相談デスク

公開日:2021年12月21日

入居者がクリーニング代負担を拒否。管理会社が押さえたい「通常損耗補修特約」注意点

入居者がクリーニング代負担を拒否。管理会社が押さえたい「通常損耗補修特約」注意点
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特約は無効? 入居者にハウスクリーニング代を拒否されたら

通常損耗分の修繕は原則“賃貸人負担”

賃貸借契約で特にモメやすい「原状回復費用をめぐるトラブル」

費用負担の適正化を図るため、2011年に国土交通省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(以下、ガイドライン)が公表され、さらに2020年に施行された改正民法でも「賃借人は通常損耗や経年劣化については原状回復義務を負わない」旨の条文が明記されました。

とはいえ賃貸オーナーの中には、賃貸の慣例として、これまで通常損耗分の修繕に敷金を充ててきた方が少なくありません

管理会社としても、原状回復費用の負担を軽くしたいオーナーの要望に応えるために「通常損耗分の修繕費を賃借人に負担してもらう」という特約(通常損耗補修特約)を契約書に盛り込み、対策している事例も多いようです。

しかし、今は入居者が法的根拠を武器に敷金返還を公然と求めてくる時代です。今回の相談のように、ハウスクリーニング代を賃借人負担とする特約に対して賃借人から異議申し立てがあったとき、果たして管理会社はどのように対応すればいいのでしょうか。

【相談ダイジェスト】

  • 退去清算にあたり、賃借人から敷金返還を請求するメールが届いた
  • 契約時、ハウスクリーニング代を賃借人が負担する旨の特約を結んでいるが、条文内に金額の記載はない
  • 賃借人は国土交通省のガイドラインを引き合いに「特約は無効」と主張している
  • 管理会社としてハウスクリーニングを賃借人負担としたいが可能かと相談

専門家の回答

賃借人負担の特約は「範囲・金額」を正確に

結論から言うと、今回のハウスクリーニング代を賃借人負担とする特約は、訴訟となった場合、無効となる可能性が限りなく高いでしょう。

理由は複数ありますが、分かりやすいのは特約の条文に、賃借人が負担する通常損耗分の範囲・金額が明示されていないからです。

いくら契約書に特約を盛り込んだとはいえ、「ハウスクリーニング代を賃借人負担とする」といった漠然とした内容では、賃借人が実際に何を、どのくらい負担すればいいのか分かりませんよね。賃貸人と賃借人双方の認識に食い違いが生まれるような特約では、そもそも意思表示が合致したとは言えず、その効力は期待できないのです。

事実、国土交通省のガイドラインでは、クリーニング特約が有効となる要件として賃借人と賃貸人が明確に合意形成を図れるように3つの基準を挙げています。

《クリーニング特約が有効となる要件》

  • 賃借人が負担すべき内容・範囲が示されている
  • 妥当な負担額が設定されている
  • 特約によって賃借人が通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識しており、賃借人が負担する通常損耗の具体的範囲が明記されている(あるいは口頭で説明されている)

上記3つを踏まえて今回の特約を見直すと、すでに述べたとおり負担する範囲も金額も示していないうえ、「賃借人が原状回復義務を超えた修繕等の義務を負う」ことについて賃借人との合意形成もありません。

3つの要件すべてを満たせていない以上、訴訟になった場合にまず勝ち目はないと思った方がいいでしょう。

判例でも、同様のケースで「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」とした特約が、「一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えない」と判断されています。(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)

このように特約の効力が期待できない以上、今回のケースは、管理会社にとって非常に分が悪い状況です。

無理に賃借人負担を求めても、いたずらに交渉の長期化や訴訟問題を招きかねません。敷金についてはあくまで相談ベースで交渉し、せめてキレイに退去していただくことを目標とした方が無難でしょう。

「賃貸人負担」と「賃借人負担」の線引きとは?

原状回復について、ガイドラインではハウスクリーニングだけでなく、床・壁・天井・建具・設備など、お部屋の各部位で賃借人負担と賃貸人負担の線引きをしています。どこまでが賃貸人負担で、どこからが賃借人負担なのかを一度確認してみるのもいいでしょう。

また、特約についても言及しており、特約は「一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能」であるとしつつ、賃借人への特別の負担となるため次の3つの要件を満たす必要があるとしています。

《賃借人に特別の負担を課す特約の要件》

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

上のクリーニング特約の要件と重なる部分もありますが、注意したいのは要件2です。

「通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識している」とありますが、

これは言い換えると、契約を結ぶ際に「本来なら経年劣化・通常損耗・賃借人に帰責事由がない場合の部屋の損傷に対する修繕費用・原状回復費用は賃貸人の負担」ですが、「特約を設けることで特別に賃借人負担となるという理屈を賃借人が理解している必要がある」ということ。

入居者がお部屋を借りる際に、あらかじめ賃借人負担の合意形成を完全に図る必要があるわけですので、賃借人負担の特約を正しく運用しようとしても管理会社にはなかなか難しいものがあります。敷金返還請求はゼロにはならないでしょうし、賃借人負担を求めたが故に入居を断られてしまう恐れも十分あるでしょう。喫煙者やペット飼育者だけに特約を設けるということもできますが、それも限定的です。

 

このように、ガイドラインを守ろうとすると賃借人負担の特約はなかなかに扱いづらいものです。

そのため管理会社の中には、一部の入居者から敷金返還請求があることを覚悟しつつ、大多数の入居者から費用負担を期待できると見込んで、あえて曖昧な賃借人負担の特約を使い続けている企業もあるのでしょう。

しかし、敷金返還を求める入居者が増えている今、曖昧さを隠れ蓑にしたアンフェアなやり方がいつまで通用するかは分かりません。原状回復について改正民法でも規定がされた以上は、ガイドラインを守った特約設定を行ない、時代に合った賃貸借契約を結んでいきたいものです。

※この事例は2021年12月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。

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