コンサルタントコラム

公開日:2023年12月7日

【コラム】「終身建物賃貸借契約」解説。賃貸人にもメリット、高齢者受け入れの選択肢に

【コラム】「終身建物賃貸借契約」解説。賃貸人にもメリット、高齢者受け入れの選択肢に
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賃貸管理の可能性に、挑む。

当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「終身建物賃貸借契約」です。

終身建物賃貸借契約はどんな制度?

「終身建物賃貸借契約」解説

進む高齢化、今や約3割が65歳以上

こんにちは、コンサルタントの萩原です。
2010年に高齢化率が21%を上回り、ついに超高齢社会となった日本。総務省によると、現在(2023年9月15日時点)の高齢化率はなんと29.1%、数にして3627万人に上り、総人口に占める高齢者の割合はさらに増え続けています。私たち賃貸住宅業界でも、将来の入居者募集・入居率の維持を考えるうえで高齢者の受け入れは今後ますます重要課題となってくるでしょう。

とはいえ、高齢者の受け入れは、賃貸経営にとって大きなリスクとなることもまた事実です。例えば、経済力や生活力の衰えが引き起こす家賃滞納やゴミトラブル、転倒・転落による事故、認知症の発症、孤独死など、高齢者には若者世代と比べて多くの不安要素が潜んでいます。もしオーナーに高齢者の受け入れを提案するとなった場合、管理会社としてはこうした高齢リスクの対策までサポートできた方が望ましいでしょう。

そこで今回、高齢者入居のリスクヘッジに役立つ制度として注目したいのが、終身建物賃貸借制度で定める「終身建物賃貸借契約」です。

終身建物賃貸借契約とは?

終身建物賃貸借契約とは、賃借権が相続されることなく、賃借人の死亡により終了する一代限りの賃貸借契約のことを言います。「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(以下、同法)に基づき2001年に創設された制度で、高齢単身者・高齢夫婦などが終身にわたって安心して暮らせる住宅の確保を目的としています。

高齢者が対象の制度ですので、終身建物賃貸借契約を結べる賃借人の年齢は60歳から。単身者だけでなく同居人の入居も可能で、賃借人の配偶者は年齢不問(60歳未満も可)、親族の場合は賃借人と同じく60歳以上が適用となります。

そのほか終身建物賃貸借契約では、普通建物賃貸借契約と同じく入居中の借賃増額請求権が認められています。ただし、契約の更新がありませんので、一生涯入居してくれる一方で、更新料が取れない点は賃貸人にとってのデメリットと言えそうです。

 

表.終身建物賃貸借契約と普通建物賃貸借契約の相違点

 

終身建物賃貸借契約

普通建物賃貸借契約

契約方法

公正証書等の書面

口頭でも可

賃借人の年齢

60歳以上
(同居配偶者は年齢不問、同居親族は60歳以上)

18歳以上

契約期間

賃借人の死亡まで

当事者間で定めた1年以上の期間または期間の定めなし

契約の更新

なし

正当事由がない限り更新

借賃増減請求権

請求できる
(特約で排除も可能)

請求できる
(特約で排除も可能)

賃借権の相続

なし

あり

賃借人死亡後、同居人の継続居住も可能

仮に賃借人が同居人を残して死亡した場合、同居人が賃借人の死亡を知った日から1か月以内は短期入居として当該住宅への居住が可能となります。さらに、短期入居の期間に同居人が申し出れば、新たに終身建物賃貸借契約を締結して継続居住が認められます。

この場合、同居人の年齢は問われません。加えて、申し出があった際に賃貸人が継続居住を拒否することはできず、前の賃借人と結んでいた契約と同じ条件で終身建物賃貸借契約(または、同居人次第で「期間付死亡時終了建物賃貸借※」も可)を結ばなければならない、とされています。(同法62条)

賃貸人側で契約方式を選ぶことはできませんが、同居人が新たな賃借人として一生涯にわたり居住してくれるうえ、原状回復費用なども発生しませんので、長く賃貸経営の安定化に役立つと言えるでしょう。

※期間付死亡時終了建物賃貸借とは、定期建物賃貸借契約と終身建物賃貸借契約を組み合せた契約方式で、定期借家の契約期間と死亡日の、いずれか早く到来した方を期限とする賃貸借契約のこと。(同法61条)

「終身建物賃貸借契約」解説

数十年分の賃料の一括受領も可能

終身建物賃貸借契約で特筆すべき特徴のひとつが、終身にわたって受領すべき賃料の全部または一部を「前払金」として一括受領できる点です(ただし、対象物件の工事完了前を除く)。

前払い金は、賃借人の年齢などから想定居住年数をもとに計算され、全額を一括払いすることもできますし、一部を先払いしたうえで少ない月額賃料を支払うといった併用も可能です。賃貸人にとっては、前払い金としてまとまった金額を最初に貰えれば、その後の家賃滞納リスクを大きく減らすことができるためメリットは大きいと言えるでしょう。

ただし注意したいのは、前払い金により賃料の支払いが終わっている状況で、想定居住年数よりも長く賃借人が居住するケースです。実はこの場合、想定居住年数から超過した分の賃料請求は残念ながら認められていません。毎月の共益費や追加サービスの費用請求こそ請求可能ですが、賃料自体はすでに支払い済みとされてしまうのです。

こうなると、賃借人が長生きすればするほど賃貸人側の損失も大きくなってしまいます。そのため、終身建物賃貸借制度では賃貸人の負担に配慮し、想定居住年数の超過をあらかじめ見越した上乗せ分を前払い金に加算することを認めています(計算式の詳細は該当の自治体にお確かめください)。賃料の前払いはメリットも大きいですが、実際にどれだけ貰うかは慎重に検討した方がいいでしょう。

中途解約する場合の条件は?

すでに述べたとおり、終身建物賃貸借契約は賃借人が死亡するまで賃貸借契約が続くことになりますが、下記のような一定の条件のもと、賃貸人・賃借人双方に中途解約が認められています。

【賃貸人からの解約】

  • 老朽や損傷などで住宅を維持できない場合、または復旧に過分の費用を要する場合
  • 入居者が長期にわたり居住せず、かつ当面居住する見込みがないことで、住宅を適正に管理することが困難な場合
  • 入居者の債務不履行や義務違反、その他社会通念に照らして公序良俗に反する行為などがあった場合

【賃借人からの解約】

  • 療養や老人ホームへの入所などやむをえない事情で居住が困難になった場合
  • 親族と同居するため、入居者が住宅に居住する必要がなくなった場合
  • 賃貸人が管轄の自治体から改善命令を受けた後、その命令に違反した場合
  • 解約期日が解約申入れの日から6か月以上経過する日に設定されている場合

原則は終身契約ですが、普通借と同じように信頼関係の破壊があった場合などは契約解除の道も認められています。もちろん、高齢リスクに対する備えは十分にしなければいけませんが、終身だからと警戒し過ぎる必要はないでしょう。

「残置物の処理に関するモデル条項」を取り入れ利便性アップ

このように入居者の死亡で自動的に終了する終身建物賃貸借契約ですが、一方で、契約は終わっていても入居者が物件内に残した残置物を勝手に撤去できないという別の問題がありました。相続の対象となる残置物は、相続人がいる場合は相続人に承継され、いない場合は相続財産管理人に管理処分を依頼することになります。

そのため、契約は終わっているにもかかわらず、残置物処理のために部屋の原状回復ができない・入居者募集を始められない、といった問題が生じ、結局のところ空室期間が長引いてしまっていました。

その打開策として、国土交通省の終身建物賃貸借標準契約に盛り込まれたのが、2021年6月に策定された「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。これにより、賃貸借契約時に推定相続人や連帯保証人などと残置物処理に関する死後事務委任契約を別途結ぶ内容が加わり、残置物がある場合でも、受任者によりスムーズに引き取りや処分ができるようになりました。

制度創設以来、あまり使われてこなかった終身建物賃貸借契約ですが、同条項のおかげでようやく利便性が増し、高齢者受け入れで活用したい契約方式として存在感を強めたように思います。

 

表.終身建物賃貸借標準契約にある残置物処理の条項

(残置物の処理)
第18条:残置物関係事務については、別紙契約目録記載の準委任契約(以下「残置物関係事務委任契約」という。)に定めるところによるものとする。

2:残置物関係事務委任契約が本契約の終了までに終了した場合には、乙は、速やかに、終了した残置物関係事務委任契約(以下この項において「終了した契約」という。)と同内容の契約を新たに締結するように努めるものとする。ただし、既に乙が終了した契約と同内容の契約を締結しているときは、この限りでない。

3:乙は、残置物関係事務委任契約が終了した場合及びこれらと同内容の契約を新たに締結したときは、甲に対してその旨を書面又は電磁的記録により通知しなければならない。

終身建物賃貸借の認可基準は?

「終身建物賃貸借契約」解説

面積・バリアフリー基準への適合が必要

制度を活用するにあたり、賃貸人は自治体に事業認可申請書を提出し、認可を受ける必要があります。認可対象は契約ごとではなく賃貸住宅ごととなり、制度上はアパート低層階や区分建物など戸当たりでの認可も可能です。また、認可を受けた賃貸住宅で高齢者以外と普通建物賃貸借契約を結ぶことも問題ありません。

認可対象の賃貸住宅には、下記のとおり一定の面積・バリアフリー基準に適合していることが求められます(2018年の法改正で緩和)。認可基準は自治体によって強化または緩和されている場合がありますので、事前に問い合わせた方がいいでしょう。

床面積の要件例

  • 戸当たりの床面積は原則25㎡以上。ただし、居間、食堂、台所、浴室など、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同設備がある場合は18㎡以上

新築住宅のバリアフリー基準例

  • 段差のない床構造
  • 廊下幅78㎝以上、居室出入口幅75㎝以上
  • 便所、浴室および住戸内階段に手すりを設置
  • 3階以上ある共同住宅はエレベーターを設置
  • その他国土交通大臣の定める基準に適合

既存住宅のバリアフリー基準例

  • 便所、浴室および住戸内の階段に手すりを設置
  • その他国土交通大臣の定める基準に適合

認可要件の参考例:東京都の場合

上記の認可基準や、認可を行なう主体(都道府県知事や市町村長)は各自治体によって異なります。終身建物賃貸借契約についてオーナーに提案する際は、事前に該当する自治体の手続きを確認しておきましょう。

参考までに、東京都では都知事と八王子市長の2自治体で認可手続きを行なっています。認可基準の概要は下記のとおりです(詳細はこちら)。

 

基準

規模

1戸あたりの床面積が原則25㎡以上(居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18㎡以上)。

※既存建物を改修して住宅を整備し、サービス付き高齢者向け住宅に登録する場合は、各住戸の面積基準を以下のとおり緩和。

  • 1戸あたりの床面積は25㎡以上⇒20㎡以上
  • 居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18㎡以上⇒13㎡以上

設備等

  • 加齢対応構造等が「高齢者の居住の安定確保に関する法律」の基準に適合する

賃料等

  • 賃料の全部または一部を前払金として一括受領する場合、金額の算定方法を書面で明示し、かつ必要な保全措置が講じる
  • 賃貸にあたり権利金その他の借家権の設定の対価を受領しない
  • 工事完了前に敷金を受領せず、かつ賃料の全部または一部を前払金として一括受領しない

終身建物賃貸借契約による7つのオーナーメリット

これまで長々と終身建物賃貸借契約の制度内容についてご紹介してきましたが、契約方式として採用することで、オーナーにはどのようなメリットがあるのでしょうか。下記は私の見解となりますが、主に7つのポイントが今後の賃貸経営の追い風になるのではないかと思われます。

①    終身にわたり入居してくれるため長期入居が実現しやすい

②    バリアフリー住宅として相場より高い賃料で貸せる可能性が高まる

③    若者世代に選ばれにくい築古物件などの入居率改善が期待できる

④    入居にあたり前払い金を貰うことで家賃滞納リスクを減らせる

⑤    原状回復がスムーズになり、解約後の空室期間の短縮が期待できる

⑥    高齢者の居住支援につながるため、オーナーの社会貢献が実現

⑦    契約中の死亡が前提となるため事故物件のイメージを持たれにくい

実際のところ、オーナーにはなかなかお勧めしにくい高齢者の受け入れ提案ですが、冒頭にも述べたとおり、少子高齢化は今後も一層加速するため、遅かれ早かれ高齢者の受け入れに目を向けざるを得ないタイミングが来るでしょう。
また、長期入居の優良入居者が年を重ね、高齢者へとなっていくパターンも考えられます。

高齢者の入居が避けられない現実なら、いかに受け入れをスムーズにするかいかに高齢リスクを減らせるかが今後の賃貸経営の重要課題です。さすがに終身建物賃貸借契約がすべてを解決してくれるとは思いませんが(実際に採用しているのはサ高住がほとんどで、一般の共同住宅は珍しいと言われます)、高齢者受け入れ策のひとつとして制度内容を知っておくことは必要です。今後、終身建物賃貸借契約の活用も視野に入れつつ、ぜひオーナーに対して先手先手の提案を心がけてみてください!


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