低地側の隣地にアスファルト越境、誰が費用負担すべき?
隣地所有者の要求は「越境部分の取り壊し」「土留めの設置」
賃貸で起きる外構トラブルの代表例とも言えるのが「隣地との境界トラブル」。不動産売却や建物の建て替えなどで発覚することが多く、泥沼の裁判沙汰に発展することも珍しくありません。
今回、管理会社から寄せられた相談も、そんな境界線をめぐるトラブルでした。隣地の所有者が敷地の塀を壊そうとしたところ、塀に接する形で管理物件のアスファルトの侵入が発覚したとのこと。隣地の塀は境界線から後退した位置に建てられていたため、その塀を支えに打設されたアスファルトの端がわずかに越境していたわけです。
加えて問題をややこしくするのが、管理物件と隣地との間に高低差があること。管理物件が高地に当たるため、低地となる隣地の塀がなくなると、アスファルト下の土砂がむき出しになってしまいます。もちろん土留めをする必要がありますが、それにも費用がかかります。
隣地所有者の要求は、「アスファルトの越境部分の取り壊し」「土留めの設置」のふたつ。管理物件のオーナーにとっては寝耳に水で、費用負担にはあまり納得していません。果たして今回の境界トラブル、責任はどちらにあるのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 管理物件のアスファルトの一部が隣地側に越境していたことが発覚
- アスファルトの越境部分を除却するよう隣地所有者から請求があった
- さらに、隣地とは高低差があるためアスファルト下にある土砂の土留めも請求
- 越境部分の取り壊し・土留めの設置を誰がどれだけ負担すべきかと相談
専門家の回答
まずは「正しい境界線」の特定が最優先
費用負担がどちらにあるのか、という相談ですが、管理会社としてまずハッキリさせておきたいのは「正しい境界線はどこか」という点です。たとえ管理物件が越境している可能性が高いとはいえ、隣地所有者の主張を鵜呑みにせず、まずは正しい境界線の位置を特定しましょう。
境界線の特定で最初のステップは、土地の境界標を見つけることです。しかし、境界標の中には、鋲(びょう)、刻み、御影石など分かりにくいものも存在します。そうした境界標が土中に埋もれている可能性も十分考えられますので、見つからない場合は境界付近を掘り返してみてください。
また、境界標以外にも、土地の測量図や境界に関する覚書など、客観的な資料を集められると早期解決に役立ちます。
裁判回避へ、土地家屋調査士への依頼も視野
境界標や図面から境界が確定できない・境界について当事者間の納得が得られない場合は、土地境界の専門家である土地家屋調査士に依頼して境界を測定し直す必要があります。
土地家屋調査士は境界を明らかにするほか、境界標の設置・復元、境界確認書・図面の作成、登記などを請け負ってくれます。費用は土地面積にもよりますが、概ね30~80万円程度。高額ですので、依頼する際は当事者で費用を折半するなど、あらかじめ合意が得ることが大切です。
その他、法務局の「筆界特定制度」活用や、土地家屋調査士会の「ADR機関」に調停・仲裁を依頼する、といった方法もあります。境界トラブルで裁判にまで発展すると、時間・費用ともにオーナーには多大な負担がかかってしまいます。できるだけ裁判を回避し、話し合いによる解決を目指せるようサポートできるといいでしょう。
取り壊しは「越境物の所有者」、土留めは「高地側の所有者」が負担
そのうえで本題の「越境部分の取り壊し」ですが、費用の負担責任は、原則として越境物の所有者が負うこととなります。
越境された土地の所有者(隣地所有者)は、土地の所有権に基づく妨害排除請求権により妨害者に越境物の撤去を請求することができます(民法第198条)。そのため、今回のケースにおける取り壊し費用は管理物件のオーナーが費用を払わなければならない、ということになるのです。
同じく土地間の高低差があるときの「土留めの設置」負担も、原則として他人の占有物を妨害する恐れのある高地側に設置義務があると言えます。
隣地の塀が撤去されてアスファルト下の土砂がむき出しになれば、それが隣地側に流れ込む危険があります。土砂の流出を防ぐのは高地側の義務となりますので、オーナーが土留めをしなければならない、となるのです。
以上のように「アスファルトの越境部分の取り壊し」「土留めの設置」はオーナーに負担責任があると言えますが、新たに塀を造るとなるとその限りではありません。
土地間の境界を仕切り、目隠しにもなる塀は、管理物件にも隣地側にとってもメリットがあります。設置に当たり、隣地側と費用を按分する形で交渉するのもひとつでしょう。その場合、塀は共有物となり賃貸オーナー単独で改修・撤去ができなくなりますが、外構工事の費用削減には役立ちます。ぜひ一度検討してみてください。
また、越境の原因が建設会社の施工ミスなら、建設会社に費用負担を請求できる可能性もあります。越境した経緯を追及し、オーナーの負担を少しでも減らすことができれば、オーナーとの信頼構築にもつながります。ぜひオーナーを助け、トラブルの早期解決に向けて動いてみてください。
※この事例は2023年1月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
【賃貸管理会社のためのトラブル解決事例】 ▶コラム「相談デスク」記事一覧 |
【賃貸管理のトラブル・困った! いつでも相談したいなら】 ▶賃貸管理会社向けサポートサービス「ベーシックサポート」 |