
設備故障ではない不具合で「家賃減額だ!」入居者の要求に管理会社はどう応える?
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「相談デスク」
このコーナーはベーシックサポート会員様から実際に当社へご相談いただいた内容を、解決策の一例として公開していく企画です。
室内の蟻と異臭。家賃減額は絶対?

いったん始まると揉めやすい入居者からの「家賃減額」交渉。
デリケートな問題だけに。果たして家賃減額に応じる必要があるのか、もし応じるならいくら減額すればいいのかと判断に迷うことも多いのはないでしょうか。
不具合がエアコンの故障なら?
ガスや電気が使えなくなったり、雨漏りが起きていたりしたら?
今回寄せられた相談によると、減額を要求する入居者が訴えた不具合は「室内に蟻が入ってくる」「洗面所で異臭がする」というものでした。
相談ダイジェスト
- 入居者から「室内に蟻が入ってくる」「洗面所で異臭がする」とクレーム
- 管理会社が対応したものの、迷惑を被ったので「家賃を減額しろ!」と要求された
- 入居者の要求に従い、貸主は家賃を減額しなければならないのかと相談
- もし家賃を減額することになった場合、どの程度が妥当なのか
専門家の回答

「使用収益」が争点となる家賃減額
蟻の侵入や異臭が入居者の反発を買うのは当然のことですが、だからといって、貸主は必ず家賃を減額しなければならない——ということにはなりません。
家賃減額の対象となるのは、賃貸借契約の目的が適切に達成できない場合に限られるからです。
民法では、借主の故意・過失により生じた不具合を除き、「賃借物の一部が滅失その他事由により使用及び収益することができなくなった場合」(第611条)、不具合の割合に応じて家賃は減額されると定められています。
今回、建物の構造的な問題で上記の不具合が見られたわけですが、入居者の「気持ち悪い」「くさい」といった感じ方だけで、客観的に見て居住に著しい問題が見られないのであれば、使用収益を難しくする実質的な損害とは言えません。
お部屋の使用収益に直接的な制約が見られない以上、家賃が当然に減額されることはないのです。
貸主側の対応に不手際があり、その点について入居者様がお怒りなのであれば、誠意をもって謝罪すべきでしょう。
加えて、謝罪時に「ご迷惑をおかけしました」と商品券や菓子折りを添えるなどすれば、入居者も納得しやすく、より早く解決できるはずです。
一方、家賃減額はあくまで法的根拠に従って実施するものになります。借主に要求されたからといって必ずしもその通りにする必要はありませんので、慌てず、粛々と問題解決を図りたいものです。
家賃減額の根拠「民法611条」の改正点
ところで、家賃減額の法的根拠となる民法611条ですが、2020年施行の民法改正により次のような変更がありました。
《民法611条の改正》 【旧】賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは 【新】賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、
【旧】賃料の減額を請求することができる 【新】減額される |
このように、限定的だった旧民法に対して、改正民法では滅失だけでなく「使用及び収益をすることができなくなった場合」を盛り込んだほか、賃料が当然に「減額される」と定めています。
実際に減額を求める裁判に発展した場合、「どのような被害があったか」を証明するのは借主の責任となりますので、一概に借主有利の改正とは言えませんが、使用収益を損ねると当然に減額される時代になったことは念頭に置いておくべきでしょう。
家賃減額となるケースと減額割合
では、どのようなときに家賃が減額されるのでしょうか。
また、実際にどの程度減額したらいいのでしょうか。
上記のように民法では、使用収益できなくなった場合と定めていますが、減額される割合については詳細な規定を設けていません。
あくまで貸主と借主双方の合意に基づいて、その都度納得できる減額割合を見つける必要があるのです。
そこで減額割合を決める際の参考にしたいのが、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が作成した「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」です。
ガイドラインでは、不具合の種類を「ライフラインでまとめたA群」「具体的な状況でまとめたB群」のふたつに分け、家賃の【減額割合】と【免責日数】をそれぞれ定めています。
《A群》
状況 |
減額割合 |
免責日数 |
電気が使えない |
40% |
2日 |
ガスが使えない |
10% |
3日 |
水が使えない |
30% |
2日 |
《B群(A群のいずれにも該当しない場合)》
状況 |
減額割合 |
免責日数 |
トイレが使えない |
20% |
1日 |
風呂が使えない |
10% |
3日 |
エアコンが作動しない |
5,000円(1ヶ月あたり) |
3日 |
テレビ等通信設備が使えない |
10% |
3日 |
雨漏りによる利用制限 |
5~50% |
7日 |
ガイドラインを使用する際は、まず不具合の状況がA群のいずれかに該当するかを確認し、該当しない場合、B群の当てはまる状況に従って減額金額を日割り計算で算出することになります。
計算式は、たとえば家賃【100,000円】のお部屋でガスが【6日間】使えなかった場合、
家賃100,000円×減額割合10%×(6日―免責日数3日)÷月30日=1,000円 |
つまり、不具合があった月の家賃は通常のものから1,000円を引いた99,000円になるわけです。
とはいえ、ガスが6日間も使えなくなったにもかかわらず、たった1,000円の家賃減額で入居者が納得するかといえば、なかなか難しい話ですよね。
日管協も、ガイドラインはあくまで減額の目安を示しているだけと断っているように、どのように問題解決に至るかはケースバイケースです。
上にも挙げましたが、入居者に謝罪するときは商品券や菓子折りをお渡ししたり、ガスが使えない間は銭湯を利用していたのであれば、その実費分を負担したりするなどして、現実的な解決策を模索していきましょう。
また、計算式にある免責日数というのは、家賃の減額割合に含めない日数で、それぞれの不具合に対して物理的に代替物の準備や業務の準備にかかる時間となります。
不具合を改善するために、貸主がすでに業者を手配するなどの対応を取っていても、改善までにはどうしても時間がかかるものです。
そうした貸主側の準備期間について、義務を果たそうとしている貸主に対して借主側でも許容すべき日数として目安の期間が設定されています。
とはいえ、業者への発注を考えると貸主にとって免責日数は短いと言わざるを得ません。
複数社の見積もりを比べて費用を抑える時間的余裕はとてもなく、業者に見積もりをお願いした段階で、出てくる見積もりがそのまま負担額となってしまうでしょう。
自然災害の場合は仕方ありませんが、経年劣化など予測できる不具合にはあらかじめ手を打ち、不具合の発生を防ぐことが大切になります。
設備や建物の修繕・交換を計画的に行ない、入居者満足度を高めて長く住んでもらえるような賃貸管理を目指しましょう。
※この事例は2020年12月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
導入事例紹介
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