフォーマンスを発揮してもらう。今後は何でもやらせて短期間で使い潰すのではなく、社員一人ひとりが長く活躍できる適材適所の人事を行ない、働きやすい環境づくりを目指すべきでしょう。
ITや外部リソースが実現する新たな働き方
適材適所の働き方を考えるとき、社内リソースは可能な限り営業活動のような売上づくりに割くべきです。一方で、経営陣は生産性の低い業務・売上を生みにくい業務をどうするのかについても考えなければなりません。
方法は色々ありますが、社内リソースにこだわらず、いっそのこと一部の仕事を手放して「IT」や「外部リソース」に任せるのも一手でしょう。デジタルツールやアウトソーシングの積極的な活用が、限られた社内リソースを売上に直接関わる業務に集約させる「新しい働き方」につながります。
管理会社が「手放せる仕事」には次のものがあります。
《ITで代替できるもの》
《アウトソーシングできるもの》
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こうした仕事を手放すことによる業務効率化は、副産物として社員の精神的・時間的な余裕を生み出します。
さらには社員のストレスが軽減され、プライベートも自然と満たされるようになれば、仕事に対するモチベーションも生まれてくるでしょう。
それは結果として、離職率を低下させ、やがては今後の採用活動にも良い影響を与える「正のサイクル」につながるかもしれません。良い環境で良い仕事ができる会社に「良い人材」が集まるのは当然のことです。
繰り返しになりますが、大事なのは今いる社員です。
待遇や福利厚生を改善し、社員に働きやすい環境を提供することが、長期的な会社の発展を可能にするのです。働き方改革が叫ばれて久しいですが、いま改善できることを一歩一歩実現し、離職率の低い会社の実現、ひいては業界の持つマイナスイメージの払しょくにご尽力いただければと思います。
ところで余談ですが、「全国の不動産業界の取り組みを共有して業界全体を良くしよう」とのコンセプトで開催されている「REAA不動産甲子園」というイベントがあります。2021年は賃貸住宅フェアで9月16日に開催されますので、ご興味がありましたらぜひご参加・ご観覧を検討してみてください。