設備故障で入居者が高額な「迷惑料」請求
怒ったオーナーが「契約解除」を主張、交渉は暗礁へ
今回、管理会社から寄せられた相談は、「水漏れの工事で入居者が宿泊費などの費用負担を要求する場合、どう対応したらいいか」という内容でした。
発端は、2階ユニットバスの老朽化による1階への水漏れ。修繕工事は1週間かかる見通しで、一時的にホテル等に避難してもらうようお願いしたところ、2階入居者はそれを断り実家に移ることに。しかし、その際、実家から会社までの通勤にかかる交通費や、宿泊費などを含めた迷惑料10万円を支払うよう管理会社に要求してきたそうです。
悪いことに、要求を知ったオーナーが「そこまで言うなら解約して退去してもらう」と怒ってしまい、支払いを拒否したとのこと。工事の段取り交渉は座礁し、工事ができない状況にあるそうです。さて、こんなとき管理会社はどう対応すればいいのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 老朽化で2階ユニットバスから1階に水漏れ。2階入居者に工事(期間は1週間)を打診
- 入居者は工事を承諾。ホテル等への非難の代わりに実家に戻ることに。しかし、実家から職場までの交通費などを含む迷惑料10万円を要求
- オーナーが「そこまで言うなら解約して退去してもらう」と腹を立て、支払いを拒否
- 管理会社としてどのように対応すればいいのかと相談
専門家の回答
貸主側の譲歩で「早期解決」を目指すのが得策
オーナーが怒って支払いを拒否している今回のケース。管理会社にとってはやりづらい状況ですが、すでに水漏れが起きている以上、ある程度は入居者に譲歩してでも問題の早期解決を目指すのが賢明でしょう。
工事の段取り交渉が長引き着工が遅れてしまうと、今度は1階入居者の不満が溜まり、賃料減額を請求されたり、最悪の場合は退去となるかもしれません。さらに、水漏れ被害を放置すると建物へのダメージも大きくなってしまいます。他の入居者や建物を守るためにも、入居者の要求をただ突っぱねるのではなく、譲歩できるところは受け入れる姿勢を見せたいものです。
今回のケースでは、少なくとも交通費に限っては貸主負担として譲歩してもよさそうです。
入居者はホテル等への避難を断ったとはいえ、工事に協力するために実家に戻るのですから、実家から会社までの通勤に必要な交通費は入居者が本来負担する必要のない出費となります。交通費を貸主負担するのは十分に筋の通った話と言えるでしょう(※ただし、負担額を交通費全額とするか、会社から支給される交通費との差額とするかは交渉次第です)。一方、ホテル等の申し出を断った以上、宿泊費まで支払う理由はないと言えます。
高額な「迷惑料」は過剰な入居者リクエストか
では、迷惑料という名目での入居者リクエストはどうでしょうか。
結論から言うと、こちらも管理会社が譲歩した方がいい要求には当たらないと考えられます。というのも、設備故障による賃料減額の一般的な目安と比べて、入居者の要求する額ははるかに高いと言えるからです。
日本賃貸住宅管理協会が公表している「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」によると、お風呂が使えなくなった場合の減額割合は賃料の10%とされています。
加えて免責期間が3日に設定されていますので、減額対象の日数は実質4日間。賃料が6万円だった場合、実際に減額される目安の額は3,200円にしかなりません。
月額賃料 60,000 円×賃料減額割合 10%×(7日-免責日数3日)/月30日=1日当たり800 円の賃料減額(4日間で3,200円) |
入居者の要求する迷惑料には交通費も含まれていますが、それを差し引いても不当に高い金額と言えるでしょう。
入居者との交渉では、こうした賃料減額の目安を示すことで譲歩できるもの・譲歩できないものの線引きを行ない、入居者の納得を得ていくことが大切です。
退去要請はオーナーの不利に
また、オーナーの要望としては「退去させたい」とのことですが、今回は信頼関係の破壊があったとは言えません。
どうしても退去してもらうなら「貸主都合」の退去要請となりますので、入居者から立退料を請求される恐れもあります。立退料の金額に相場はありませんが、もし請求された場合、賃料の6~12ヶ月程度の出費は覚悟した方がいいでしょう。
そのほか、退去となると次の入居者募集に向けてお部屋の原状回復費用や、仲介会社への広告費用なども発生します。
支払いを拒否するオーナーを説得するのはなかなか難しいですが、譲歩しない場合のデメリット、あるいは退去を求めた場合の損失額を示すことで、安全な賃貸経営ができるようにオーナーを導いていきたいものです。
オーナー・入居者双方が納得しやすい状況作りを
今回、入居者が工事期間中は実家に移ってくれるという珍しい展開でしたが、ユニットバスを交換するようなお風呂場の修繕工事が必要な場合、入居者の納得を得るには代替案を提示できた方がスムーズです。
以下、一般的な代替案として次の3つが挙げられます。
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お風呂代わりに近所の銭湯を使ってもらったり、空室がある場合はそこのお風呂を貸し出せば貸主負担を最小限に抑えることができるでしょう。手厚く対応するなら素泊まり用のホテルを用意してあげるのも一案です。
いずれにしても、こうした代替案を管理会社が早い段階で入居者に提示できれば、工事に向けた段取り交渉をスムーズに進めやすくなるでしょう。
水漏れのような設備故障の対応はスピードが大切です。オーナーに対しては早期解決のメリットを、入居者に対しては代替案を示して、両者が納得しやすい状況を演出していきましょう。
※この事例は2022年3月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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