投資効果を数値と式で表す
選択肢を用意し、提案し続けることが大事
前回に引き続き不動産オーナーへのリニューアル(リノベーション/以下リノベ)提案のコツについて述べてみたい。
前回表1「投資分析」の①〜④まで解説した。10万円の提案(投資)であろうと1億円の提案であろうと、不動産投資であるのだから数値で表現できるのであり、最終的にはオーナーの判断は数値に基づくものなのだ。「なんとなく、これでいいかな」というものではない。
■式のカタチを明確化する
⑤の「10年平均利回り」は、①〜④と違って、中長期的な視点で投資効率を測るものさしである。①〜④はあくまで「単年度」の指標だが、10年平均利回りは複数年での指標だ。
リノベをしなかった場合には10年後にはほとんど賃料が取れるような状態にはならないと推測できる物件(部屋)に対して、100万円のコストをかけると年間で20万円の収益増が見込めるとする(図表1)。
そして、いまは年間80万円ほど収入があるが、「何もしないで」いると、どんどん賃料は下がっていってしまうところを、リノベをして賃料下落を防ぐとする。
すると、10年間で約400万円の収入差が生まれると想定できるとする。となると、収入差400万円を10年で割ると、平均40万円となる。
40万円をコストの100万円で割ると40%の「10年平均利回り」と計算される(式⑤)。
こうして将来予測をして複数年での利回りを計算するのが「10年平均利回り」である。単年度では20%(式②:20万円÷100万円=20%)だったのものが、10年平均では倍の40%となった。
⑥の「IRVによる価値(価格)の増加」は収入増による物件価格の上昇を計算するものである。「IRVの法則」とは、「収入÷期待利回り=価値」のことであり、「収益還元法」と言われるものだ。仮に1000万円の収入がある物件を10%の利回りで購入するとなると1億円(1000万円÷10%=1億円)で買うということになる。
リノベによって、20万円の収入増になった物件があれば、期待利回りが仮に10%であれば、20万円÷10%=200万円分の価格の上昇が期待できることになる。コストは100万円であるなら、200万−100万=100万円で、100万円得することになる。
⑦は「DCF法による評価(IRR,NPV)」である。「Dicounted Cashflow Analysis」のことだが、一言でいうと、「賃貸不動産から将来得られる収益を、現在価値(PV)に割り引いた(ディスカウントした)金額をその物件の評価額とする」ということである。
そして、「将来得られる収益」を現在価値に割り引いた金額が、初期投資金額と等しい場合(この場合NPV=0)、その割引率を「IRR」という。IRRは一般に「内部収益率」と訳されている。これも式⑤と同じく「複数年度の利回り」を表している。
図表2に表しているが、初めてDCFを知った人はなんのことやらわからないであろう。
簡単には説明できないので詳細は省くが、要するに「収益の将来予測をして複数年度の利回りを出す」のである。
⑤の10年平均利回りと構造は実は同じである。これで、現状維持の場合とリノベをした場合の投資利回り(IRR)を比較するのである。
我々が一般的に顧客としているアパート・マンションオーナーはDCFを理解できる人は稀だと思われるので、仕事で使うことは少ないだろう(ファンドマネージャーと仕事をしているのなら絶対に知っていなければいけない理論だが)から、スルーしてもらってもいいが、一応こういう概念があることは知っていてほしい。
■オーナーの取るべき選択肢とは
最後に、「オーナーの選択肢」であるが、我々管理会社がオーナーに対して提案したとき、オーナーが取るべき選択肢について考えてみよう。
表2にあるように選択肢は5つある。①〜③は、リノベの「松竹梅」だ。
これはコストのかかる選択である。そして、④は賃料等を下げるだけ。
⑤の「何もしない」、という選択を取ることもオーナーの自由だ。
このように「オーナーの選択肢」を体系的に分けて、提示することでオーナーの頭の中が整理される。この5つなかのどれかを最終的には選択することが明確になる。そして、実際にこう提示されると、最後の⑤「何もしない」を選ぶのには勇気がいるものだ。
現実の場面では、まずは②や③が選ばれることが多いようだが、かといって、①が選ばれないわけではない。②や③を提示し、それを実行し、しばらくして①を実行する、というパターンもある。
とにかく、「提案」をし続けなければ、「松竹梅」はない。
^