
第116回 物件の評価まで変える入居者対応
- 全国賃貸住宅新聞
物件の評価まで変える入居者対応
現場管理者のスキルが収益性に大きく影響
相槌やクッション言葉で会話を円滑化
入居者からの人的なクレーム対応や建物のメンテナンス業務を行う部署は、通常賃貸管理会社では「管理部」と表現するケースも多い。「管理」という言葉は日本語では範囲が広すぎて困るのだが、他業種で「管理部」と言えば、総務、経理、人事、労務などの間接部門を通常指すだろう。紛らわしいので、賃貸管理会社のそれを、「現場管理」(On site Management/オンサイト・マネジメント)と呼びたい。因みに弊社ではその部署を略して「OM(オーエム)課」と称している。
この現場管理部門の「入居者対応」や「物件対応」は比較的地味な部門とされ、売上に直結するわけではないので、賃貸管理会社の経営者は、これらの業務に対する意識が他の業務に比べて低い傾向がある。しかし、対応いかんでは物件の収益性に大きな影響を与える重要な業務であることを理解したい。というのは、入居者への粗雑で無神経な対応がしばしば退去の遠因になったり、逆に丁寧で親身な対応に入居者が、物件そのものには少々不満があっても、長く住み続けるなどの例があるからだ。
入居者受付の内容
入居者から最も多く寄せられるのは、①「問い合わせや要望」である。家賃の振込先を教えてほしい、インターネットに繋げたい、メールボックスの暗証番号を忘れた、鍵を無くした、などがそうだ。次に②「ハードクレーム」、③「ソフトクレーム」、④「解約・更新・再契約などの受付業務」である。ハードクレームは、建物・設備・仕様など、主に「モノ」に関するクレーム。ソフトクレームはそれ以外の、主に「人間」に関わるクレームと定義している。他の業界ではハードクレームを「激しいクレーム」、ソフトクレームを「穏やかなクレーム」とするケースも多いようだが、弊社では上記の分類にしている。
入居者から寄せられるものの割合はおおむね次のようになっている。
①問い合わせ・要望・・・約50%
②ハードクレーム ・・・約30%
③ソフトクレーム ・・・約10%
④受付業務(解約・更新・再契約)…約10%
ハード・ソフトの両者とも緊急度の高低によって、①「緊急性の高いもの」、②「緊急性の低いもの」、の2種類に分けられる。「水道管破裂」「ガス漏れ」など緊急性の高いクレームには、即座に対応し対策を講じなければならない。
一方、緊急性の低いものはゆっくり対応すればいいというのではないが、夜中でもすぐに対応しなければならないほどではないということである。ハードクレームで緊急性の高いものは、①水、②鍵、③電気、④ガス関係の4種類。主に、ライフラインとセキュリティ関係といえるかもしれない。ソフトクレームで緊急性の高いものは、①暴漢・異常者等、人による被害、②車(無断駐車)、③施設関係(火災・異臭)の3種である。安全や犯罪に関わるものがこれに該当する。
電話対応のノウハウ
メールで受け付けたり、最近は弊社でもチャットボットの運用を始めたりもしているが、入居者からの受付手段は基本は電話である。相手の顔が見えないだけに、対応の仕方で入居者の受ける印象は大きく左右される。
①悩みの把握
電話を受けたとたんに怒り出す人や、抽象的な話ばかりする人、電話をかけてくる入居者はさまざまだ。当人には明らかな問題であっても、その状況を正確に話せる人ばかりとは限らない。たとえば、エアコンからの水漏れで困っている人の第一声が「水が漏れて困っている」であることは珍しくない。建物の漏水と通常は思うだろう。それに対して、「何から」水漏れしているのかをきちんと質問して確認する必要がある。
②詳細な現状把握(4W2H)
悩みを把握した後の次のステップは、以下の視点による詳細な現状把握である。
・時期の把握(いつ? いつから? When)
・頻度の把握(どのくらいの頻度で? How much)
・場所の把握(どこで? Where)
・関与者の把握(誰が? Who)
・対象の把握(何が? 何を? What)
・状況の把握(どのように? How)
③原因の把握
詳細な現状が把握できれば、ある程度原因が見えてくることがある。その上で、想定される初歩的な原因をひとつひとつ入居者に質問することで、原因をつきとめられることがある。たとえばエアコンの電源がつかない場合、「コンセントが抜けている」「リモコンの電池が切れている」「電源ボタンがきちんと押されていない」などの意外に単純なことであったりする。
対応のコツ
① 早い段階で、質問することの同意を得る
問題解決のためには現状を知る必要があるから、入居者に対する質問をしなければならない。しかし、いきなり次から次へと質問が始まれば尋問されているようで気分を害する人もいるだろう。そこで、早い段階で質問することの了解を得ておくことが有効である。具体的には、初めての質問をする前に「恐れ入りますが、いくつか質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」と丁重に聞くこと。この「恐れ入りますが」は「クッション言葉」と言って、丁寧で優しい印象を与えることができるもので、電話対応の基礎的テクニックといえる。「お手数をおかけしますが」、「申し上げにくいのですが」などの言葉だ。
②随時、内容をまとめて確認する
聞きたいことをいくら質問しても、関係のない話を延々とする人は少なくないものだ。キリのいいところで、「~ということですね」と話の要約・まとめを入れることで会話の主導権を握り、話を進めやすくすることができる。
③不必要な対応を避ける
入居者は実は、悩みを解決するノウハウを身近に持っていることを知らない。それは「取扱説明書」や「入居者のしおり」などである。これらの書類を見れば、入居者自身で解決できるものも多い。そこで、悩みや問題の内容が把握できて、入居者が自力で解決できる可能性があると判断できた場合は、「恐れ入りますが、入居者のしおり(取扱説明書)はもうご覧になりましたでしょうか?」と質問してみること。想像以上の確率で「あっ、確認してみます」という返答を得ることだろう。
④常にメモをとる
入居者対応のすべてに共通することでだが、常にメモをとることが重要だ。電話は突然かかってくるものだし、思いがけないほど多くのクレーム内容があって、とても記憶できないということもある。したがって電話のそばにはメモ用紙を常備して、話を聞きながらポイントをメモするよう心がけること。
クレームを起こしてしまうスタッフ
クレームの受付を好きな人はいないと思う。しかし、酷いクレーマーも世の中にはいるが、時として、スタッフの電話対応が下手でクレームになってしまうこともある。それは、言葉のテクニックが貧弱なのだ。
先程もいったように、①「クッション言葉を上手く使う」こと、また②「相槌を打つ」、「共感する」ことも大事だ。つまり相手の言っていることをわかっていますよ、理解していますよ、という表れとなる。時々周りにいないだろうか、電話で「はい」、「はい」しか言わないぶっきらぼうな人が。わかっているのかどうか、はっきりしないので、いらいらしてくるのだ。そして、③「声のトーン」だ。逢って話している分には気にならなかったが、電話で話したとたん、こんなに低い声でこの人は喋っていたっけ、と思うことはないだろうか。電話はそういう意味で怖い。話す内容と声質だけがクローズアップされる。場面にもよるが、ひとつ高いトーンで話すとだいぶ印象は変わるものだ。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2018.9.10掲載)
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藤澤 雅義(フジサワ マサヨシ)/Mark藤澤オーナーズエージェント および アートアベニュー 代表取締役プロフィール:
オーナーズエージェント株式会社 代表取締役であると同時に、
賃貸管理会社 株式会社アートアベニューの代表取締役を務める。しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、
社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。役職呼称を禁止にしている。あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、
日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。「現場」で運用の実務にあたっているものが、一番不動産のことを理解し、
的確な投資分析及びオーナーの収益に貢献をすることができ、
また、仲介手数料収入に依存する仲介業者ではなく、安定収入のあるPM会社こそが、
クライアントの側にたって本当のアドバイスができる、が持論。2001年、不動産会社向けコンサルティング企業であるオーナーズエージェント株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任。
また、アメリカのIREM®(全米不動産管理協会)発行の国際ライセンスである
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