
第19回 リニューアル工事の提案
- 全国賃貸住宅新聞
10年間の平均利回りを提示しオーナーを説得
新築より関心高いリニューアル企画
昨今、土地持ちオーナーも不景気感からか、以前のようになかなか簡単には新築でアパート・マンションを建てようという気にはならないようです。
建築会社も最近では「リニューアル事業」に力をいれています。また、セミナーなどをするときに、セミナーの演題を「マンションの建て方」などとするより「リニューアル手法の伝授」とか「空室対策10カ条」などとすると集客がいいです。
しかし、「建て方セミナー」としてしまうと、オーナーはセミナーに行くと「新築を建てさせられるのかな?」と身構えてしまいます。「リニューアル」の話であれば、今持っているアパートの空室対策として勉強しておこうという気になり来場されるのです。
そこで問題となるのは、「どうリニューアルすると入居者に受けるのか?」という点です。それを明確に知っていなければ、成功しません。
リニューアルは、はっきり言って新築よりも難しいと言えます。
本当の入居者ニーズとは何かを知らなければならないからです。企画の真価を問われるのです。
新築はとりあえず作ってしまえば、「新築マジック」「新築魔力」のおかげで当初5年位はなんとなく決まります。
新しいという魅力が他の欠点を見えなくします。だから新築というだけで、実は失敗している物件もそれが気付かれにくいという「利点」をもっています。
一方、リニューアル物件は、たとえば築30年ものを築10年位に見せることはできるが、新築のように誤魔化しが効かないので、最初からまったなしの真剣勝負となります。
企画者そのものの力量が問われてしまうといっても過言ではないでしょう。しかし、良い企画であれば、新築同等かそれ以上の家賃で貸すことができるのも、リニューアル企画の楽しいところだと思います。
オーナーへの説得も難しい
そして、企画そのものの難しさもさることながら、オーナーへリニューアルの有効性を説くのも難しいものです。
リニューアル企画の場合、新築企画と違って、中長期の事業収支をしっかり考えることが重要です。新築提案のように単年度収支で、例えば1億円のコストでNOI(営業純収益)は700万で、返済が400万でキャッシュフローが300万になります、「だからやりましょう」、「良い収支でしょう」などという、そのような単純な提案では済みません。
リニューアル事業というのは、少なくとも5年間、もしくは15年間というような中長期のキャッシュフローの流れを推測して、改善された収支の差について提案する。これが正しい提案の手法であり、またこういった手法でやらないかぎりはオーナーや投資家も、リニューアルの収益改善の良さを理解しづらいでしょう。
中長期のタームで収支を提案する、そういうプレゼン手法が求められています。コストをかけてリニューアルをしたら、どのように賃料収入が上がっていくのか、というシミュレーションを立てることが必要となります。

リニューアル企画においては、このまま放っておいた場合(現状維持/As is)は、このような賃料収入が予測されます。それに対してリニューアルをすればこのように収益(借人金があれば、その返済を控除した後のキャッシュフロー)が改善する、という提案が求められます。
中長期の収支を予想し、理論的に説明を
特に、実務的には、リニューアル工事をしたからといって、劇的に来年から収益が大幅に改善するというのは、意外に少ないのです。
余程、「空室率が70%もあって大変」というのなら別ですが、空室率が20~30%程度の物件のオーナーの場合だと、空いている部屋は家賃を下げて決めればいいではないか、そんな大きな借金をこの古いアパート・マンションに新たにするのはいかがなものか。借入金の返済もあるので、それほど、キャッシュフローも改善しないなあ…、リニューアルしても意味がないのでは…、となることも多いのです。
(ちなみに、家賃を下げるのもいいのですが、最近は現入居者がインターネットで他の部屋が安く募集されているのを簡単に知ることができて、更新時に家賃交渉が入るという事例が多くなっています。家賃の下げ方にもテクニックが必要ですね)。
賃貸の現場のものとしては、客観的に物件を評価することができます。よって、このアパート・マンションは、抜本的なリニューアル工事を早くする必要がある、このままでは空いても決まらなくなる、リニューアルすればまだ15年は賃貸経営をすることができるのに。という「確固たる実感」はあるのですが、それがオーナーにうまく伝わらないのです。
それには、中長期での収支予想をしっかりとするしかないと思うのです。このままでは空いて決まらなくなる、というのは簡単には説得できませんね。現場の感覚ともに、それを理論的に説明する能力が求められます。

総合的な経営理論、実務感覚も必要
新築の場合は、たとえば、先の例でいうとNOIが700万だとして、投資総コストが1億円だとすると、利回り7%(NOI利回り)ですね、と「単年度分析」でとりあえず事足りてしまいます。
しかし、リニューアル工事の場合は、リニューアル翌年が必ずしも良い収支ばかりではありません。
では、たとえば10年間の収支の差の総計を10年で割って分子とし、総コストで割るという利回りの出し方はいかがでしょう?
ずいぶん分かりやすい数字になると思います。DCF法などの「貨幣の時間的価値」などまったく考慮にいれない手法ですが、いまの日本には合っていると思いますし、何より分かりやすいのではありませんか?
リニューアル工事提案は、実務感覚も含めた総合的な不動産投資理論、経営理論というものが必要なものなのだと思います。
簡単にはできませんね。これができれば、「プロフェッショナル」ですね。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2010.7.26掲載)
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藤澤 雅義(フジサワ マサヨシ)/Mark藤澤オーナーズエージェント および アートアベニュー 代表取締役プロフィール:
オーナーズエージェント株式会社 代表取締役であると同時に、
賃貸管理会社 株式会社アートアベニューの代表取締役を務める。しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、
社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。役職呼称を禁止にしている。あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、
日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。「現場」で運用の実務にあたっているものが、一番不動産のことを理解し、
的確な投資分析及びオーナーの収益に貢献をすることができ、
また、仲介手数料収入に依存する仲介業者ではなく、安定収入のあるPM会社こそが、
クライアントの側にたって本当のアドバイスができる、が持論。2001年、不動産会社向けコンサルティング企業であるオーナーズエージェント株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任。
また、アメリカのIREM®(全米不動産管理協会)発行の国際ライセンスである
CPM®(米国不動産経営管理士)の日本での普及活動にも尽力。IREM JAPANの創学メンバーである。著作に、
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