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第81回 仲介現場で探る入居者ニーズ

2015.10.12
  • 全国賃貸住宅新聞

    建築企画はまずは愚直に情報収集を

    コストは家賃に合わせるのではなく、最後に決まる!

    賃貸住宅の企画をしようとした際に、案件敷地を提示したとたんに、「こんなプランでどうですか?」といきなり建築会社が図面を持ってきて、見積もりや事業収支表が出てきたりすることは珍しいことではない。建築会社の営業的にはそのスピード感は良いことであろうが、はたしてその企画の根拠は?と言いたくなるところだ。私は、建築企画は新築、リニューアルを問わず、賃貸の現場を知っているものがするのが最善だと思っている。賃貸会社会社のスタッフが是非「建築プロデュース」をしてもらいたいと思う。なぜなら我々こそが、「入居者ニーズ」を一番よく知っているからだ。しかし、とはいっても「勘」に頼るものであってはいけないと思う。

     

    まずは愚直に「マーケティング・リサーチ」をするべきだ。そもそもどんな仕事をする際にも、まずは冷静に情報収集をしっかりすべきだ。ひとつひとつカウントするのだ。「情報収集」→「分析」→「対策立案」→「実行」(図表1)というフローを大事にしたい。よくわかっているつもりのエリアでも、実際に市場調査をしてみたら、自分が予想していたこととまるで違う結果が出ることがある。人の勘なんて実にいい加減なもの。自分が信じていたことが、まったく間違っていた、ということが起こりうる。勘に頼るのではなく、やはり真摯に愚直に、コツコツとデータを集める作業から始めるのが企画の王道なのである。

     

    データが少ない賃貸物件の市況

    こんな経験をしたことがある。エリア・マーケティングにおいて、業者取材は重要なテーマである。そのエリアにどういう人がやってくるのかを、賃貸仲介をする現地の業者から聞き出す調査だ。単身か、カップルか、小さい子供がいる夫婦なのかと、そこに部屋を探しにくる人たちの類型と志向性を調べるものだ。その中で、大きな子供(中学生や高校生)がいる家族だと、65㎡とか70㎡の3DKや3LDKの部屋がほしいという確率が高いが、そういう人たちが、100組のお客さんのうち何組くるかという質問をある不動産業者でしたことがある。すると「4組中1組は来ます」と答えた。私が今まで調査して、そんな25%の割合という結果は出たことがない。大体3%から5%程度だ。さらに念を押すと、「絶対来ます。このへんは文教地区ですから」と言い張るのである。

     

    そこで私が「では、ゲストカードをちょっとチェックしてみましょう。3ヵ月分くらいやればだいたいわかるから」と、確認作業をすることになった。「正」の字を書いて、「この人は単身」、「この人はファミリー」と調べてみたら、結果は案の定5%であった。25%とはかなりの違いである。そのスタッフは頭をかきながら、こんな言い訳をした。「ファミリーの人は一生懸命なので、店の滞在時間が長い。それで数が多いと勘違いしました」。たしかにそういうものだろう。人はこのように思い違いをすることがある。そんな思い違いをもとに企画をしたら、どうしようもないことになる。人は思い違いをする動物だという前提で、愚直に市場調査をすることが大事だ。特に、賃貸は分譲マンションなどに比べてデータ面が弱い。分譲マンションなら、東京カンテイなどデータをちゃんと集めているところがあるし、不動産経済研究所というのもある。しかし、賃貸のデータをキチッと集めているところなどないのが現状だ。

     

    最近はネット上にけっこうデータがたくさんあるので、ある程度の推測は可能だが、ネット上のデータと私たちが街をコツコツ歩いて集めたデータとでは、まだ誤差がある。やはり、今のところは愚直に1件1件物件を調べたいと思っている。非常にベタな作業から入るのだ。そこは、楽をすることはできない。その代わり、現場から得たデータを用いて、完全な自信をもって企画をすることができるのである。そのエリアには、どういった間取りの物件がそれぞれどのくらいずつあるのか、それぞれの空室率や物件の特性は?また、そのエリアには、どういった需要者がやってくるのか、単身者が多いのか、ファミリー層なのか、その割合は・・・というふうに、調べることはたくさんある。
     

    人は印象的な出来事が過半数だと思い込む性格がある。印象的なことが幾つかあると、それがすべてだと思い込みたがる傾向がある。また「これはこうだ」と断言して言い切ることは、気持ちがいい。断言することで相手に「この人はよくわかっている人だ」という印象を与えることもできる。自信満々で頼もしく見える。建築企画は、賃貸経営の行く末を決める大切な業務だ。その基礎的作業に、それなりの時間をかけることを避けてはならない、と私は考えている。これは不動産のことだけではなく、仕事全般に言えることだろう。

    市場分析から収支を算出

    建築企画のポイントでもうひとつ重要なことがある。それは、「建築コストは最後に決まる」ということである。ともすれば、建築会社の立場でいうと、まずコストありきで、それに見合う収支、つまり家賃保証(いわゆるサブリース)の数字を作る傾向はないだろうか?利回りが低くては販売できないので、コストに家賃を合わせるということを建築の営業マンとしては、無意識にしてしまうものだ。私も以前ハウスメーカーにいたので、そのあたりの雰囲気は理解できる。しかし、施主の立場に立てば本末転倒である。あるべき姿は、市場分析の結果出された企画案に基づいて冷静な家賃査定を行い、ランニングコストと空室率を冷静に判断し、それらを控除し終わったNOI(Net Operating Income/営業純利益)を出す。それを期待利回りで割戻したものを建築コストとするのだ(図表2)。そうでなければ、その企画案でその期待利回りを維持できない。

     

    期待利回りの出し方は、図表2にある通りだ。4年前にもこの公式はこの連載で触れているが、是非覚えていただきたい。K%とは、ローン定数のことで、金利、返済年数から導き出される計数だ。数字が大きければ借り入れ額に対して、返済額が多いということになる。LTVは融資比率。自己資金を10%出すのなら、LTVは90%ということになる。DCRは返済倍数のこと。NOI(家賃収入総額から空室率と運営費の全てを控除したもの/営業純利益)を年間借入金返済額で割ったものである。

     

    つまり、絶対に返さなくてはいけない借金返済額の何倍の収入があるか、を測るものさしである。安全率をみるものさしとも言える。これは、新築の賃貸住宅の案件なら1.60くらいは欲しいのではないか。リニューアル案件なら返済期間も短いだろうから1.50くらいでいいのではないかと思っている。たとえば、NOIが640万円と想定される新築の賃貸マンション企画があるとする。金利は2%、返済期間は30年、自己資金は10%出す。そして、DCRは1.60欲しいとする。すると、期待利回りは4.44%×90%×1.60≒6.4%となる。640万円を6.4%で割り戻すと、1億円のコストでなければならないことになる。消費税も諸経費も含めて全部のコストがこの数字以内に収まらなければならないということだ。

    (筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2015.10.12 掲載)

    • 藤澤 雅義(Mark藤澤)
      オーナーズエージェント および アートアベニュー 代表取締役社長
      プロフィール:

      オーナーズエージェント株式会社 代表取締役社長であると同時に、
      賃貸管理会社 株式会社アートアベニューの代表取締役社長を務める。

      しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、
      社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。

      あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、
      日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に豊ノ島・時津風部屋)を応援している。

      「現場」で運用の実務にあたっているものが、一番不動産のことを理解し、
      的確な投資分析及びオーナーの収益に貢献をすることができ、
      また、仲介手数料収入に依存する仲介業者ではなく、安定収入のあるPM会社こそが、
      クライアントの側にたって本当のアドバイスができる、が持論。

      著作に、
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      ・『「収益改善」&「リニューアル企画」マニュアル』(総合ユニコム)(購入
      ・『200万円からはじめるマンション投資術』(主婦の友社発行)(Amazonで購入

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