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設備の故障を理由にした「家賃を下げろ」には応じるべきか?

2018.05.16
  • 相談デスク

    「相談デスク」

    このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。

    設備の故障を理由にした「家賃を下げろ」には応じるべきか?

    どれだけ気をつけて対策をしても、ゼロにすることができないのが「設備の故障」です。

    エアコン、ビルトインコンロ、給湯器、洗浄機能付きトイレ、浴室乾燥機…、一昔前に比べると賃貸住宅には非常に多くの「設備」が付属するようになりました。それはつまり、これら設備がすべて十全に使えて初めて「家賃〇万円」の価値となったことを示しています。

    その結果、賃貸住宅では徐々に「設備故障」を引き金としたトラブルが増えつつあります。

    特に給湯器やエアコンの故障は、借主の生活に大きな影響を与えるだけに、揉める比率が高めです。

    相談ダイジェスト

    • 築12年の物件に新規契約。入居して3日目に給湯器が壊れたと連絡が入った。
    • すぐに業者を手配したが、交換が必要であり、復旧には5日を要するとのこと。
    • その場で銭湯代を実費負担することは約束したが、後日「毎月の家賃を5000円下げろ」との要求が。
    • この要求は拒否して問題ないか? また、これが「今月の家賃だけ」だったらどうなるのか?

    専門家の回答

    毎月の家賃の減額要求は受け入れる必要なし。ただし、給湯器が使えなかった期間についての家賃減額要求には、特に民法改正後は対応が必要。

    まずはっきりさせておきますと、故障した給湯器が交換され、きちんと使える状況に戻った以上、契約した賃料を毎月5000円も下げる理由はどこにもありません。

    これがもしも、「故障した給湯器を修理せず、そのまま貸し出した」というケースなら、毎月の家賃を減額する要求は受け入れざるを得ないでしょう。

    しかし、多少の時間はかかっても給湯器は交換されて、部屋の利便性は契約時点の状態に戻っています。他の設備や部屋自体についても、入居から数日しか経っていないことから、老朽化して価値が落ちているということもありえません。入居していきなり給湯器が壊れ、風呂に入れない生活になった…、その不便さからの憤りは分からなくもありませんが、だからといって不当な家賃減額を要求できるかというと、答えはノーです。

    今回のケースでは、給湯器が壊れて使えない間の銭湯代(実費)を貸主側で負担していますし、実務においてはこの実費と謝罪、ご迷惑をおかけしたとして菓子折りをお渡しするくらいが落としどころかと思われます。

    また、「現金による補償」を求められたとしても、さほど高額にはならないはずです。この補償額の計算については、次のパラグラフで解説します。

    設備が使用できない状態を「家賃減額」で補償するなら。

    では、入居者の要求が「今月の家賃を減額しろ」であった場合はどうでしょうか。

    貸主は借主に対して「通常の使用ができる状態」で部屋を貸す義務を負っています。これを家賃7万円の賃貸借契約に当てはめるなら、部屋や設備が1ヶ月間「通常の使用ができる状態」となっていて初めて7万円という対価が発生する、と言い換えることができるでしょう。

    つまり、部屋にまったく住めない状態が半月続いたとしたら、家賃は半額の3万5000円。

    まったく住めない状態が1ヶ月続いたら、家賃は0円となる、と主張されても仕方がないことになります。

     

    この点については、民法第611条にて規定があります。

    第611条
    賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。

    よって、入居者が給湯器の使用できなかった期間に対して賃料の減額を請求することは「適法」ということになります。

     

    さて、次の問題は、家賃の減額請求を受け入れるとして「いくら減額するべきか」ですね。

    「部屋自体が使えない」なら話は簡単なのですが、「給湯器だけ使えない」という状態が果たして何円分になるのか、となると、なかなか判断が難しいところです。

     

    具体的な数字が示せない以上、最終的には貸主と借主の間で金額の合意をするしかないのですが、これについては、日本賃貸住宅管理協会が示した「賃料減額と免責日数の目安」が参考になるでしょう。

    【賃料減額と免責日数の目安】










    状況賃料の減額割合(月額)免責日数
    トイレが使えない30%1日
    風呂が使えない10%3日
    水が出ない30%2日
    エアコンが作動しない5,000円3日
    電気が使えない10%2日
    テレビ等の通信設備が使えない10%3日
    ガスが使えない10%3日
    雨漏りによる利用制限5~50%7日

    計算方法は、

    (賃料 × 減額割合)÷ 当月日数 ×(使用できなかった日数 - 免責日数)

    です。

  • 1ヶ月のうち何日使用できなかったのか
  • その設備故障は、家賃に対してどの程度の割合を占めるのか
  • 修理するまでにかかる期間はどれくらいか
  • という3つの視点から、家賃減額の金額を算出するのです。

    今回は「賃料7万円の部屋」で「給湯器の故障(風呂が使えない)」という状態が「5日間」発生していますので、この状況と上の目安表の数字とを組み合わせると…、

     

    (賃料 × 減額割合)÷ 当月日数 ×(使用できなかった日数 - 免責日数)

    =(70,000円 × 10%)÷ 31日 ×(5日間 - 3日間)

    =7,000円 ÷ 31日 × 2日間

    =約451.6円

     

    …という計算となります。

    450円で入居者は納得するか? 法と実務の落としどころ。

    さて、このように家賃減額の金額が算出されたわけですが、管理会社の皆さん、この451.6円という数字にどんな印象を受けましたか?

    多くの方が『この金額では入居者は納得しない』と感じたのではないでしょうか。

    ちなみに、目安表の中の「免責日数」とは、「迅速に修理・交換がされたとしてもかかってしまうだろう日数」を示しています。仮に、この免責日数を除いたとしても、計算結果は1,129円。おそらく入居者の求める金額は、もっと高いことでしょう。

     

    入居者の口にする『補償』という言葉には、設備の不具合で嫌な思いをしたことに対する金銭、つまり慰謝料の意味合いが含まれています。正当な補償額との乖離の正体はこの部分です。

    しかし、『補償』とはあくまで実損分の補填です。入居者の心情もわからないではないですが、「設備故障」について厳密に金額化すると、意外と小さな金額となってしまうことが少なくありません。

    故に冒頭では、「実務の上では、丁寧な謝罪と銭湯代の実費、菓子折り程度が妥当」と書きました。私たち貸し手の誠意とは、迷惑をかけたことに対する謝罪と迅速な修繕以外になく、それ以上を金銭で解決しようとすると余計に事態がややこしくなります。

    たとえ慰謝料を要求されたとしても、「嫌な思いをしたという気持ちにこちらで値段をつけるような失礼なことはできない」と考え、時にはそれをそのままお伝えし、慰謝料と補償とをきちんと切り分けた対応をとることが望ましいでしょう。

    改正民法下では、家賃は当然に「減額される」へ

    設備故障と家賃減額との関係について、注意しておきたいのが「民法改正」です。

    2020年4月1日から施行される改正民法では、先ほど紹介した民法第611条の規定が変更されています。

    民法第611条 改正後

    (1) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

     

    現行法では「賃料の減額を請求することができる」としていたものが、改正後は上記の通り「割合に応じて、減額される」へと改正されてしまいます。これにより、「家賃減額」という対応が今よりも増えることは間違いないでしょう。加えて、

    『実は、先月ずっとエアコン壊れてたんですよね。先月分の家賃、5,000円減額してくださいよ』

    …といった、真偽の分からない減額要求が出てくる可能性もあります。このあたりは契約書に条文を加えるなどでコントロールする必要がありそうです。

     

    なお、国交省が2018年3月に発表した「賃貸住宅標準契約書」にも、この改正を見据えた賃料減額に関する条文が加わっています。

    第 12 条(一部滅失等による賃料の減額等)

    本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。

     

    こちらでは話し合いで減額割合を決めるかたちですが、実務では金額や期間をもう少し縛っておきたいところです。たとえば、「乙は使用不能を知ってから〇日以内に甲に申し出る」などの条件をつけ、多額の請求をされない工夫をするべきでしょう。

     

    ※この事例は2017年7月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。

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