【コラム】「オーナーの目的」を把握して的確な提案を
目的把握なくして相談なし
賃貸管理ビジネスの収益性を高めるには、どうするべきでしょうか。
一般には、オーナーとのコミュニケーションを密にし、頼りになるパートナーと認めてもらい、「管理以外の案件を依頼してもらうこと」が王道と言われます。日常的にオーナーと接することができるという賃貸管理の長所を生かし、売買や新築や相続といった「管理以外の案件」へと派生させましょう、という理論です。
しかし、難しいのは「頼りになるパートナーと認めてもらう」という部分。
管理のエキスパートではあっても、賃貸管理会社は売買や建築や節税のプロだとはなかなか思ってもらえません。知識や経験があったとしても、オーナーの相談はつい専門家へと流れてしまいがちだからです。
「一言相談してくれたら、力になれたのに!」
過去にはそう感じる案件もたくさんあったことでしょう…、しかし、愚痴る前に少しだけ落ち着いて考えてみてください。
そもそも皆さんは、そのオーナーの「賃貸経営の目的」を知っていましたか?
そしてもし自分が同じ立場だったとしたら、自分の「目的」すら知らない相手に、「どうやったら目的を達成できるか」を相談したりするでしょうか?
状況と目的とは必ずしも一致しない
「ローンの残債もないのであれば、建物そのものを売ってしまうというのも一つの手ですよ。いかがですか?」
かつて私にも、オーナーの目的を知らなかったばかりに提案を受け入れてもらえなかった経験があります。そのオーナー様は、将来、相続によって賃貸マンション1棟を受け継ぐ予定でしたが、そのマンションに長期空室が増えている現状に悩まれていました。
そこで冒頭の提案です。収益性を考えるなら、私はこの賃貸マンションに追加投資を行ない、リノベーションをして満室にして物件価値を高め、その後に売却するべきと考えました。空室に悩んでいるということは、お金の心配をしているということに違いない、これしかない、と思ったのですが――、しかし、オーナー様はまったくこちらの提案に興味を示しません。
そこでようやく気が付きました。そのオーナー様の目的は、「不動産でもっと収益を得たい」ではなかったのです。
不動産によって収益は得たいし、損失が出るのは困ることだが、何があっても売却という選択肢だけはあり得ない。そんな風に考えさせる「目的」が、そのオーナー様にはあったのでした。
不動産投資をおこなう「5つの目的」
賃貸経営の「目的」を、周りの人たちと一緒に思いつく限り挙げてみましょう。正しい答えはありません。皆さんはいくつ思いつきますか?
・毎月の安定した収入が欲しい
・いずれ売却して利益を得たい
・不動産投資家になりたい(不動産収入だけで生活したい)
・お金持ちになりたい
・単純にアパートやマンションを所有したい
・どうせなら自慢できる「良い物件」を所有したい
・先祖代々の土地だから維持したい
・資産を分散・保護したい
・節税をしたい
・老後の年金を作りたい
・家族に有益な財産を残したい
・社会貢献をしたい
ざっと考えてみただけでもこれくらいは出てくるでしょう。実際にはもっとあるはずですね。それこそ不動産オーナーの数だけ「目的」があると言っても過言ではありません。
これらをカテゴライズしていくと、以下の5つ(プラスアルファ)くらいにまとめることができます。オーナーの相談に的確に答えるためには、せめてオーナーの目的がどれに属するかを把握している必要があります。
★オーナーが不動産投資をする目的
- 1.安定的な収入
- 2.資本の保護
- 3.資本の増加
- 4.税務上の利得
- 5.オーナーシップ
1.安定的な収入
不動産を持ち続けることで、安定的な収入を得ることです。多くの人がこれを一番の目的としています。
2.資本の保護
不動産投資によって資産を保護すること。特にインフレ経済下では、金(Gold)や不動産といった実物資産が強みを発揮します。
3.資本の増加
運用によって収益性を高め、資本の価値を高めること。購入・運用改善(価値上昇)・売却・購入…を繰り返すことで資本を増加させます。
4.税務上の利得
不動産投資は減価償却や運営経費が認められるため、所得税や住民税の節税対策になります。相続税対策にも効果大です。
5.オーナーシップ
聞きなれない単語かもしれませんが、言うなれば「不動産オーナー」というステータスを得ること、ステータスを維持すること、そのステータスによる満足、などを指します。昔からの地主オーナーに比較的多い目的です。
ちなみに、冒頭でお話しした売却提案を受け入れてくれないオーナー様の目的は、まさに5の「オーナーシップ」でした。オーナー様は、実は次のような目的で私に相談してくれていたのでした。
『空室ばかりなのは困る。だが、物件を売却すれば、周囲から「資産家ではなくなったのではないか?」「生活に困って売ったのでは?」などと思われかねない。だから、売却だけは絶対にできない。不動産を手放すことなく、どうにか空室問題を解決することはできないだろうか』
いかがでしょう、私の提案が受け入れられないわけです。オーナーの目的を知ろうとしなかったことで、私は売却というまったく見当違いな提案をしてしまっていたのです。
このような事態を避けるには、とにかくオーナーと話をすることです。話を深く掘り下げて、本当は何を叶えたいのか、真の目的は何かを確かめることで、ぼたんの掛け違いを回避します。オーナー自身が自分の目的をよくわかっていない、という場合もありますが、的確なヒアリングは「オーナーに目的を発見させる」という結果も生み出します。手間はかかりますが、一緒に「目的」を探した経験は、オーナーのロイヤルティ醸成に一役買ってくれることでしょう。
ちなみに――、私の失敗談にはきちんと続きがあります。
一度は提案に失敗した私ですが、そのあとでオーナー様の目的をしっかりと聞き出し、最終的に、空室の間取り変更を含んだ大規模なリノベーションを提案しました。
ただし、ただのリノベーション提案ではありません。私は「3.資本の増加」を叶える訴求力ある間取りへの変更と、「5.オーナーシップ」を叶える、そのエリアで唯一無二となるような斬新なデザインのリノベーションを提案したのです。
不動産を手放すことなく空室を解決し、かつ周囲にも自慢できるリノベーションの提案…。
結果、その提案は受け入れられ、オーナー様は現在もその不動産を保有し続けていらっしゃいます。
オーナーの目的を知ると管理の実務も変わる
オーナーの目的の把握が役立つのは、決してリノベーションや売却などの「大きな提案」に限りません。
むしろ、オーナーの信頼を勝ち取りたいのであれば、日々の業務や改善提案こそオーナーの目的を意識すべきです。
なぜこの工事が必要なのか、なぜ募集条件の改定が必要なのか、なぜ定期点検が必要なのか…、管理会社からすると「どうしても必要だからです!」と答えたくなるような確認をしてくるオーナーは少なくないですよね(苦笑)。
ですが、これこそが、管理会社がオーナーの目的を把握していないがゆえに起こるギャップではないでしょうか。オーナーの目的を理解していれば、
「売却をお考えなら、募集条件を緩めてでも満室にするべきです」
…など、オーナーの目的ごとに納得いただける回答を用意できるはずです。そしてその積み重ねは、きっと「この会社は私のことを分かってくれている」という実感と信頼とを醸成してくれるでしょう。
また、オーナー自身が自らの「目的」を見失ってしまうのもよくある話です。
「このオーナー、いずれ高く売りたいと言っていたのに、メンテをケチるな…」
「このオーナー、利回り重視と言っていたのに、余計な設備をつけたがるな…」
オーナーも人間ですから、手元のお金の状況やオーナーシップの意識によって、間違った選択肢に誘惑されてしまいます。これを良い方向に軌道修正できるかどうかは、管理会社の信頼づくりの大きなポイントとなるでしょう。
私たちはつい不動産オーナーという人たちをひとくくりにして考えてしまいがちですが、私たちの「何のためにお金を稼ぐのか」という目的が千差万別であるように、オーナーの叶えたい目的も一人ひとりバラバラです。
不動産投資とは、結局は目的を叶えるための「手段」でしかありません。その先にある「目的」にきちんと共感し、理解し、最適なアドバイスができるかどうかが、賃貸管理ビジネスの収益性を高められるかどうかの分水嶺となるのではないでしょうか。