賃借人に枯らされた芝生、原状回復費用は請求できる?
賃借人が雑草対策で除草剤、芝生も枯らす
今回、管理会社から寄せられた相談は、「専用庭の芝生」を枯らせた賃借人に原状回復費用を全額請求できるか、という内容でした。
入居者対応の中でも特にもめやすい退去時の原状回復ですが、今回退去が出た1階の部屋では、専用庭の芝生が全面枯れていることが発覚したとのこと。賃借人(元入居者)に確認したところ、「特約に専用庭の除草は自身で行なうとあったので除草剤を使った」「除草と書いてあったら除草剤を想像するのが一般的」と説明されたと言います。
管理会社は芝生の原状回復費用を賃借人に請求したものの、賃借人は「枯らせたのは事実だが、全額負担は納得がいかない」と支払いを拒否。この場合、芝生の原状回復費用は誰が負担すべきでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 賃借人の退去後、専用庭の芝生が全面枯れていることが発覚
- 賃借人は「特約に専用庭の除草は自身で行なうとあったので除草剤を使った」と説明
- 原状回復費用を賃借人に請求したが、「全額支払いは納得がいかない」と拒否
- 芝生の原状回復は誰の責任になるのかと相談
専門家の回答
賃借人負担は芝生の「残存期間分」
専用庭は部屋と一体となって貸し出されたものですから、その維持管理には賃借人の善管注意義務が発生します。
当然、専用庭の芝生も維持管理の対象となりますので、除草剤で枯らしてしまったとなると、それは賃借人の過失という扱いになるでしょう。貸し手側が、台無しにされた芝生の張り替え費用を賃借人に請求したというのも理解のできる話です。
しかし、賃借人の「全額負担は納得がいかない」という主張も一理あります。原状回復のルールに基づけば、たとえ故意・過失によって毀損した設備であっても、通常その負担は「残存価値」に留まります。
例えば、賃借人が故意に毀損した壁紙の張り替え費用が50,000円だったとしても、この賃借人が3年間入居していたとしたら、耐用年数6年である壁紙の残存価値は(6年-3年)÷6年=50%です。経年劣化を加味した結果、賃借人の負担が50,000円×50%の25,000円のみとなることは、賃貸管理に携わる皆さまはご承知のとおりかと思います。
そうなると、ここで問題となるのは、もともと植わっていた芝生の残存価値です。
「住宅設備」と呼ぶには少々違和感がありますが、芝生も月日の経過によって劣化しないわけではありません。きちんと手入れをすれば何十年と緑を維持してくれますが、それでも古くなり、やがて張り替えが必要になります。
したがって、今回のように芝生を交換するケースにおいても、原状回復の負担割合のルールが適用されます。芝生の耐用年数から、それまでの使用期間を差し引いた「残存期間分」を賃借人負担とするのが妥当と言えるでしょう。
芝生など緑化施設の耐用年数は「20年」
では、芝生の耐用年数はいったい何年になるのでしょうか。
考え方のヒントとなるのが、国税庁が発表している「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」です。省令によると、緑化施設の耐用年数は「20年」。緑化施設とは、「植栽された樹木、芝生等が一体となって緑化の用に供されている場合の当該植栽された樹木、芝生等」と定義されており、専用庭の芝生も含まれることが分かります。
これを踏まえて、芝生の全面張り替えについて考えてみましょう。
仮に築5年の築浅物件としたとき、芝生の残存期間は、耐用年数の75%に当たる15年となります。その芝生を賃借人が枯らし、全面張り替えに7万円がかかるとすると、賃借人の負担は残存期間分の52,500円(75%)。一方、賃貸人の負担額は、減価償却された分の17,500円(25%)となります。
このように、専用庭の芝生についても、負担割合を決める際は設備と同じく減価償却の考え方を適用するのがベターです。
賃貸人の心情からすれば納得いきづらい点もあるとは思いますが、逆に言えば、残存期間分であれば賃借人にきっちりと請求できるということ。内装や設備の原状回復と同じく、賃借人が負担すべき修繕費は確実に回収していきましょう。
特約見直しなど今後の対策を
今回のように、賃借人に芝生を枯らされるトラブルが今後も起きないとは言えません。管理会社としては、賃借人への費用請求だけでなく、その後の入居者募集も見据えて、今のうちにトラブル対策を講じるべきでしょう。
対策として、まず考えられるのは「特約の見直し」です。現状の特約は「入居中における専用庭の除草作業は、賃借人の責任と負担において行なうものとする」という、ごく一般的なものでした。しかし、これだと「どのように除草するか」は賃借人の受け取り方次第となってしまいます。現に今回、芝生に除草剤をまかれてしまったわけですから、以下のような除草方法にも言及した具体的な条文に変更することも検討できます。
《特約修正例》
|
また、思い切って天然芝をやめ、管理が容易な「人工芝」に張り替えるようオーナーに提案するのもひとつです。人工芝なら、天然芝と比べて一年中きれいな緑を演出できるうえ、専用庭の雑草対策にも役立ちます。
天然芝に比べて施工単価は高めですが、耐用年数は概ね10年ほどはあり、その間のランニングコストはほぼ0円。加えて今回のようなトラブルを予防してくれると考えれば、一度は検討してみていいかもしれません。
《1㎡あたりのコスト》
|
専用庭は、基本的な維持管理を賃借人の手に委ねるだけに、管理会社としては常に目を光らせておきたいポイントです。雑草対策はどうか、適切な使い方をしているかなど現状をしっかりと把握し、トラブル防止に努めましょう。
※この事例は2022年8月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
【賃貸管理会社のためのトラブル解決事例】 ▶コラム「相談デスク」記事一覧 |
【賃貸管理のトラブル・困った! いつでも相談したいなら】 ▶賃貸管理会社向けサポートサービス「ベーシックサポート」 |