相談デスク

公開日:2018年7月19日

「預けている敷金と相殺してくれ」滞納者からの要求には応えるべき?

「預けている敷金と相殺してくれ」滞納者からの要求には応えるべき?
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「相談デスク」

このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。

「預けている敷金と相殺してくれ」滞納者からの要求には応えるべき?

滞納者への督促は、賃貸管理の中でも厄介な仕事のひとつ。

お金のない人に「家賃を払ってください」と要求するのですから、そう簡単でないことは皆さんもご承知の通りです。

「振り込みを忘れていました! 明日には払います!」
「引き落としの口座に入金するのを忘れていました。振込先を教えてください」

こうした、いわば『うっかり滞納者』であれば解決は簡単なのですが、残念ながら管理物件の1~2%程度は『うっかり』でない方がいらっしゃいます。

「もう2ヶ月分になりますよ。いつ払っていただけるんですか?」
「うるせえなあ! 契約のときに敷金2ヶ月分預けてんだろ! あれを充当しろ!」

…こうした要求にはどう対処すべきでしょうか?

相談ダイジェスト

  • 常に1ヶ月分滞納している(当月に当月分を払う)滞納常習者が、2ヶ月目の滞納になった。
  • 話をしたところ、先日仕事を変えたために今月は払えるアテがないとのこと。
  • 「そんなに家賃が必要なら、預けた敷金から1ヶ月分使ってくれ」
  • 退去時の心配もあるため敷金は敷金として預かっておきたい。要求には応えるべきか?

専門家の回答

要求にこたえる必要はない。滞納家賃と敷金とを相殺するには、借主の「建物の明け渡し」が必要。

「既に預けているお金があるのだから、滞納分にはそれを充ててくれ」

一見すると筋が通っているようにも見えますが、敷金の性質や法律上の扱いをきちんと検証していくと、このような要求が叶わないことが分かります。滞納分に充当してあげてはならない、という決まりがあるわけではありませんが、貸主側にこの要求を叶える必要性はまったくありません。

まず敷金ですが、確かに法律上は、賃料債務などの債務を担保する目的で預ける金銭、として扱われています。
不動産用語の解説サイトでも同様で、敷金とは、

不動産の賃貸借の際、賃料その他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する停止条件付返還債務を伴う金銭
(wikipediaより)

等と書かれています。
債務を担保する…、これだけを見ると「賃貸借契約上の債務」に対して敷金を使うことができそうにも感じます。

 

しかし、実際にはそうではありません。

滞納分に敷金を充当する…、それはつまり、滞納賃料という債務と、敷金返還という債務とをぶつけ合わせる(相殺する)ということです。

お部屋を解約して退去をする際に滞納賃料があった場合、敷金から滞納分を差し引いて敷金を返還する、ということが日常的に行なわれていますが、ここではまさにその「賃料債務」と「敷金返還債務」の相殺が行われています。

借主は、自身の負っている「家賃を払わなければならない」という義務に、貸主の「敷金を返還しなければならない」という義務をぶつけてもらうことで、ようやく滞納という状態を解消しているのです。

 

では、同じことを日常的にも行えるでしょうか?

答えは、「ノー」です。

 

理由は、敷金の返還義務の発生のタイミングにあります。

貸主の敷金返還義務は、借主が借家を明け渡してはじめて発生します。つまり、借主が部屋を明け渡していない時点では、貸主には「敷金を返還しなければならない」という義務は一切ない状態なのです。

敷金を滞納賃料に充当することは貸主にとってのリスク

繰り返しになりますが、敷金を滞納賃料に充てるということは、貸主・借主の双方の債務をぶつけ合わせる、相殺するということです。

そして、「相殺」をするためには、双方に同じだけの債務がなければなりません。

一方だけに債務がある状態では、相殺という行為そのものが不可能ということになります。

今回、借主は滞納家賃(賃料支払い債務)を敷金(敷金返還債務)と相殺することを求めていますが、既に賃料の支払いが必要な借主と違い、貸主には敷金返還の義務が発生していません。

貸主に敷金返還の義務が発生するのは、あくまで「借主が部屋を明け渡したとき」です。

逆に言えば、借主が部屋を明け渡さずにいるのであれば、貸主に敷金を返還する義務はない、ということです。貸主に義務がない、つまり双方に同額の債務がないのですから、借主の要求する「相殺」は、そもそも理論的に不可能なのです。

 

よって、貸主は借主の「敷金からの充当」の要求に応える必要はありません。

滞納賃料は滞納賃料として督促し、それが支払えないのであれば部屋の明け渡しを求めましょう。そして明け渡しが叶った際には、滞納賃料と敷金とを相殺し、滞納分の賃料を回収しましょう。

 ――――――――――――――

解約時の未払い賃料や原状回復費用の発生を見越せば、限りある預り金を減らすことは貸主にとってリスクでしかありません。

何より、借主の一方的な都合で、敷金を借主の債務の一部に充当されてしまうことは、敷金の「担保」としての機能を損なうことになります。

敷金充当の要求は上述の通り合理性を持ちませんが、そもそも主張が発生しないよう、賃貸借契約書に条文を盛り込んでおくといいでしょう。

 

オーナーズエージェントで作成している契約書では以下のように条文を盛り込んでいます。

第5条(敷金)
1.乙は賃料等その他本契約から生じる債務の担保として、表題部の敷金を契約締結時に甲に預託します。甲は預託期間中無利息でこれを預かるものとします。
2.乙は敷金をもって賃料、その他の債務と相殺することはできません。
3.乙は敷金返還請求権を第三者に譲渡し、又は担保として供することはできません。

改正民法では、敷金と滞納賃料との相殺不可を明文化

さて、敷金と滞納賃料との相殺が理論的にできないことは上述の通りですが、このことについては2020年施行の改正民法ではより明白に規定される予定です。

改正民法では敷金について明文化するとともに、その性質や扱いについても定義がなされています。敷金と滞納賃料とが相殺できないことについては、改正民法622条2-2に記載があります。

改正民法622条の2

1 賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

 ①賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。

 ②賃借人のが適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

滞納賃料を敷金から充当することは、一時的な解決にすぎず、貸主のリスクを高めるだけの選択です。

手間はかかりますが、滞納者とはきちんと話し合いを重ね、滞納を解消できるよう返済プランを組んでいきましょう。

※この事例は2018年5月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。


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