コンサルタントコラム

公開日:2018年9月20日

【コラム】リノベーションのやる・やらないは「10年平均利回り」で考える

【コラム】リノベーションのやる・やらないは「10年平均利回り」で考える
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【コラム】リノベーションのやる・やらないは「10年平均利回り」で考える

リノベーション提案を成功させるために

数ある空室対策の中でも、高い効果を期待できるのが「リノベーション」です。

しかしリノベーションの提案は、以前のコラムでもご紹介した通り、「価格が高い」「古い物件に再投資したくない」といった理由からオーナーに拒否されてしまいがちです。

とはいえ、

「お金がないからリノベーションはしたくない」

「リノベーションしないから空室が決まらない」

「空室が決まらないからお金がない」

「お金がないから…」

オーナーがこのような無限ループに陥っているとしたら、どこかでそのループから脱出させてあげなければなりません。

少しハードルの高いリノベーション提案、どのように実行したらオーナー様は首を縦に振ってくれるでしょうか。

お約束の「リノベーションしてくれたら僕が気合いで決めます!」ではなく、オーナー様にお金と数字でロジカルに納得していただくための基礎知識を学びます。

リノベーション提案は原状回復工事時が最適

まず、リノベーション提案がしやすいタイミングを外さないようにしましょう。

最適解は、ずばり「原状回復工事」のタイミングです。これを逃すと、「せっかく原状回復をしてきれいにしたのに…」という印象を持たれてしまい、どんな優れたリノベ提案も通りにくくなってしまいます。

また、工事費についても余計にかかってしまいますので、リノベーション後の利回りに悪い影響が出てしまいます。

もちろん、空室期間が長引くと決まったわけではない物件に対して「リノベーションをしないと決まりません」と提案しなければならない難しさはありますが、直近の契約の際の空室期間や、このまま貸し出した場合の家賃下落幅などを参考データとして提出し、リノベーションによって価値を回復するチャンスであることを理解してもらいましょう。

コストと収益から利回りを算出

次に、コストと収益を導いて利回りを算出しましょう。

たとえば、次のようなケースにおいては、利回りはどのように計算できるでしょうか。

メゾンHARADA 201号室のリノベーション

  • 提案対象は築25年の2DK、40㎡
  • 12年住んだ現入居者が退去。修繕の大方が貸主負担となり、原状回復費は50万円
  • 原状回復だけで貸し出す場合、賃料は100,000円
  • 和室⇒洋室への改装、1LDKへの間取り変更、キッチン入れ替えを提案。費用は180万円
  • リノベーション後の賃料は110,000円を想定
  • 空室期間短縮見込みは4ヶ月⇒2ヶ月
  • 物件全体の解約率は25%

2DKから1LDKへの間取り変更は、効果の出やすいリノベーションのひとつですね。1LDK需要は年々高まっていますので、費用をかけてでも挑戦するべきリノベーションです。

 

まずはコストについて考えます。

リノベーション費用は180万円となっていますが、ここでは原状回復費用50万円との差額でコストを考えます。なぜなら、リノベーションをしないとしても50万円は絶対にかかってしまうからです。

となると、再投資した金額は180万円-50万円=130万円と考えられます。こうしてコストを圧縮できる点からも、リノベーションは原状回復のタイミングで提案するべきです。

 

次は収益と利回りです。

リノベーションによって1万円の賃料上昇が叶うのですから、年間の収益は12万円となります。利回りの算出は年間収益÷コストでしたね。上述の通りリノベーションコストは130万円ですので、単純に利益をコストで割ると、利回りは9.23%と算出できました。

 

しかし、お気づきでしょうか。

この利回り、運営コスト等を考慮しない「表面利回り」ですよね。

私のコラムでは何度も「NOI」の重要性を説いてきました。今回ももちろん「NOI利回り」を算出しましょう。

これは大体の基準ですが、物件の総収入に対する運営コストは20%程度です。ここに空室率等を考慮すると、NOIは収入の75%程度ということになります。

(これをNOI率と言います。IREM JAPANでは全国でNOI率調査を行なっていますので参考にしてください)。

年間収益が12万円ですので、NOIは12万円×75%=90,000円です。これを130万円で割ると…、NOI利回りは6.92%と計算できました。

利回りの判断と10年平均利回り

さて、利回りが算出されたら、あとは「この利回りをどう考えるか」です。

原則としては、現物件の利回りとの比較で決めることになるでしょう。物件の利回りが5%であれば、より利回りが高くなるこのリノベーションをするべきですし、物件の利回りが10%なら、お金をかけてまでやるべきではない、という判断になると思います。

 

  リノベーションの利回り  現状の物件の利回り ⇒ やるべき!

  リノベーションの利回り  現状の物件の利回り ⇒ やる必要がないかも

 

ただ、リノベーションにおける利回りは、「12万円÷130万円」というような単純な計算だけで導かないほうが賢明です。

なぜなら、リノベーションの効果は賃料上昇だけでなく、賃料の維持や空室期間の短縮にも寄与するからです。

 

よって、私たちは「10年平均利回り」という考え方を推奨しています。

これは、リノベーションした場合としなかった場合、両者の10年間の収支をシミュレーションし、その10年間の収入差額を1年あたりの平均になおして、その金額で利回りを計算しよう、という考え方です。

 

  通常の利回り(単年度利回り)= 年間収益 ÷ リノベーションコスト

  10年平均利回り = 10年間の収益差額 ÷ 10年 ÷ リノベーションコスト

 

ひとつひとつ確認していきましょう。

■解約と契約の回数

まず、10年間の解約・契約の回数を考えます。

解約率は25%となっています。これは、100室あれば1年間に25室が解約する、という意味です。

この解約率で1年間という単位を割ると、1部屋あたりの契約期間が導けます。つまり、1年÷25%=4年間、がその部屋の平均契約期間ということです。

ということは、リノベーションをするにしろしないにしろ、10年間で3.5回の契約が発生することになります(10年÷4年=2.5回、初回を足して3.5回)。

そして、その契約(募集)のたびに「空室期間短縮」の効果が得られる、ということになります。

■空室短縮効果による収益

空室期間短縮の見込みは4ヶ月⇒2ヶ月、と2ヶ月の短縮です。

この2ヶ月の短縮の効果を10年間で3.5回得られるということは、10年間でリノベーション後の賃料110,000円×2ヶ月×3.5回=770,000円程度の収入増が見込めるということになります。

(実際には契約のたびに若干の賃料減額が発生すると思われるため、約77万円とお考え下さい)

■賃料維持による収益差

最後に、賃料の下落について。

賃料は、地域にもよりますが、平均で年間1%程度の下落率で下がると言われます。100,000円のお部屋であれば、1年後には99,000円になる、ということです。

ということは、このメゾンHARADAも、リノベーションしない場合は4年間の契約後に賃料が4,000円下がる、ということになります。4年後は96,000円、8年後は92000円です。ただし、4年後は築29年、8年後には築33年です。途中のリノベーションもないとなれば、家賃下落幅は4,000円では済まないかもしれませんね。

 

一方、リノベーションした部屋は、室内のほとんどが新築同様まで戻っていますので、賃料下落幅も少なくなると考えられます。4年ごとに2,000円しか下落しない、としても現実的な数字ではないでしょうか。

10年間の収益差額から平均利回りを算出

さて、いよいよ10年間の収入差額と平均利回りを算出します。

細かい計算の過程は省きますが、方法としてはエクセルに120ヶ月分の入力欄を2種類(リノベする/しない)作って、それぞれ集計するのでも構いません。「空室期間短縮」の効果、そして「賃料維持」の効果を考慮してざっくりシミュレーションしてみると、リノベーションしない場合とした場合とでは、10年間の収入はこのような数字になりました。

 

 リノベーションしない:約1070万円

 リノベーションする :約1259万円

 

差額は、およそ189万円です。1室でこれほどの差になるって、結構びっくりですよね。

ではさっそく、この数字を10年平均利回りの公式に当てはめてみましょう。

 

 10年平均利回り = 1890,000円 × NOI率75% ÷ 10年 ÷ 130万円

 10年平均利回り = 10.90%

 

というわけで、10年平均利回りは10.90%と導くことができました。

単年度の利回りは6.92%でしたから、利回りは1.5倍弱にもなったことになります。10年で見るとこれだけ違ってくるからこそ、私たちはリノベーションを単年度の利回りで見ることをお勧めしないのです。

 

さて、リノベーション提案の流れはなんとなく掴めたでしょうか?

NOI利回り7%程度では「悪くないけど、ちょっと微妙かな…」と言われるオーナー様も少なくなさそうですが、10年平均利回りで見てみると「やってみたい!」というオーナー様も出てくるかと思います。

また、ここでは計算に含めませんでしたが、「入居期間の長期化」「原状回復費用の節減」「広告費の削減」といった効果までシミュレーションに反映することができると、より現実的で、もう少し高い利回りを求めることができます。

リノベーションの契約は「僕が気合いで決めますから!」ではなく、「やったほうが賃貸経営が改善しますから!」と、データと数字を提示することで獲得していきましょう!

 

なお、次回は「儲かりそうなのは分かったけど、いま手元に180万円もないんだよね…」というオーナー様にどう提案するか、つまり、「ローンとリノベーション」についてお話しします。ご期待ください。


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