プロパティマネジメントの極意「物件の価値を上げる」ということ
プロパティマネジメントとは
私たちはよく「従来型のチンタイカンリを脱して、プロパティマネジメントを始めましょう」という話をします。
プロパティマネジメントとは、経営者的思考を取り入れた不動産管理手法のこと。
ただ「作業的」に物件の維持管理を行なうのではなく「経営的」に管理を行なう……、つまり、どうすれば儲かるのか、どうすればコストを小さくできるのか等々を考えた結果として、様々な管理業務を行なう管理手法です。
目的は、ずばり「オーナーの資産の最大化を図ること」。
もう少し噛み砕いて言うと、「そのアパートを儲かる物件に変身させること」でしょうか。
日本においては、不動産は年数が経つほどに価値を失っていってしまいます。
プロパティマネジメントは、その下落スピードを緩やかにする、あるいは、いっそ「価値を高める」ことを目的とした管理手法なわけです。
「そんなこと言ったって、新築当初ならまだしも、日本で築20年のアパートの価値が高められるわけないでしょ」
なるほど、確かにそういう見方もあるでしょう。
ですが今日は、少しだけ「物件の価値を高めること」についてお話をさせてください。
経営的に管理するなら「NOI」に着目しましょう。
物件の価値を高める話の前に、まずお金の話をしたいと思います。
やはり「経営」ですから、そのお金がどういう種類で、どういう意味を持つものなのか知っておかなければなりません。
なぜなら、「売上がたくさんあること」と「儲かること」とは違うからです。
たとえば、同じTシャツを1,000円と1,500円で売るとします。
それぞれ100枚ずつ売れると、売上は10万円と15万円です。
しかし、1,000円のTシャツは簡易包装と通販で1枚当たりの販管費100円、
1,500円のTシャツは実店舗でスタッフ2名が販売、梱包も凝っていて1枚当たりの販管費1,000円だとしたら、利益はどうなるでしょうか。
そう、9万円と5万円です。
同じ数だけ売れているのに、販売にかかる費用が高いせいで1,500円のTシャツのほうが「儲からない」のです。
さて、もうお分かりかと思いますが、賃貸経営においても同じことが起こります。
そのため、私たちは「家賃収入が多いかどうか」よりも「NOIが多いかどうか」に着目します。
NOI、ご存じですか?
もしご存じない方は、この機会に憶えていただきたいです。
NOIとは、日本語で言えば「営業純利益」のこと。
簡単に言えば、総収入から損失や経費を差し引いて残った利益です。
賃貸経営においては、「潜在的な家賃収入」から「空室損」や「修繕費」「清掃費」などを差し引くことで導き出します。
そして、このNOIを導かないことには、その物件が儲かっているかどうかを判断することはできません。
だから私たちは、家賃収入の多寡ではなくNOIに着目します。
いくら家賃収入が沢山あったところで、NOIが低ければ、それは儲かっていることにならないからです。
よって、プロパティマネジメントの目標「そのアパートを儲かる物件に変身させること」とは、「その物件のNOIを増やすこと」と言い換えられるでしょう。
NOIを増やすことこそ、物件価値を高めるための最大の手段なのです。
なぜ、NOIを増やすことが大事なのか
さて、NOIと物件価値の話をする前に、確認しておきたいのが「物件価格の算出方法」です。
私も取得している不動産資格「CPM®(米国不動産経営管理士)」の講義では、不動産管理の基礎として、物件価格を算出する「I÷R=V」という公式を学びます。
I÷R=V、それは、Income(収入)÷Rate(率)=Value(価値)です。
I(収入)は、年間の収入(NOI)(※)です。
R(率)は、そのエリアの利回りですね。「このあたりだと7%は欲しいね」などと言うアレです。
V(価値)は、その建物の価値。分かりやすく言えば売却時の値段です。
このあたりは、投資物件の売買を担当される方はよくご存じですね。
たとえば、年間収入が700万円のアパートがあったとして、そのエリアの利回りが7%なら、売却価格は1億円です。
I÷R=Vのとおり、700万円÷7%(0.07)=1億円と算出します。
利回りと金額の関係がピンと来ない方は、投資物件を扱う健美家や楽待などを見ていただけたら(※ただし、これらはNOIではなく総潜在家賃収入(表面)で計算をしています)と思います…が、この公式、私たちは売買よりも「管理」の実務をされるかたにこそ知っていてほしいと考えます。
なぜなら、「NOIを増やすことが物件価値を高めることにつながる」ことを如実に表す式だからです。
ひとつ例で考えてみましょう。
事例:メゾンHARADA
- 木造二階建て、総戸数:10戸
- 家賃:各戸6万円、満室想定で月60万円
- 稼働率:90%
- 管理費等ランニングコスト:年100万円
- エリアの利回り:7%
実際に分析する際はもう少し細かく計算をしますが、今回はざっくりと。
6万円10戸ということは、年間の総潜在収入は60万円×12ヶ月=720万円ですね。
稼働率は90%ですから、実際の家賃収入は720万円×90%=648万円となり、
NOIは、ランニングコストの100万円を引いて548万円と算出できます。
利回り7%ですから、これでNOIを割れば物件価格が算出されます。
548万円÷7%=7,828万円
このように、物件の価値が7,828万円と算出されました。
さて、このメゾンHARADA、オーナー様から
「どうにかして売却価格を8,000万円台にして売ってほしい」と頼まれました。
あなたはこのメゾンHARADAの「管理」の担当です。
売買の担当ではありませんし、経験もありません。
果たして、あなたにできることがあるでしょうか?
僅かなNOIアップが一気に価値を高める。
さて、先ほどの例題、いかがでしたか?
管理の現場では「この物件を○○万円で売るためには…」などと考えることはなかなかないと言いましたが、しかし、物件の価値を高められるかどうかの鍵は、実は普段の「管理」が握っていたりします。
8,000万円台にまで「資産価値を高める」ために、管理に何ができるのか――、
たとえば、そう、「年間100万円のランニングコスト」って少々お高いと思いませんか?
6万円10戸の木造二階建てアパートで、月々84,000円の維持管理費……、もう少しなんとかなりそうですよね。
清掃業者を変えたり、原状回復工事の業者や工事の部材を見直したりして、
年間6万円、月平均5千円の節約などは難しいでしょうか?
たとえば、稼働率90%。
原状回復工事期間の短縮やリーシングの強化によって、
稼働率を92%に高めることはできないでしょうか?
稼働率が2%増えれば、NOIは720万円×2%=14.4万円増加します。
ランニングコストの6万円の節約も、NOIを6万円増加させます。
合計で20.4万円。
現在のNOIである548万円に20万円足して、568万円。
さて、これを7%で割り戻すとどうなるでしょう?
物件価値はI(収入)÷R(率)で算出しますので、
568万円÷7%=8,114万円、……やりました! 見事、オーナー様の要求を達成しましたね!
NOIに注目する理由はここにあります。
7%のエリアなら、NOIを20万円アップするだけで、
物件価値は20万円÷7%=285.7万円もアップします。
年間20万円は、月々に直せば1万6千円。
月1万6千円の収支改善なら、「管理」の力でどうにかできそうな気がしませんか?
管理会社の役目は「ただ物件を維持すること」ではない
このように、数千万、数億という高額な投資物件取引も、実は日々の管理の積み重ねによってその価値が変動します。
「高く売るためにはリノベーションをしなければ」
「高く売るためには設備のグレードアップをしなければ」
もちろんそれらは正解ですが、それだけが答えというわけではありません。
管理会社はその意味に気づき、ただ漠然と清掃や修繕をするのではない、真にオーナーの役に立つ管理を始めるべきではないでしょうか。
オーナーの役に立つ、とは、オーナーを儲けさせる、ということ。
オーナーの味方として、あるいは頼れる相談役として、オーナーの傍らに立ち、その経営を手助けすることです。
今一度考えてみましょう、「日本で築20年のアパートの価値が高まるわけないでしょ」は、果たして事実ですか?
私は、価値を高めることは「可能」だと答えます。
オーナーの資産を最大化できるかどうかは、みなさんの改善提案にかかっています。
是非「プロパティマネジメント」の考え方を皆さんの管理業務に取り入れてみてください。