査定ミスを防ぐ基本は「スタッキングプラン」の作成から
適正賃料を導く難しさ
サブリースでの管理受託時や、新築の提案時には大変重要となる家賃設定。
しかしながら、業界においては明確な根拠もないまま、曖昧に家賃が設定されていることが多いように感じます。
投資の成功を左右する重要なポイントでありながら、なぜ「なんとなく」家賃が決められてしまうのか。
その理由は、やはり「適正賃料」に正解がないからでしょう。
その時代、その市況によって、適正賃料はいくらでも変わります。
流行や景気や設備や立地、建材費や人件費、時には内閣総理大臣が誰か、ということによっても適正賃料は変わるかもしれません。
様々な要因が目に見えないところで作り上げる適正賃料をどうやって見つけるか――、査定担当の腕の見せ所であり、不動産会社・不動産投資家の永遠の課題です。
そして、その「感覚的」な部分で正解を探るが故に、一定の割合で査定ミスが発生します。
査定ミスが発生すれば、管理会社かオーナー、どちらかが不利益を被ることになります。
では、どうすれば査定ミスを少なくすることができるのでしょうか。
今回は、正しい賃料査定を行なうための代表的な手法をご紹介しましょう。
スタッキングプランの作成
まず賃料査定においてお勧めしたいのが「スタッキングプラン」を作成することです。
スタッキングプランとは、実際の建物の構造をデフォルメしたような、フロアごと・部屋ごとに切り分けられたフォーマットに、面積・間取り・賃料などの情報を落とし込んだ一覧表です。
新築分譲マンションの価格表などにもよく使われていますよね。
なぜスタッキングプランをお勧めするかと言えば、これが単なる一覧表より各部屋の配置や設定賃料の視認性が高く、直感的にイメージを掴みやすいからです。
ただの一覧表や、部屋それぞれで賃料を設定しようとすると、思わぬところで査定ミスを起こしやすくなります。
「なんだそんなこと…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、基本だからこそ省略すれば痛い目を見ることになります。
事例をひとつ紹介しましょう。
過去に、地方都市で賃貸管理を行なっているクライアントから「決まらない物件の空室原因を探ってほしい」と依頼されたことがありました。
その物件は全室が同じ間取り・同じ設備の2階建てのアパートで、にもかかわらず1階のとある部屋だけが半年以上決まらずにいるという話でした。
私が最初に考えた空室原因は、「そもそもの賃料設定が間違っているのではないか?」ということです。
さっそく、クライアントと一緒にスタッキングプランを作成してみると……、驚くべき事実が発覚しました。なんと、その物件は1階も2階も、すべての部屋の賃料がまったく一律に同じだったのです!
「なぜ、全ての部屋が同じ賃料設定なんですか!?」
「そりゃあ、全部屋が同じ設備仕様で同じ間取りなんですから、賃料も同じでないとおかしいでしょう」
確かにおっしゃることはもっともです。
しかしそれは、残念ながら机上でしか通ることのない道理です。
想像してみてください。
全ての部屋が同じ間取り、同じ設備、同じ賃料のアパートがあったとしたら、入居者はどの部屋から申し込みをするでしょうか。
おそらく、部屋は2階の角部屋から決まっていき、2階中部屋、1階角部屋という順番で決まっていくでしょう。1階の中部屋が一番最後まで残ってしまうのは想像に難くありません。
そして実際、問題の物件の「いつまでも決まらない部屋」とは、まさに1階の中部屋でした。この賃料設定の場合、2階の角部屋は相対的に安く、反対に1階中部屋は高いと判断できてしまうため、全体を満室とし、かつ目標とする全体の賃料収入を叶えたいのであれば、2階の角部屋と1階の中部屋に相当思い切った賃料差を設定するべきだったのです。
スタッキングプランを作らず、同じ間取りと同じ設備、そして「坪○万円」という材料だけで賃料設定をした結果が、決まらない部屋を生んでしまいました。
今となっては、全体の収入が目標を下回ることを承知のうえで、決まる金額まで1階中部屋の賃料を下げるしかありません。
部屋の位置を鑑みたうえでの賃料設定は、募集戦略上、非常に重要であり軽視できるものではありません。
また、適正賃料は法則性をもって一律に導けるものでもありません。
「高層階ほど賃料が高い」という王道がある一方で、一階であっても高齢者向けのバリアフリー仕様であったり、幼児がいる家庭向けに工夫がされていたり、ペットが飼える庭がついていたりすれば賃料は高くなります。
物件ごと/部屋ごとの特徴をよく勘案しなければ、適正賃料を導き出すことはできないのです。
そのほか眺望・方角・日当たり・嫌悪施設・オーナー住居との距離など、賃料差を生む要因は様々です。
スタッキングプランは、そうした要素を簡単にイメージとしてとらえられるようになる手軽な方法です。
つい「坪いくら」と一律に査定してしまう人も多いかと思いますが、是非一度スタッキングプランを使いながら賃料設定をしてみてください。
需要と供給のバランスが価格を作る。必要なのは「比較」すること。
家賃を設定をするコツは、結局のところ「比較」することです。
適正賃料という言葉を用いましたが、この世に「高くも安くもないちょうどいい値段=適正価格」の商品など存在しません。
その商品が選ばれるのは人々が「安い!」と感じる金額だからであり、その商品が選ばれないのは人々が「高い!」と感じてしまう金額だからです。
私たちは常に何かと比べながら「安い!」と思った商品を買っているのです。
ですから、部屋の賃料も同じです。
「たとえ、物件内最高値の賃料が設定されていようとも「安い」と感じる、2階角部屋の賃料はいくらか」
「たとえ、通行人の視線が気になる位置の部屋であろうとも「安い」と感じる、1階中部屋の賃料はいくらか」
入居者の気持ちになって考えていくと、自然と各部屋に適正な賃料差が生まれてくるでしょう。
面倒くさがらずにきちんとスタッキングプランを作成し、物件内の部屋と部屋とを何度も何度も比較しながら、是非それぞれの適正賃料を導いていただけたらと思います。
そして、比較するといえば、当社の推奨する『コンペア式賃料査定法』ですね。
適正賃料を導くには、もうひとつ「市場の中で適正かどうか」を考えなくてはなりません。
その場合、どのようにその「適正」を見つければいいのか?
次回はそのコンペア式賃料査定法についてお話したいと思います。