賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「外壁のクラックと浮き」です。
被害拡大を防ぐための点検ポイント
皆さまこんにちは、コンサルタントの山城です。
沖縄の賃貸管理会社に10年以上勤めた後、入居者対応や空室対策などの経験を糧に、現在はコンサルタントとして全国の賃貸管理会社に向けて情報発信および管理サポートを行なっています。
前回は外壁塗装の知識を皆さまにお伝えしましたが、外壁の点検では、塗装のほかにも注意したいポイントがあります。
そこで今回は、被害拡大を防ぐための点検のポイントを、外壁に現れる「見える異常」「見えない異常」のふたつの視点からお話していきます。
外壁の「見える異常」
外壁の「見える異常」としては、たとえば前回記事で紹介したチョーキングをはじめ、サイディングボードの変形、シーリング材の劣化など症状はさまざま。
そのなかでも特に注意してほしいのが「クラック」です。
ご存じの通り、クラックとは「亀裂」や「ひび割れ」のこと。目視点検で発見しやすい症状ですが、放置してしまうと雨水の浸入経路となり、建物全体に悪影響を及ぼしかねません。
クラックには大きく2種類があり、幅や深さによって「ヘアクラック」と「構造クラック」に分けられます。
油断はできないヘアクラック
ヘアクラックとは「髪の毛」ほどの細い亀裂のことで、幅0.3mm以下、深さ4mm以下のものを指します。
発生原因として最も多いのは、外壁に塗装されている塗料の劣化です。
まれに耐久年数よりも明らかに早い段階で発生してしまうこともありますが、その場合、たいていの原因は施工不良にあると考えられます。信頼の置ける業者に依頼するようにしましょう。
ヘアクラックは軽微な症状ですので、ただちに建物に影響を与えるわけではありませんが、補修や塗装のやり直しを行なう目安になります。
見つけた場合は放置せず、オーナーに報告した後、すぐに修繕計画を練っていきましょう。
危険な構造クラック
ヘアクラックに比べて緊急性の高い症状が、「構造クラック」です。幅0.3mm以上、深さ5mm以上のもので、地震などで発生することが多く、その名の通り建物の構造に直接影響を及ぼす恐れのある亀裂のことを指します。
外壁の下地から亀裂が生じている恐れがあるため、放置してしまうと建物全体の劣化や、建物強度の低下に繋がってしまいます。
最悪の場合は外壁が崩れ、大きな事故に繋がってしまう危険性もないとは言えません。
現に、2009年に沖縄県浦添市で起きたマンション2階廊下の崩落事故では、クラックを放置したために内部の鉄筋が雨水の浸入によって腐食、約15mにわたり廊下が崩れ落ちてしまいました。
構造クラックを見つけたときは速やかに業者の協力を仰ぎ、オーナーに対して補修工事の提案をしていきましょう。
また、物件巡回時は「クラックスケール」という道具を持ち歩くと便利です。
オーナーに報告する際に、クラックの幅や深さを正確に伝えることができますので、その後の補修の相談もスムーズに進められるかもしれません。
ちなみに、クラックによる建物被害の進行速度には地域差があります。
たとえば寒冷地ですと、クラックから染み込んだ水分が凍結と融解を繰り返し、コンクリートの劣化を早めてしまう現象が報告されています。
札幌市で2017年に、6階建てマンションの屋上付近にあった庇部分約30mが崩落した事故を覚えている方も多いかもしれません。幸いケガ人はいなかったものの、一歩間違えば大惨事になったのは間違いありません。
クラックを見つけた際は、できるだけ早期に対応するようにしましょう。
外壁の「見えない異常」
一方、外壁には目視点検では分からない「見えない異常」も隠れているものです。
その代表的な症状が「浮き」。外壁の下地から外装部分(タイルやサイディングボード、モルタルなど)が浮き上がっている状態で、たいていの原因は経年劣化か施工不良のどちらかです。
築古物件などで外壁の劣化が進行している場合、浮きは外壁のいたるところで発生している恐れがあります。1箇所で症状を確認できたら、ほかの箇所にも症状が隠れていると考えた方がいいでしょう。
また、浮きの発生で特に危険なのが「外壁タイル」です。
タイル目地の劣化から水分が浸入することで、下地から剥離したタイルが浮き上がってしまうのですが、サイディングボードなどと違い、外見では非常に分かりづらいという特徴があります。浮きが進行すると、低震度の地震でも剥落事故を起こしかねません。
事故を未然に防ぐためには、定期的な「打診調査」の実施が大切です。
打診調査とは、「打診棒」と呼ばれる道具を使って壁を滑らせ、音の変化によって隠れている浮きの症状を見つけようとする点検方法です。
打診棒
浮きが発生している箇所を打診棒で滑らせると、内部の空気層によって普通とは異なる軽い音がするため、問題の箇所を特定することができます。
補修方法は空気層の規模によって異なりますが、小規模であれば空気層に液剤を注入して固めることで外壁の剥離を防止することができます。
しかし、ひとたび規模が大きくなってしまうと、左官工事や削り工事などが必要になり、工事費用が高くついてしまいます。悪化する前に、日々の巡回で早期発見に努めることが大切です。
参考までに、弊社が提供している賃貸管理専門eラーニング「スターカレッジ」の打診調査の動画をご覧いただくと分かりやすいかと思います。
クラックにしても浮きにしても、外壁の劣化は早期の対策が明暗を分けることになります。
外壁の異常には「見えるもの」「見えないもの」があることに留意し、被害が大きくなる前に異常の早期発見・早期対策に努めましょう。