オートロックを撤去したら家賃はいくら下げればいい?
交換費用400万円、オーナーに手元資金なし
今回、賃貸管理会社から寄せられた相談は、「故障したオートロックを撤去した場合、今の賃料をいくら下げればいいか?」という内容でした。
オートロックの規格が古いため修理ができず、新品に交換すると約400万円もの費用がかかるそうです。オーナーには手元資金がないため、管理会社とは撤去で話がまとまったものの、入居者に対してオートロックがなくなることによる賃料減額でいくら下げるのが妥当か分からないとのこと。
対象物件は13階建てのマンションで、総戸数36戸(1R、1K)です。
さて、オートロックを撤去したとして、賃料はいくら下げるのが妥当でしょうか。また、オートロックを本当に交換せず撤去すべきなのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 賃貸マンション(36戸)のオートロックが故障したが、古い規格で修理できない
- 新品に交換すると約400万円かかる
- オーナーが資金不足のため、オートロックの撤去を検討中
- オートロック撤去による家賃減額では、いくら下げるのが妥当かと相談
専門家の回答
値下げ額は市況から割り出す
オートロック分の賃料減額を検討されているとのことですが、結論から言うと、値下げ額としていくらが妥当なのか決まった金額はありません。
ご存じのとおり、2020年にスタートした改正民法では、貸室・設備などの滅失によって通常の居住ができなくなった場合、賃借人に責任がある場合を除き、滅失部分の割合に応じて賃料は当然に減額されることになりました。
とはいえ、どのくらい減額されるかについて改正民法では定めていないのが実情です。
そこで日本賃貸住宅管理協会で減額割合の目安として「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を一般公開していますが、そこにもオートロックの記載はないのです。
記載がない以上、値下げ額の判断をするには実際の市況を見るしかないでしょう。
自社の仲介担当者に聞けると一番早いですが、馴染みのないエリアなら、その土地の仲介会社に問い合わせる、あるいはポータルサイトで近隣の類似物件と比べてみるなどして、オートロックの有無で賃料がどのくらい変わるのかを調べてみてください。
その差額を値下げ額として適用し、オートロックのない類似物件の賃料とも大きな差がなければ、妥当な家賃減額ができたと言えるでしょう。
対象物件で長く賃貸経営するなら交換が“得”
しかし、そもそもオートロックの交換費用が高額だからと、簡単に撤去を選んでしまうのは実は勿体ないかもしれません。
なぜなら、このさき何十年も家賃収入が見込める物件で家賃を下げてしまうと、最終的な家賃収入の総額が、オートロックを交換して家賃を下げなかった場合の総額より下回る恐れがあるからです。
どうしてそうなるのか、簡単にシミュレーションしてみましょう。
例えば、対象物件のあるエリアでオートロックがあれば2,000円のプラス賃料が見込める場合、オートロックがもたらす月の収益は7万2,000円、一年で86万4,000円(月2,000円×36室×12か月)となります。仮にオートロックを交換したとしても、交換費用の400万円は5年弱あれば回収できます。
86万4,000円×5年=432万円 > 交換費用400万円 |
一方、オートロックを撤去して2,000円分の家賃減額をすると、月7万2,000円のマイナスが、5年どころか10年後も20年後も続くことになります。
もし、オーナーが5年過ぎた後も長く賃貸経営をしていきたいと考えているなら、オートロックを交換して現状の家賃を維持した方が明らかに得になるわけです。
加えて、交換によりオートロックが持つ入居者への訴求力を維持できるのも、賃貸経営の大きなメリットとなります。
ご存じのとおり、オートロックは代表的な人気設備のひとつで、全国賃貸住宅新聞が実施している「人気設備ランキング」でも毎年上位にランクインしています。
そんな設備を撤去してしまえば、対象物件はリーシングの強みを失うことになるでしょう。その影響は大きく、単に賃料収入が減るだけでなく、入居付けのための広告費が余計にかかったり、長期空室のリスクが大きくなったりすることも考えられます。
もちろん、5年以内に建て替えや売却を検討しているなら、交換せずに家賃を下げるという選択肢も取れるかもしれません。
しかし、そうでない場合はオートロックを復旧した方が賃貸経営のプラスとなるのは明らかです。まずは賃貸経営についてオーナーの意向をうかがい、そのうえで交換か撤去かの判断をしてみることをお勧めします。
手元資金がないなら「リフォームローン」も視野
ただ、今回のケースのように、本当はオートロックを交換したいけれど費用が手元にないというオーナーも珍しくありません。そうしたオーナーには、各金融機関が扱う「リフォームローン」を積極的に提案したいものです。
リフォームローンには年齢制限があり、適格要件に当てはまらない場合は仕方ありませんが、もし利用できるなら使わない手はありません。とはいえ、オーナーの中には「どうしても借金に抵抗がある」「もう歳なのに新たに借金するのはイヤだ」という方も少なくないですよね。
そこで、リフォームローンを借りた場合と、オートロックを撤去したときの比較として、次のようなシミュレーションを提示するのはいかがでしょうか。
例えば、リフォームローンの内容が借入元金400万円 、返済期間10年、金利2.5%の元利均等返済だったとき、月の返済額は約3万8,000円、年間で約45万6,000円となります。
一方、オートロックを撤去した場合の損失額は月7万2,000円、年間で86万4,000円。つまり、リフォームローンを利用した方が、オートロックを撤去するより3万4,000円もお得になることが分かります。
このことは見方を変えると、オートロックを交換すれば10年間3万8,000円を払えばいいのに対して、撤去すると対象物件で賃貸を続ける限り7万2,000円の損失が延々と続くことになります。
もし、リフォームローンを組んでもオーナーの収支に問題がなく、かつ返済後の経営存続が見えているのでしたら、やはり交換した方が得ということになるわけです。
管理会社としては、オーナーがスムーズにローンを組めるよう、金融機関の担当者とコミュニケーションをとったり、各社の商品内容を把握しておいたりして斡旋の準備をしておきましょう。また、金融機関と協力してリフォームローンの独自プランを開発してみるのも一案かもしれませんね。
もし先に減額請求が来てしまったら
ちなみに、オートロックが壊れても、修理・交換に向けて免責期間が考慮されますので、すぐに既存入居者の家賃を下げる必要はないでしょう。しかし、時間をかければかけるほど入居者の不満も溜まるものです。
もし、オートロックの工事前に入居者から家賃の減額請求が入った場合、管理会社としては減額請求を受けざるを得ないでしょう。ただし、その場合でもある程度の免責期間は認められてもいいはずです。
実際には入居者との交渉次第となりますが、免責期間を予想される最短の工事期間(おそらく1~3ヶ月)に設定することも可能だと思います。また、オートロックの復旧に合わせて減額した賃料が元に戻ることについても、入居者の合意はきちんと取っておきましょう。
※この事例は2022年1月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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