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公開日:2021年7月20日

危険な擁壁をどう見抜く? 賃貸管理会社が知っておくべき「擁壁の基本」

危険な擁壁をどう見抜く? 賃貸管理会社が知っておくべき「擁壁の基本」
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賃貸管理会社が知っておくべき「擁壁の基本」

2021年6月、大阪市西成区の住宅街で高台の擁壁が崩落する事故が起きました。さらに、崩落に巻き込まれる形で擁壁沿いに建っていた住宅も次々と倒壊。幸いケガ人こそなかったものの、一歩間違えば大惨事になりかねない危険な事故でした。

それにしても、「まさか住宅地の擁壁が崩れるなんて…」

ニュースなどで崖下に転落する住宅を見て、そう驚いた管理会社も多いと思います。実際にオーナーズエージェントにも「擁壁の注意点について教えてほしい」という管理会社からの相談が何件かありました。

管理物件の巡回では、建物や敷地を確認こそすれ、擁壁まではなかなか見ないものです。いったいどのような擁壁が危険で、どのようなことに気を付ければいいのか。擁壁崩落を防ぐために管理会社が知っておくべき擁壁の基本をお伝えします。

【相談ダイジェスト】

  • 大阪市西成区の住宅地で擁壁が崩落。住宅3棟が倒壊した
  • 擁壁崩壊を防ぐために管理会社ができることを教えてほしいと相談
  • 崩壊リスクが高い擁壁はどのようなものか
  • 擁壁のどのような点をチェックすればいいのか

専門家の回答

そもそも「擁壁」とは、崖や盛土の側面が崩れるのを防ぐために設置される壁状の構築物のことを言います。

擁壁内の土には荷重による圧力(土圧)が常にかかっており、擁壁がなければ自然と崩れ落ちてしまいます。そこで頑丈な擁壁を設置することにより土圧を抑え込み、土地の形を整えることで、傾斜地の宅地造成や、山間の道路築造を可能にしているのです。

 

擁壁には大きく分けて、RC擁壁・間知(けんち)ブロック擁壁・大谷石(おおやいし)積み擁壁の3種類があります。

(表1.擁壁の種類と強度)

RC擁壁

RC擁壁(鉄筋コンクリート造・無筋コンクリート造)は現在最も主流の擁壁です。高低差のある住宅地や道路沿いで打ち放しコンクリートの壁を目にする機会も多いですよね。

擁壁のなかではコストこそ高いものの、やはり頑丈で、鉄筋コンクリート造となると耐震性も期待できます。

間知ブロック擁壁

大きさの揃った「間知(けんち)ブロック」を斜めに積み上げた擁壁です。

下から一列ずつ積み上げ、ブロックの背面にコンクリートなどを流し込んで固定し強度を高めます。立地にあわせてさまざまな積み方ができ、カーブも描きやすいことから、住宅地・道路・河川の護岸など多くの場所で使われています。

《ちなみに》
間知とはお城造りなどで「間知石」と呼ばれる石材を用いたことに由来するそうです。間知石を6個ならべると1間(180cm)になりますので、「1間を知る目安になる」ことから間知という言葉が生まれたそうですよ。

大谷石積み擁壁

大谷石とは、栃木県の大谷町で取れる石材のことで、加工しやすく耐火性にも優れることから、古くから外壁や塀などの建材として使われてきました。

ただし、大谷石積み擁壁の強度は現行基準を満たしていません。すぐに建て替えが必要なほど脆弱ではありませんが、ひび割れや欠損などが見られる場合は補修などの対策を講じた方がいいでしょう。

危険な空積み擁壁・コンクリートブロック擁壁・増積擁壁

そのほか擁壁には、お城の石垣のように自然石を用いたもの、コンクリート表面にタイルなどをあしらった化粧面のものなど種類はさまざまです。

ただし、なかには強度が不安定な、いわゆる「不適格擁壁」も存在しますので注意が必要です。

 

【空積み擁壁(空石積み擁壁)】

石やブロックを積み上げただけの簡素な擁壁です。大阪市西成で崩壊した擁壁は、まさにこの空積み擁壁でした。現行基準では、擁壁の裏側・目地にコンクリートなどを流し込み固定する工法(練積み)が必要ですが、空積みは石などを背面の土にもたれかけるように固定するだけですので強度面で不安が残ります。

自治体などの協力を得て、できるだけ早く調査を行ない、造り替えを検討した方がいいでしょう。

 

【コンクリートブロック擁壁】

塀などで使われる建築用コンクリートブロックを使った擁壁です。いえ、擁壁もどきと言った方がいいかもしれません。

そもそもコンクリートブロックは擁壁に用いる建材とは言えず、強度面で非常に不安定です。耐震性も弱く、5段以上積んでいる場合は崩壊の危険があるため早急に造り替えるべきでしょう。

 

【増積擁壁】

擁壁の上に別の擁壁を増積みしたものです。

下部の擁壁が基準を満たしていても、その上に増積みされることは想定されていません。増積みにより擁壁内の土の量が増えると、下部にかかる土圧も増してしまいますので、当初のスペックを超えた脆弱な擁壁となってしまうのです。

現行法では違法となりますので、すぐにでも造り替えるべき擁壁です。

要注意! 擁壁に見られる症状4選

不適格擁壁は論外ですが、基準を満たした擁壁といえども劣化はするものです。もし次のような症状が見られたなら不具合のサインと言えます。見つけ次第、補修などの対策を検討しましょう。

《擁壁の要チェック症状》

  1. 擁壁の表面から水が出ている(または湿っている)
  2. 変形(ふくらみ・傾きなど)・ひび割れがある
  3. 水抜き穴に土・草が詰まっている
  4. 擁壁の表面やすき間が白くなっている

 

1.擁壁表面からの漏水

擁壁表面が常に湿っていたり、漏水していたりする場合は擁壁内で排水不良が起きている証拠です。

擁壁自体の強度低下が進むのはもちろん、擁壁内部に元からある土圧に水圧まで加わりますので、擁壁が荷重に耐えきれず崩壊する危険性が高まります。

 

2.変形・ひび割れ

擁壁の変形は危険信号です。劣化が進むと、擁壁全体にふくらみや傾きが見られたり、間知ブロックの一部がせり出したりするなどの症状が出てきます。すぐに詳しい調査を行ない、必要な対策を講じるべきでしょう。

また、ひび割れも油断はできません。髪の毛ほどの細かなものは問題ありませんが、幅0.3mm以上・深さ5mm以上のひび割れとなると要注意です。

特に鉄筋コンクリート造だと、爆裂によりひび割れが起きることもあり、その場合はコンクリートがはがれ落ちる恐れもあり危険です。

 

3.水抜き穴の詰まり

擁壁内の土には雨水が溜まりますので、排水のための水抜き穴は非常に重要な設備です。

水抜き穴に土や草などが詰まって排水不良を起こすと、擁壁内の土から水が出ていかなくなってしまいます。そうなると、擁壁への荷重が増え、ひび割れや変形につながってしまいますので注意しましょう。

なお、現行基準では壁面面積3㎡以内ごとに1ヶ所以上・孔内径7.5㎝以上の水抜き穴を設置するよう定めています。水抜き穴が適切に設置されているかどうかも確認したいところです。

 

4.表面やすき間が白い

白色生成物障害(エフロレッセンス)と呼ばれ、コンクリートの背面などに生じたひび割れから水分が入り、コンクリート成分が溶けだしている状態です。放置すると擁壁からの漏水に繋がり、擁壁強度の低下を招いてしまいます。

日ごろの擁壁チェックを忘れずに。

普段なかなか注意して見ることのない擁壁ですが、気付かないだけで、もしかしたら足元には深刻な問題が潜んでいるかもしれません。擁壁の安全性に不安があるようでしたら、そのままにせず、専門業者に現地調査を依頼した方がいいでしょう。

擁壁は言うまでもなく建物の土台を支える箇所です。万が一崩れた場合、建物が失われるだけでなく、オーナーや管理会社が責任を問われる事態にもなりかねません。

大阪市西成区の事故を教訓として、管理物件の近くに擁壁がある場合はできるだけ点検し、危険なサインが見られないか常に目を光らせておきましょう。

※この事例は2021年7月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。

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