「相談デスク」
このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。
やっと決まった長期空室物件に隠れた破損箇所!前入居者への追加請求は可能!?
3月の退去から気づけば半年。
このまま繁忙期まで難しいかなと諦めていた長空物件が、この季節にポンと決まると、担当としては非常に嬉しいものです。
ただしそれは、入居までに何も問題が発生しなければ、の話。
たとえば、「クリーニングも済んでいるけど、入居前にお部屋をチェックしておこう」と訪れた部屋のクローゼットに、巧妙に隠された大きな穴(の簡易補修跡)を見つけてしまったら…?
この修繕費用、誰に請求すればいいのでしょう。
相談ダイジェスト
- 6ヶ月空室だった部屋が決まったが、入居直前チェックで新たに破損個所(素人による補修個所)が見つかった。
- 退去時には発見できなかったが、明らかに前契約者の故意過失と思われる。また、張りぼてのような状態のため、このまま新契約者に貸し出すことはできない。
- 既に退去精算は済んでいるが、追加の修繕費用を前契約者に請求することは可能か?
- 請求する場合、振込期限などの目安はあるか?
専門家の回答
理論上は時効成立するまでは可能。しかし、一般的には「精算終了」の取り交わしをしているのでは?
民法の考え方をそのまま採用すれば、このような場合には貸主から前借主に対して追加の請求が可能です。
債務不履行による損害賠償請求権が時効となるのは、故意・過失による損傷が発生してから10年です。
しかし、賃貸管理の実務で考えれば、どうでしょうか。
皆さんが退去立会いや退去精算に用いている書面には
「この精算をもって貸主・借主とも、お互いに債権債務がないことを確認した」
といった内容の文言が書かれていていることが多いのではないでしょうか?
この文言の入った確認書を発行している場合、貸主・借主双方ともに請求権の放棄をしている(示談している)と見做され、貸主側から追加の請求をすることは難しくなります。
まずは自社で使用している精算書・精算同意書の類をご確認ください。
ですがもし、ご使用の書面に上のような文言が入っていなければ、追加の請求は可能です。
この案件の場合、破損個所を隠すなど借主に後ろめたい気持ちもありそうですので、借主に支払いをさせるプロセスも容易そうです。
請求放棄の文言は入れるべきか入れないべきか
追加請求の可否を決める請求放棄の文言ですが、追加請求できるからといって記入しなくていいものでしょうか。
気になるのは、逆のパターンです。
つまり、貸主側から請求できるということは、借主側からも数年経ってから「あの時の精算、払い過ぎがあったから返してほしい」と主張できてしまうということに他ならないのです。
ガイドラインの浸透に加え、数年後には民法改正も控えた現在、原状回復費に関する「返還請求ガイド」もインターネット上にあふれています。
思い出したように原状回復費用返還の請求をされるよりは、きちんと「精算完了」を示し、後々のリスクをなくしておくほうがいいのではないでしょうか。
弁済期は自由に設定。実務上は1週間程度先を指定では
退去精算を「解約した日から30日」「60日」などと契約書に記載しているケースは多いと思いますが、追加請求に関する規定を定めている契約書はないでしょう。
契約書に時期の記載がない場合、つまり弁済期の定めがない場合には、請求があった時に弁済期が発生することになります(民法412条3項)。
よって、請求書が相手方に届いた日イコール支払期日となります。
ただし、即日の支払いを求めることは、あまり現実的ではありません。
実務上は、請求日から1週間程度先の日を振り込み日として定める等、ある程度の時間的猶予を持たせた形になるのではないでしょうか。
※この事例は2013年5月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。