「相談デスク」
このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。
急にオーナーが亡くなった! 空室の契約は…どうしよう?
2月も半ばに差し掛かり、いよいよ繁忙期もクライマックスに突入ですね!
次から次へとやってくる解約連絡と新規契約。毎日がてんやわんやな会社様も少なくないかと思いますが、そんなときでも起こってしまうのが”ご不幸”の類です。
「えっ……、○○オーナーが……!?」
お世話になったオーナーのため、お花の手配なども必要ですが、賃貸不動産の仕事としても気を付けなければならない点が出てきます。この時期に特に気を付けたいこと、それは…。
「○○オーナーのアパート、ちょうど契約するところだったんだけど、どうしよう」
相談ダイジェスト
- オーナー様が最近亡くなられた。相続の手続き中で新所有者が確定していない。
- そんな中、オーナー様所有の空室のあたらしい入居希望者が出てきてしまった。
- 契約書の賃貸人の名義はどうしたらいいか?
- また、このような場合、募集は止めたほうがいいのか?
専門家の回答
遺産分割協議が調うまでは、不動産資産は相続人の共有状態。契約書の貸主欄は、全相続人が記名・捺印をするのが無難。
どれだけ円満に協議が進んでいたとしても、遺産分割協議が調うまでは、アパートなどの不動産は相続人全員の共有という扱いになります。
そのため、仮に相続人の一人がアパートを売却したいと主張しても、他の相続人(共有者)全員の合意が得られなければ売却できません。
民法 第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
民法 第251条(共有物の変更)
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
売却してお金に変える行為も「変更」という行為に当たります。同様に、アパートの空室について賃貸借契約を取り交わし、新たに賃貸収益が生ずるようにすることも変更行為ととらえられるため、相続人全員の合意のうえで契約を取り交わす必要があるのです。
もちろん、相続人全員の合意の上で「代表者」を選出し、その代表者に賃貸人となってもらって契約を取り交わすことも可能ですが、その代表者に法律行為をさせるためには、他の相続人からそれぞれ委任状を差し入れる必要があります。
委任状には、各人の署名と印鑑が必要です。
つまり、賃貸借契約書に署名・捺印させるのも、委任状を作って署名・捺印させるのも、かかる手間暇はほぼ同じなのです。
それならば、一見面倒そうに見えても、相続人全員を賃貸人として契約書を作成したほうが無難です。賃貸借契約後に分割協議が揉めて「やっぱり○○が代表者なんてダメだ!」なんてことになるリスクも防ぐことができるでしょう。
遺産分割協議の完了後は
ちなみに、遺産分割協議の完了後ですが、新所有者がはっきりしたからといって特に何かする必要はありません。更新時や再契約時に、新名義人で契約書を取り交わせば十分です。
なぜなら、不動産の所有権の移転に伴う貸主の変更は、借主の承諾を得る必要がなく、また法律関係についても、基本的には従来の関係がそのまま引き継がれるからです。賃借人に一言伝える・新名義人決定の通知文を渡す、といった対応をすれば十分に丁寧といえます。
空室の募集について
なお、募集行為そのものについては、相続発生直後はトラブルを避ける意味で、一時的に停止したほうがいいのではないでしょうか。 もし協議がまったくまとまらず、全員の署名・捺印が得られないとなれば、せっかく入居希望者が現れても賃貸借契約を成立させられないからです。
ただし、空室期間が長引くことは財産が減っていく状態でもあり、早く貸し出したいという相続人も多いと思います。 遺産分割協議が円満に進みそうであれば、前述の「全員記名・捺印」を前提に募集・契約を進めてもよいかと思います。
※この事例は2017年1月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。