賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「SOHO」です。
SOHO解説、貸主のメリット・デメリットとは?
新たな働き方ニーズに応える契約スタイル
こんにちは、コンサルタントの知念です。
近年、働き方の多様化により、在宅ワークやリモートワークといった、時間や場所にとらわれない自由なワークスタイルが増えてきました。それに伴い賃貸物件でも、ワークスペースの設置、防音設備の充実化など、入居者ニーズに応える取り組みが加速しています。
そんな中、フリーランスや個人事業主の注目を集めているのが、住居でありながら仕事場としても活用できる「SOHO物件」です。
SOHOとはSmall Office Home Officeの頭文字を取った略語で、パソコンなどのIT機器を活用して、小さなオフィスや自宅で業務を行なう働き方のことを言います。仕事場と言っても契約形態は「住居契約」ですので、事務所契約と異なり、入居者は24時間いつでも業務のために部屋を利用することが可能です。
これまで貸しオフィスなどにかかっていた費用が減り、手軽に職住一体の働き方が実現できるため、入居者にとっては経済的で自由度の高い賃貸住宅と言えるでしょう。
事務所利用と捉えられる貸し方には要注意
そんなSOHO物件ですが、入居者募集に際して、どの業種でも入居を認めていいわけではありません。対象となり得る業種は限定的で、例えば、ライターやデザイナー、プログラマー、Web制作など、必ずしも事務所での来客対応を必要とせず、室内にいながら業務が完結する業種が適していると言えます。
というのも、SOHO物件はあくまで【住居】として利用が主目的となります。仮に入居の実態が事務所利用のみだったり、不特定多数の人の出入りがあったりするなど、入居者が「住居の範囲を超える利用」をしていた場合、行政などの調査が入ったときに【事務所】と判断される恐れがあります。そうなると、「建物の用途変更の許可を取らなかった」「消防法で定める必要な措置をしなかった」などと、オーナー自身も法的責任を問われかねません。
また、想定外の事務所利用は近隣入居者への迷惑にもなりますので、騒音被害や、不特定の出入りによる防犯上の問題など、賃貸トラブルに発展することも考えられます。入居者以外の来客をどの程度認めるかなど、細かなところは貸主借主の合意次第となりますが、客観的に見て用途違反と指摘されないような貸し方をした方が無難と言えるでしょう。
SOHOのメリット
貸主にとってのSOHOで貸し出す一番のメリットは、やはり入居率の改善にあります。募集時に「SOHO可」とすることで、一般の入居者だけでなく、フリーランスや個人事業主にも募集の間口を広げられるため、反響アップが期待できます。
また、事務所契約と比べても、SOHOは運用ハードルが圧倒的に低く手軽に始められる点も魅力です。
例えば、事務所契約にはそもそも建築基準法における「用途地域」の制限があり、事務所のみの賃貸ができない・事務所兼住宅で貸し出すにも面積要件があるなど、まずは運用できるかどうかを確認しなければなりません。
加えて、住居から事務所に切り換える際は、「建物の種類の変更登記」「火災保険の変更」「消防設備や点検項目の変更」などの手続きも必要となり、多くの手間がかかってしまいます。
SOHOでは、こうしたハードルがすべて不要となりますので、特別な準備をすることなく手軽に物件を貸し出すことができるのです。
オフィス | SOHO | |
契約形態 | 事務所契約 | 住居契約 |
不特定多数の出入り | 可 | 不可 |
賃料等の消費税 | 課税 | 非課税 |
建物の登記 | 事務所 | 居宅 |
火災保険の建物の種別 | 一般物件 | 住宅物件 |
SOHOのデメリット
とはいえ、事務所として利用する以上、たとえ契約時に「不特定多数の人の出入り」を禁止していても、実際にそのとおり使ってくれているとは限りません。蓋を開けてみると、想定以上に人の出入りが発生していたり、早朝深夜に音が響いたりと、入居者の契約違反によって思いがけないトラブルにつながる事態も考えられます。
入居者が「住居」としての利用の範囲を超えていないかどうか、完全には把握できないとしても、物件巡回の機会を利用するなどして定期的なチェックはすべきでしょう。
また、SOHOとして貸し出した結果、通常の居住用としての使用を超える損耗・毀損が発生する場合もあります。修繕の負担割合については、一般的に居住用と同様になりますが、不測の事態に備えて一定の損耗・毀損については借主負担とする旨の覚書を契約時に取り交わしておけるといいかもしれません。
コワーキングスペース、ワークスペース付きシェアハウスの導入も手
以上、SOHO物件について紹介してきましたが、その他にもテレワークなどの働き方ニーズに応える空室対策として、最近は「コワーキングスペース」や「ワークスペース付きシェアハウス」も人気を集めています。
コワーキングスペースとは、「Co(ともに)」と「Working(働く)」という英語を組み合わせた言葉で、利用者たちが同じ場所で机や椅子、インターネット設備などをシェアしながら仕事をする場所のことです。
オフィスとしての最低限のリフォームをしたり、業務に必要な備品を備え付けたりと初期費用がかかりますが、リピーターがつけば安定収入が見込めます。
一方、ワークスペース付きシェアハウスとは、シェアハウスのラウンジ内などにワークスペースを設けたシェアハウスのことを言います。近年増えつつあるシェアハウスの形態で、入居者にとっては外で貸しオフィスなどを借りる必要がないため経済的で、同じ住人と仕事場を共有することで人とのつながりを感じながら働けるメリットもあるようです。
このように、多様化した働き方ニーズに応える空室対策として、賃貸住宅でもSOHOをはじめさまざまな取り組みが始まっています。入居率の低下や長期空室などの課題を抱えているなら、運用面に気をつけつつ、新たな一手としてオーナーへの提案を検討してみてもいいかもしれませんね。