害虫を駆除したものの、再発。貸主責任はどこまで?
この世界の至るところにいる「虫」。それは私たちの暮らす住居も例外ではなく、ときに「害虫」として人間の生活を脅かすことも珍しくありません。
では、賃貸住宅で入居者から害虫被害が報告された時、管理会社やオーナーはどのような対応を取ればいいのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 敷地内のツバキからチャドクガが大量発生していると入居者から連絡
- 業者を手配したものの、すぐに再発
- 貸主としてどこまで対応すればいいのかと相談
- 同じく害虫被害として、ハチに巣を作られた時の対処法も教えてほしい
専門家の回答
害虫被害は貸主責任。迅速な対応で入居者への被害をくい止める
結論から言いますと、共用部における害虫被害は、戸建て住宅や借主の過失を問えない場合を除いて、原則として貸主側の負担で対応する必要があります。
というのも、入居者と賃貸借契約を結んでいる以上、貸主には、入居者がそこで平穏無事に生活できる住環境を提供する義務があるからです。
※ただし、ゴキブリ被害など専有部の害虫被害については借主責任を規約で定めている場合が大半です。
今回のケースでは、チャドクガの大量発生に対して貸主側で一度は対応したものの、駆除が不十分だったため再発してしまいました。
当然、状況は改善されていませんし、その後の対応が不十分だったり、害虫被害が原因で入居者がケガをしたりすると、二次クレームや早期の退室に繋がる恐れもあります。被害が収まっていない以上、貸主責任で駆除を再度行ない、入居者の生活を守らなければなりません。
それに、今回のケースで問題になっているチャドクガは、毛虫とはいえ馬鹿にはできません。毒針が風にのって皮膚や洗濯物などに付着し、刺さると炎症を起こすこともある危険な虫なのです。
ひとたび大量発生すると、連絡をくれた入居者だけでなく、近隣にも被害を及ぼす恐れもあります。再発した以上、業者側が発生源を見誤っている可能性も考えられますので、対策をしっかりと話し合い、次こそ確実に駆除したいものです。
チャドクガと同様に、入居者にケガを負わせる危険な害虫被害として「ハチの巣問題」があります。
住宅の場合は軒下やベランダ、窓の戸袋などに巣を作られてしまうケースが多く、毎年夏ごろが被害のピークになります。
貸主側としては、まだ巣が小さかったり、ハチが見当たらない空の巣の場合は入居者自身で解決してもらいたいところですが、そうはいきません。入居者を守るため、万が一を見越した貸主責任による速やかな駆除が求められます。
◆油断はできないアシナガバチ
ハチの巣問題でよく聞くのが、アシナガバチ。市街地ではお馴染みのハチで、6~8月頃に活発化します。
毒性はスズメバチに比べて強くないと言われていますが、場合によってはアナフィラキーショックを発症することも。また、刺された時の痛みは強烈で、スズメバチと同じく注意が必要です。
入居者から連絡があった場合は業者に駆除をお願いした方が無難でしょう。
ただ、「アシナガバチ程度なら」と定期清掃の一環で駆除してくれる清掃業者もいるものです。もし入居者が待ってくれるようなら、清掃に合わせて駆除もしてもらい、コストを押さえるのも一手です。
◆迷わず駆除したいスズメバチ
ご存知の通り大変危険な害虫スズメバチ。なかでも、スズメバチ類の一種である「キイロスズメバチ」は、ハチの巣問題で最も被害件数が多いことで知られています。性格は凶暴で攻撃性が高く、少しでも巣に近付こうものなら容赦なく攻撃されてしまいます。
また、放置したことで入居者や通行人がケガをしてしまった場合、大げさではなく死に至る危険がありますし、過失を問われて医療費や慰謝料を請求されることも考えられます。
事故が起きる前に、速やかに駆除しなければなりません。
◆公的支援も視野に
ところで、物件が所在する自治体によっては、ハチ駆除業者を手配してくれたり助成金を用意していたりする場合もあります。
そうした公的支援があるのなら使わない手はありません。まずは入居者から自治体に連絡してもらうようにお願いをしてみるのも手。あるいは管理会社から自治体に相談してみてもいいでしょう。
ただし、あくまで役所の業務の範囲内で行なわれるもの。デメリットとして「平日しか受け付けてもらえない」「申請に手間がかかる」といったことがあるので注意が必要です。
◆害虫被害は予防が大事
ひとたび発生すると入居者や近隣に被害を及ぼす害虫被害。
一番の対策は被害を未然に防ぐ予防策に力を入れることです。今回のチャドクガの場合ですと、敷地の植木(ツバキやサザンカなど)に棲みつく毛虫ですので、枝葉の剪定や毛虫予防の薬剤散布が効果的でしょう。
また、ハチの巣問題ならハチ除けの殺虫剤を定期的に散布するなどして、前もってハチが近寄らない環境づくりをしておくことが問題の予防に繋がります。
場所が室内などの専有部だったり、入居者の持ち込んだ植物などが原因だったりしない限り、共用部の害虫被害対策は貸主負担でやるべきもの。入居者満足度の低下や近隣への被害拡大を防ぐために、発見次第すみやかに対応しましょう。
加えて、害虫被害は「発生させない」ことが一番の解決策です。
できる範囲で予防に取り組み、被害が大きくなる前に手を打っておきたいものです。
※この事例は2020年8月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。