「相談デスク」
このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。
空室対策でペット可に変更、従来の入居者からクレームが来たら?
繁忙期も一段落しましたが、ここからは「残ってしまった物件」の空室対策に忙しくなりますね。
地域によっては、このタイミングを逃すと半年~1年の空室になることもあるでしょう。
まさに勝負どころ。できることならゴールデンウィークまでには決着をつけたいものです。
しかし、時間がないからといって慌てて空室対策を行なうときは、要注意です。
確かに空室を埋めることは大事ですが、
そればかり考えていると、思わぬところでほかの誰かの不興を買ってしまうかもしれません!
相談ダイジェスト
- ペット不可の物件だったが、空室が埋まらないため「ペット可」に切り替えた。
- 入居者に掲示板への掲示で告知したところ、「ペット可とするなら出ていく。引っ越し代を払え」とクレーム。
- 引っ越し代は払わなければならないか?
- また、慰謝料を請求された場合はどう対処すればいい?
専門家の回答
賃貸条件を変える以上、本来は個別に同意書をもらう必要あり。実務では事前アンケートなどで様子見も。
昨今、日本を席巻しているペットブームの勢いはとどまるところを知りません。
賃貸業界でも「部屋でペットを飼いたい」というニーズは根強く、ここ数年はその声に応えるように「ペット共生住宅」といった特化型賃貸住宅をはじめ、ペット可賃貸物件が増加しています。
とはいえ、このケースのように、途中から「ペット可」へと変更する場合には、特に既存入居者の賃貸条件に気を配る必要があります。なぜなら、既存の入居者はまったく逆の「ペット不可」という特約を結んだうえで、この物件に住む人はペットを飼えない(飼わない)という前提で入居しているからです。
その前提を覆し、「ペット不可」という条件から「ペット可」へと賃貸条件を変更するのですから、本来は個別に同意を得る必要があります。
掲示板に「今後はペット可になります」という掲示をするだけでは足りません。
たかがペット、と思うかもしれませんが、世の中には単純に動物が苦手な人や、深刻な動物アレルギーを抱えている人など、「ペット不可を居住の要件としている人々」も存在しています。こうした人々にとって、この賃貸条件の変更は「住めるか、住めないか」を決める大きな条件です。
それを同意なしで変更すれば、当然、もめる事態にもなりえます。一方的な変更を行なったことは事実なのですから、こうした場合は迷惑をかけた側として丁寧に謝罪し、沈静化を図るべきでしょう。
なお、原則的には、貸主側の契約違反を理由に入居者に契約を解除されたり、損害賠償として引っ越し代を請求される事は十分に有り得ます。
実損の補償は必要。慰謝料までは非現実的。
とはいえ、「ペット可にするなら出ていく」という人々が、貸主側の条件変更を理由に不当な請求をできるわけではありません。
借主が請求できるのはあくまで被った損害分の補填です。
よって、貸主が支払うべきは、「ペット可になったことでどうしても必要になった引っ越し代」の実費で十分でしょう。
それ以上の請求、たとえば「慰謝料」を請求される場合もあるかもしれませんが、こちらは要求通りに支払う必要があるかよく確認するべきです。物件がペット可へと条件変更されたことによって入居者が「耐え難い精神的苦痛」を被ることは稀と思われますし、その苦痛を慰謝料へ換算した額が莫大なものになることも少ないはずです。
実務の上では「引っ越し代+菓子折りや若干の迷惑料」といったところが落としどころと思われます。
ペット可に変更したいなら、準備期間をきちんととるべき。
高い効果が期待できるものの、以上のようなトラブルの種も抱えている「ペット可」戦略。
もともと「ペット不可」 → 空室対策として「ペット可」 → クレームが出たから「ペット不可」に戻そう、なんてことも当然できませんので、手間であっても原則としては「全戸で同意を得る」のがもっとも望ましい方法と言えるでしょう。
そのほかには、「近い将来ペットを飼えるように契約を変更することがある」という容認事項を定めた契約書を使い、全員の契約が変更できた時点でペット可にする、という方法も考えられます。こちらは同意を得る手間がないぶんかなりの時間がかかりますが、「新築時はペットに傷をつけてほしくないが、15年もしたら集客力も落ちるしペット可にしてもいい」といったオーナーには、こちらの方法をお勧めしてもいいかもしれません。
■手間も時間もかけたくない、という場合
空室対策は時間との勝負ですので、そのお気持ちはよくわかります。
しかしそれでも、せめて事前に「アンケート」を取るなどして入居者の様子を見るべきでしょう。
つまり、入居者にペット可の賛否を問うアンケートを送り、強い拒絶を示す人がいないか確かめるのです。
拒絶を示す人が分かれば、その部屋だけどうにか解決するだけでプロジェクトが前に進みます。全戸に説明に伺って同意を得るよりは、手間も時間もかからない方法と言えるでしょう。
世の中には、この「勝手なペット可」のような条件変更を理由に、貸主や管理会社を「恫喝」するようなケースも存在します。
効果のある対策だからこそ、結果が台無しになってしまうようなやり方は避けるようにしましょう。
※この事例は2013年7月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。