「相談デスク」
このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。
業者到着前に解決した案件の業者出張料は誰が負担するべきなのか
入居者からのSOS!
管理会社としてはトラブルを迅速に解決する「腕の見せ所」ですが、時としてその手腕が振るわれる前に事態が解決してしまうケースがあります。
「すみません、自分でいろいろやっているうちに直っちゃいました…!」
おおごとにならなくて良かったと喜ぶべきところですが、しかし、それが事前に電話等で報告されているか・いないかによっては少々微妙な問題となります。
「出張料はどちらに請求すればよろしいですか?」と尋ねる業者に、我々はなんと答えるべきでしょうか。
相談ダイジェスト
- 入居者より「共用玄関付近に蜂の巣ができているので駆除してほしい」との依頼。
- 業者手配。連絡から5日後に業者が訪問。→ 蜂の巣は見当たらず。
- 連絡してきた入居者に確認したところ「友人が市販の殺虫剤で駆除してくれた」とのこと。
- 駆除作業の有無にかかわらず業者の出張料は発生してしまう。出張料は誰が負担すべきか?
専門家の回答
共用部不具合でありそもそもオーナー負担。不具合を教えてくれた入居者を責めることは難しい。
もしかしたらこの入居者に対して「余計なことをしてくれた!」と感じるオーナー様もいるかもしれませんが、少し落ち着いて考えてみてください。今回のケースは建物の共有部分で起きている不具合であり、もともとその修理費用は全額オーナー様の負担範囲です。確かに入居者から「こっちで駆除しました」の一言があれば何の問題もなかった話ですが、だからといって入居者に出張料を請求するのはお門違いです。
今回は「蜂の巣があると報告した人」と「蜂の巣を駆除した人」がほぼ同一だから少しモヤモヤしますが、では、
・101号室の人が”報告”をした。
・102号室の人が”駆除”をした。
…という状態だったら、どういう対応になるか想像してみてください。
きっと、駆除をしてくれた102号室の人に感謝したり、怪我はありませんでしたかと心配こそすれ、無駄になってしまった出張料を請求することはないのではないでしょうか。
また同様に、蜂の巣の存在を教えてくれた101号室に対して「102号室の人が勝手に駆除してしまったから業者の出張料を払ってください」とは、とても言えません。あくまで入居者は「共用部の不具合を教えてくれた」「共用部の不具合を解決してくれた」のであり、実際の駆除作業の有無にかかわらず、費用はオーナー負担と考えるところでしょう。
専有部の不具合も基本は同様。入居者負担は原因次第。
では、これが「共用部」ではなく「部屋のトイレ」だった場合はどうでしょうか。
入居者から「部屋のトイレの不具合を直してほしい」という要望があったものの、業者が到着したときには既に不具合が解消されていた、というようなケースです。
実はこれも、入居者の故意・過失が明らかでない場合には、オーナー側の負担となります。
居室の設備の不具合を直す場合、
・入居者の故意・過失による不具合 → 入居者負担
・入居者でも簡単になおせる不具合 → 入居者負担
・経年劣化等の避けられない不具合 → オーナー負担
という区分けはご理解いただけると思いますが、上記のように業者の到着前に不具合が解決してしまうと、何が原因の不具合だったのかの特定が非常に困難になります。
そのなかで入居者に「原因は故意過失ではなく設備不具合だった(オーナー負担で直すべき不具合だった)」と主張されれば、オーナー側としては反論のしようがありません。もちろん、理論上は「設備不具合だった」ということを入居者側に立証させる、立証できなければ入居者負担、という考え方もできなくはありませんが、法廷等で争った場合、昨今の消費者保護の観点からすると厳しい戦いになるのは目に見えています。
そのあたりの事情を鑑みれば、出張料は貸し手側で支払うのが無難、という結論になるのではないでしょうか。
とはいえ専有部。原因の特定と出張料負担確認が重要。
ただし、専有部の不具合に対する出張の場合、出張料がオーナー負担となるのは「入居者の故意過失かどうか明らかでない場合」です。つまり、
・入居者の故意・過失による不具合 → 入居者負担
・入居者でも簡単になおせる不具合 → 入居者負担
…という判定は変わりません。ですので、「トイレに異物を流した」など入居者の故意・過失が明らかな場合、あるいは「詰まりが発生し、業者を呼んだが、ダメもとでラバーカップを使ってみたら直ってしまった」という場合には、業者の出張料は入居者が負担することになります。
また、「業者を出張させるが、万一、修理の必要がなくなってしまった場合の出張料については、入居者が負担する」ということに入居者が同意をしていれば、入居者に出張料を請求することも可能になります。
なんにせよ、大事なのは発注前の見極めと、発注時の承諾です。
・不具合状況を細かく確認し、誰の負担の不具合かを見極める。
(入居者負担の不具合であれば、修理の有無にかかわらず出張料も入居者負担)
・修理が発生しなかった場合の出張料は入居者負担となる旨の承諾を取ってから発注する。
…といったルールを徹底することで、そもそものトラブルの発生数を減らすことができるのではないでしょうか。
※この事例は2015年1月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。