高齢者の需要を掴むための設備投資
バリアフリーが空室対策のカギに
オーナー提案のトークに役立つ小ネタ集「空室対策100選コラム」
今回、注目する空室対策は「バリアフリー」です。
日本はいわずと知れた超高齢社会。昨今は、団塊世代がすべて後期高齢者となって社会や経済に大きな影響を与えるとされる「2025年問題」があらゆる業界で取り沙汰されていますが、不動産業界も例外ではありません。
総務省によると、2024年の65歳以上の人口は3625万人と過去最多に。さらに、総人口に占める割合は29.3%とほぼ3割に上ります。
今後も高齢者人口が増加し続けることが見込まれるなか、賃貸経営においては高齢者入居者に訴求する「バリアフリー」物件運営が空室対策のカギになりそうです。
空室に「高齢者に優しい」付加価値を
ただし、いくら高齢者が空室対策のキーとなるといっても、「高齢者向け賃貸」「バリアフリー」といった対策に後ろ向きなオーナーは少なくありません。管理会社はこれらの対策を提案する前に、対象物件(オーナー)と高齢者との「相性」をきちんと見極めておく必要があります。
例えば、高齢者受け入れ・バリアフリーと、「1階の空室がなかなか埋まらない悩みを持つ不動産オーナー」は、相性の良い組み合わせです。
1階物件は若年層には不人気ですが、高齢者にとっては階段を上り下りする必要がなく、重い荷物の運びこみもしやすいなど、メリットの多い選択肢です。入居条件を緩和して高齢者向けに募集を行なうだけでも、苦戦する1階の空室を解消できる可能性は高まるでしょう。
さらに、バリアフリー工事を実施して、「高齢者にやさしい」という“付加価値”を生み出せれば、早期の成約や賃料の維持向上はいっそう現実的となります。
バリアフリーと言っても最初から大掛かりな工事を提案する必要はなく、まずはちょっとした段差に小さなスロープを付けたり、手すりを設置するなど、小さな工事から始めてみましょう。1階の部屋であれば、物件入口からアプローチ、共用玄関、部屋に至るまでの段差も少なく、オーナーの負担する施工費も最低限に抑えられるはずです。
ポイントは、それが小さな工事であっても、きちんと暮らしやすさに貢献する改良であること。
「バリアフリー」とは、高齢者や障害者が生活していくうえで、障壁(バリア)となるものを除去(フリー)して快適な生活を送れるようにする施策です。
部屋を見た内見者が「快適に暮らせそうだ」と感じる部屋になっていなければ、いくら工事をしたところで成約にはつながりません。
つまりバリアフリー工事は、工事の規模やかけたコストではなく、どれだけ住む人の視線で工事内容を考えられたかで成否が決まるのです。くれぐれも、廊下に手すりを1本付けただけでバリアフリーを謳うような、身勝手かつ中途半端な対策は避けるようにしてください。
補助金の活用も視野に
バリアフリー工事を検討するにあたって、立ちはだかるのがコストの問題です。
空室解消の可能性が高まるとはいえ、成約が約束されるわけではない以上、費用面で躊躇するオーナーも多いもの。しかしそんな時は、国や自治体の補助金が使えないか調べてみましょう。
例えば、国土交通省・経済産業省・環境省の3省連携で行われている「住宅省エネ2025キャンペーン」では、「子育てグリーン住宅支援事業」にバリアフリー工事に対する補助金が用意されています。
この事業は「省エネ」を主軸に置いているため、①開口部の断熱改修 ②躯体の断熱改修 ③エコ住宅設備の設置 のうち2つ以上の工事を行うことが要件となりますが、この必須要件さえクリアすれば、バリアフリー改修などの任意工事にも補助金が交付されます。
具体的な補助額は、手すりの設置に1戸あたり6000円、段差解消に7000円、廊下幅などの拡張に2万8000円、衝撃緩和畳の設置に2万1000円など。より大きな“付加価値”の獲得を目指して、補助金をもらいながら窓の高断熱化や省エネ設備の導入に挑戦してみるのも面白そうです。
このほか、市区町村が独自に補助金制度を用意している場合もあるため、オーナー提案の機会があった際は、物件所在地の自治体の施策を必ずチェックするようにしましょう。
また、過去にバリアフリー改修費の補助を行なっていた「住宅セーフティネット制度」の最新情報の確認もお忘れなく。
バリアフリー住居の代表的な設備/構造
全体:段差がない。車椅子でも移動できるくらいのスペースを有している。滑りにくい床材。
室内:引き戸。手すり。高さの調節できるテーブル。
玄関:スロープなど。
水回り:暖房設備。断熱設備。車椅子でも利用できる低めのキッチン。
屋外:車椅子でも移動しやすい舗装路。
施工例
手すりの設置
玄関や廊下、階段、トイレなど、不安定な体勢になりやすい・転倒しやすい場所に手すりを設置します。
本体価格は1mあたり約1~3万円。工事費は設置場所により異なります。
玄関の框への造作、スロープ設置
基本的には手すりの設置と、スロープによる段差の解消を行ないます。
玄関スペースに余裕がある場合には、プラスアルファで「壁付き折り畳み椅子」の設置を検討しましょう。靴の脱ぎ履きを椅子に座ってラクにできるようになるため、特に足腰に不安のある高齢の方に好評です。
ドア(開き戸)から引き戸への変更
ドアを奥や手前に動かさなければならない「開き戸」をやめ、車椅子や杖を使用する方にとって使いやすい「引き戸」へと変更します。ただし、ドア類は意外と値が張るため、コストコントロールに注意が必要です。
部屋・廊下間の段差解消
敷居の段差に小さなスロープを設置する方法と、床をかさ上げする方法があります。
段差が少ししかない場合は、既存のフローリングを残したまま上から新しいフローリングなどを重ね貼りすることで床に厚みが出て、段差が解消されるケースも。

キッチンや洗面台の交換
車椅子に乗ったままでも使用できるよう、高さや足元の空間が調節されたキッチン・洗面台があるのはご存じでしょうか。
キッチンは100万円から、洗面台は20万円からとコストはかかりますが、車いすの方を受け入れるのであれば是非検討したい設備。競合物件との差別化の効果も強力です。
ヒートショック防止
普段はあまり意識しませんが、室内の気温差(バリア)をなくし、ヒートショックを予防することもバリアフリーの一つです。
浴室暖房の設置や温水洗浄便座/暖房便座、トイレ用暖房等の設置によって、浴室やトイレの気温差の解消を図ります。
すぐ提案、チャンスを逃さない営業必携ツール

書籍『空室対策100選』発売中!
オーナーズエージェントでは、空室対策アイデアを100個つめ込んだハンドブック『空室対策100選』を好評発売中です。
営業社員に1冊持たせておくだけで、空室対策提案の採用率がぐんと高まります。オーナー提案ツールとして、この機会にぜひお役立てください。
●「バリアフリー」の掲載ページ(サンプル)
