印象改善&入居者満足度アップに「IHクッキングヒーター」
4軒に1軒が導入、戸建て住宅で普及目立つ
オーナー提案のトークに役立つ小ネタ集「空室対策100選コラム」
今回、注目する空室対策は「IHクッキングヒーター」です。
IHクッキングヒーターと言えば、平面でスマートな見た目に、拭き掃除もしやすいといった機能面などから、内見時の印象改善や入居者満足度の向上にも効果的。コストも低く、キッチン周りのリフォームを行なう際には検討しやすい設備のひとつと言えます。
家庭用設備としての普及は2000年代に入ってからで、環境省の調査(※)によると、現在の普及率は25.9%(戸建て住宅33.4%、集合住宅17.0%)。およそ4軒に1軒はIHクッキングヒーターを使っていることがわかります。
特に戸建て住宅での導入が広がっており、若い世代の入居者ほど「ガスコンロよりIHの方が馴染み深い」「使い慣れていて安心」という声も増えてきているそうです。
※「令和3年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 資料編(確報値)」(2023年3月)
よくあるケースは「電熱コンロ」からの交換
そんなIHクッキングヒーターですが、導入を検討する場面としてよくあるのが「電熱コンロ」からの交換です。もともと電熱コンロがあったところにIHクッキングヒーターを設置するので、キッチンを交換する必要もなく、電源の確保も容易です。
加えて、いかにも古臭い電熱コンロでは、入居者に選ばれるどころか遠ざけてしまうことを多くのオーナーも分かっていますので、管理会社からの提案も通りやすいと言えます。
電熱コンロのある物件で原状回復工事などが発生した際は必ず提案するようにしましょう。
ガスコンロからの交換は非現実的
一方、管理会社の現場担当の方で、ガスコンロからIHクッキングヒーターに交換をした、という方は非常に少ないでしょう。
というのも、もともとガスコンロ用にガス管が通っていた場所のため、IHクッキングヒーターのためにわざわざ電気工事を実施するより、新しいガスコンロに交換する方が簡単で低コスト。加えて、ガスコンロに対する入居者ニーズも依然として高く、あえて取り替えるだけの理由もないからです。
こうした場合は、無理にコストをかけてIHを導入するよりも、どうにかして「コンロ2口以上」のチェックがつけられる製品に交換できないか、棚の設置等でキッチンの使い勝手を改善できないか、といった方向で空室対策を考えるほうが現実的でしょう。
火災リスクを低減、物件を火事から守るメリットも
ただし、それでもガスコンロからIHクッキングヒーターに交換するメリットがあるとすれば、それは火災リスクを抑えられる点です。
実際に「コンロ」を火元とする住宅火災は毎年数多く発生しており、総務省の消防白書(令和3年版)によれば、「タバコ」「たき火」に次いで3番目に多い出火原因となっています。さらに「コンロ」の内訳を見ると、ガスコンロからの出火は全2792件中2359件(約84%)と圧倒的多数に上ります。
また、ガスコンロの耐用年数は10年ほどですが、2008年以前の製品には安全装置が装備されておらず、2020年代後半にかけてガスコンロの火災リスクが一層高まることも指摘されています。
こうしたガスコンロの火災リスクと比較し、オーナーがIHクッキングヒーターにメリットを感じるようであれば、交換を勧めてみるのもいいかもしれません。ガスの扱いに慣れていない若者向け物件や、火の取り扱いに不安の出てくる独居高齢者向け物件などでは、意外と検討の価値のあるリスクヘッジ策です。
若者世代の支持で「希少価値」高まる可能性も
以上のように、ガスコンロからあえてIHにする選択肢は選びにくいところですが、上記の環境省の調査によると、賃貸住宅におけるガスコンロの普及率は81.9%。市場に提供されている物件のほとんどがガスコンロ物件ということになりますが、裏を返せば、IH物件は競合が少ないということでもあります。今後、IHが若者世代の支持を集めるようになれば、その希少性が賃貸経営に有利に働くこともあり得るかもしれません。
賃貸市場のニーズは時代とともに変わりゆくもの。先手を打った提案ができるよう、市場の動向を注視していきたいものです。