相談デスク

公開日:2018年12月3日

「逮捕されるような人がうちのアパートに?」賃貸物件の解約を求めることは可能か。

「逮捕されるような人がうちのアパートに?」賃貸物件の解約を求めることは可能か。
Scroll

「相談デスク」

このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。

「逮捕されるような人がうちのアパートに?」賃貸物件の解約を求めることは可能か。

人の生活を支える「衣・食・住」の三本柱。

そのひとつを担っているだけあって、アパート経営には様々な人、様々な人生との出会いがあります。

志望校への合格、夢の職業へのデビュー、結婚や出産、その子の健やかな成長…。

人々に住まいを提供する中で、入居者の人生の大事な節目を支えることもあるでしょう。

 

しかし、誰かの人生と関わるということは、明るい部分と同じだけ、人生の「暗い部分」にも触れることになります。

 

借金、離婚、解雇、死別、事故、災害…。

そうしたネガティブな事情を抱えた入居者とも関わる可能性があるのが、賃貸経営。

時には、こういったケースとも出会うことになるでしょう。

「えっ、うちの入居者が警察に逮捕された!?」

犯罪を犯した入居者に対し、賃貸経営者はどう対応するべきでしょうか。

相談ダイジェスト

  • 管理物件の入居者が逮捕された。既に拘留されているとのこと。
  • オーナーは嫌悪感からか「早く解約して出ていってほしい」と言っている。
  • 契約書に保証人や連絡先の記載はあるが、まったく連絡が取れない。
  • 逮捕されたことを理由に契約を解除し、部屋を明け渡させることは可能か。

専門家の回答

ただ逮捕拘留されたというだけでは契約の解除は難しい。明け渡しを求めるならば本人との「合意解除」を優先。

「犯罪」「逮捕」と聞くと、その言葉のインパクトの強さから一方的な契約の解除も可能なように思えます。

しかし実際には、逮捕という事実だけでは、賃貸借契約を解除することはできません。

理由は、大きく2つあります。

・逮捕という事実だけでは、「信頼関係の破壊」があったとは見なされない。
・裁判で有罪判決を受けるまでは、当人は「無罪と推定される」。

この「相談デスク」では何度も登場していますが、賃貸借契約の解除には「貸主と借主の間の信頼関係の破壊」が必要です。

信頼関係の破壊とは、言うなれば「当事者間の信頼関係を破壊したと言える程度の債務不履行」のこと。たとえば長期間の家賃滞納だったり、契約とは異なる部屋の使用(無断転貸や使用目的違反、公序良俗に反する使用など)が行われたり、といった契約上の債務不履行が、この「信頼関係の破壊」に該当します。

ですが、ただ逮捕されたという事実は、この債務不履行に該当しません。即座に、契約に違反したとは言い切れないのです。

「でも、犯罪を犯したんだから、公序良俗に反する行為を行なったとして信頼関係の破壊を証明できるのでは?」

こうした意見ももっともですが、これと相対するのが近代法の大原則「推定無罪」の考え方です。

推定無罪とは、日本法はもちろん国際的にも幅広く採用されている「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という基本原則。

この原則の下では、どれほど疑わしい被告人も、有罪判決を受けるまでは無罪と推定されることになります。

つまり、まだ判決を受けていない「逮捕・拘留」の状態は「無罪」として扱われるのです。

 

よって、ただ逮捕されただけの入居者は、公序良俗に反する行為を行なった、とは言えません。

有罪判決を受けるまでは、その犯罪行為(公序良俗違反)が確定しないからです。

となると、公序良俗に反していない入居者との信頼関係についても、破壊されたと言うことはできません。

結果として、信頼関係の破壊が証明できない賃貸借契約は、貸主からの一方的な都合で解除することも不可能、となるのです。

 

また、そもそも入居者が起訴猶予処分や不起訴処分になったり、起訴されても事実として「無罪だった」という場合もあります。逮捕という事実に心理的な嫌悪感を感じることは仕方がありませんが、判決が出るまでは慎重な判断が必要と言えるでしょう。

まずは本人と面会し合意解約を。不可能であれば未払い賃料を理由に明け渡し。

逮捕を理由とした契約解除ができない以上、部屋の明け渡しを求めるならば、一日も早く本人と面会し、通常の解約手続きを進めることが重要です。

警察に拘留されている状態でも、関係者であれば本人と面会することは可能です。賃貸借契約書等を用意し、住居の貸主または管理会社であることを説明できれば、所轄の警察署で本人の拘置場所を確認できることが多いでしょう。面会時はそのまま手続きを進められるよう、解約合意書、退去精算合意書等を持参することをお勧めします。

なお、事件によっては「接見禁止」の措置が取られ、担当の弁護士としか会えない場合もありますが、こちらの意向を弁護士を通じて伝えることはできますし、書面を渡して本人に記入してもらうことも可能です。本人と合意すべき項目は、主に次の3つです。

 

1.賃貸借契約の解約の合意
2.部屋の中の荷物を連帯保証人や親族、知人などに引き渡す合意
3.敷金、原状回復費用、未払い賃料等の精算の合意

 

1はもちろんですが、意外と忘れがちなのが2の「残置物」の扱いです。この合意が取れないといつまでたっても部屋を明け渡させることができませんし、勝手に荷物を処分しようものなら、出所後に損害賠償を求める訴訟を起こされる可能性もあります。必ず合意した方法で荷物を撤去するようにしましょう。

また、3の精算については、貸主側で多少の譲歩が必要かもしれません。なぜなら、拘留・収監が長期化すれば、原状回復費用や未払い賃料の回収は実質的に不可能となってしまうからです。困難な債権回収にこだわって契約解除が延びるよりは、1日も早く新規募集を開始し、賃料が入ってくる状態をつくることを優先するべきでしょう。

問題は、本人が部屋の解約に合意してくれない場合ですが、どうしても明け渡させたいのであれば、賃料の不払いを理由とした明け渡し訴訟を起こすことになります。

その場合、必要となるのは3ヶ月分程度の滞納の事実です。賃料の不払いは、前段でお話しした「信頼関係の破壊」の要件となりますので、賃貸借契約の解除を求めることも可能です。

ただし、預金残高が十分にある口座からの自動振り替えがなされている場合などは、「そもそも滞納が起こらない」ということもありえます。その場合には、やはり根気よく合意解約の交渉を続けていくことになります。

「信頼関係の破壊」の判断は、入居者の犯した罪にも左右される

最後に、「賃借人が犯罪を犯したことを理由とした契約の解除」について考えてみましょう。

前述の通り、当事者間の信頼関係は「当事者間の信頼関係を破壊したと言える程度の債務不履行」によって破壊されます。要は、「債務不履行=契約した内容を守らなかった」という事実によって破壊されるのです。

これは言い換えれば、「賃貸借契約における約束事に関係のない行為は、信頼関係の破壊の要件とはならない」ことを意味します。つまり、賃借人が犯した罪の内容によっては、たとえ有罪判決が下ったケースであっても契約解除は難しいということです。

契約によっては、特約に「犯罪行為その他、公序良俗に反する行為をしてはならない」といった遵守事項を定めていることもあると思いますが、この条文についても一律に適用できるわけではないので注意が必要です。

具体的な例で考えてみましょう。

 

・部屋で大麻を栽培するなど、麻薬を製造していた
 → 部屋の用途の違反。また犯罪拠点となり他の入居者の生活の平穏を害しかねない。
 → 契約は解除可能と思われる

・傷害・殺人・放火等、他人に危害を加える罪を犯した
 → 他の入居者の生活の平穏を害しかねない。
 → 契約は解除可能と思われる

・窃盗・強盗など、他人の財産を盗む罪を犯した
 → 他の入居者の生活の平穏、他の入居者の生命・財産の安全を害しかねない。
 → 契約は解除可能と思われる

・交通事故で他人を死傷させた(自動車運転致死傷罪)
 → 部屋を借りる契約とは直接的な関係がない
 → 解除は不可能と思われる

・脱税の罪で告発された
 → 部屋を借りる契約とは直接的な関係がない
 → 解除は不可能と思われる

 

以上のように、犯罪行為を理由にして契約解除を求める場合、その犯罪によって賃貸借契約そのものに違反したかどうか、その契約を継続することで他の賃借人等に損害を与えないかどうかが判断の大きなポイントとなります。また、賃借人がその犯罪にかかわった程度によっても判断は変わってくるはずです。

これらの点からも、契約解除を求めるか否かの判断は慎重に行なうべきと考えられるでしょう。

契約上の義務違反の判断と、住まいを提供する者の役割

冒頭にも述べたとおり、「逮捕」という言葉には大きなインパクトがあります。

しかし、その逮捕という事実が、必ずしも賃貸借契約の継続の可否に直結するとは限りません。契約解除を求めるのであれば、賃借人が賃貸借契約上の義務に違反しているかどうか、また、その義務違反が当事者間の信頼関係を破壊せしめるほど重要なものであるかどうか、慎重に判断する必要があります。

何より、有罪判決が下るまでは、逮捕された当人は「推定無罪」です。逮捕という言葉の印象に惑わされることなく、まずは状況の正確な把握に努め、できることからひとつひとつ確認していきましょう。

また、賃貸経営者は人々の「住」を担う立場です。

凶悪犯罪者であればともかく、もしかしたら無罪かもしれないという人にとって、提供している住まいはかけがえのない生命線である可能性があります。

時には「罪を憎んで人を憎まず」と言いたくなるような、特殊な事情の絡んだケースもあるでしょう。貸主として、あるいは管理会社として、一律に対応するのではなく、どのような選択肢を選ぶべきか案件ごとにしっかりと考える必要があるのではないでしょうか。

※この事例は2013年6月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。


初回相談無料

ゴリラの顔相談してみるバナナ

この一歩から、未来を変える方法が見つかります

現状を変えたいけれど、
取り組むべき課題がわからない。
そんな時もぜひご相談ください。
オーナーズエージェントが貴社と一緒に、
課題を見つけ出し具体的な解決法を考えます。

メルマガ登録

無料セミナー情報や事例などをお知らせします

ゴリラ メルマガ登録する