完成で入居者ニーズを掘り起こす
「心地のいいもの」に触れ、自分の好みを知る
「アート思考」とか「デザイン思考」という言葉を聞くようになって久しい。
ニューヨークのビジネスマンがよく美術館に通っていて、またビジネススクール(経営学大学院)もいいが、アートスクール(美術大学の大学院)で勉強することを勧められることが多いとのこと。
またハーバード、スタンフォード、コロンビアなど、アメリカのトップランクの医学部では、アートを導入した授業が導入されていて、絵画鑑賞を積極的に行っているらしい。
このプログラムを受講すると、視覚に基づいた診断のスキルが著しく向上するという結果が得られているらしい。
日本では「美術」というと、なにか「教養」とか「お稽古事」のような周辺的な文化として考えられがちだが、美術によって創造性などアートを生かした問題解決法を学ぶことができると考えられている。
最近の研究では、「創造性を高めると学業成績も上がる」というような結果も得られているらしい。特に「思考力」、「判断力」が向上するという。そして、創造性は訓練で高まるらしい。
複雑で変化が激しく、不確実性が高い今日のビジネス環境において、従来の知識や論理的思考・分析のみに頼った発想や思考では限界があるといえる。
ビジネスにおいても、「全体を直感的に捉えることのできる感性」や、「課題を独自の視点で発見し、創造的に解決する力」の重要性が日増しに高まっている。
多くの企業がスタッフに対して、経営陣や上司の指示を待つのではなく、自ら気づき、分析し、考え、自分なりの答えを見つけ、それを実行して成果を出すことを求めているのだ。そして、本質的なものを見抜けるようにならなければいけない。
それが、美術鑑賞で備わるという。
過去の偉大な創業経営者たちは、大金を費やして美術館・ギャラリーを設立し、展覧会を開催し運営している。
ブリヂストン、サントリー、資生堂がそうである。経営者はアートを好むのである。
「会社経営」と「アート」には密接な関係があるとも言われている。
欧米では、「アート」という概念が単なる芸術的な表現のみを表すにとどまらず、広範囲にわたる活動そのものに対して使われているようだ。
問題解決能力だけでなく、感性そのものも鍛える必要もあるだろう。
6年前のこの連載で、ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト(A whole New Mind)」を紹介した。訳者は大前研一である。2005年にアメリカで発売されたこの本は、世界に多大な影響を与えたようにおもう。
ダニエル・ピンクは今日のような複雑で不安定で予測不能な世の中を生きてゆくためには、「機能の差別化」から「情緒の差別化」が必要と説いた。
そのために6つの感性を鍛えよと。その第一が「デザイン」であった。
ダニエル・ピンクは「右脳と左脳のバランスを活かした全体的な思考能力」を育てようという。
左脳は「論理」を司り、右脳は「感性」の領域だと。
「新しいものを発想していく能力」、そして「ものごとを俯瞰して捉え、調和のとれた思考能力」を鍛えるのだ。
「アートシンキングとロジカルシンキング」のバランスが大事なのだ。
アートの感性をどう鍛えればいいだろうか。
美術館に行ってアート作品を鑑賞するのもいいし、また、自分で良いデザインだと思うものがあれば、メモをとったり、スマホで写真に撮る習慣を持つのもいい。
自分が「心地いい」と感じるものにたくさん触れて、それがなぜなのかを知るといいのではないか。
それは、絵画やデザインだけにとどまらず、音楽でも映画でも文学でも良いと思う。
まずは、自分が何が好きなのか、を知ってはどうだろうか。
我々PM(賃貸管理)の現場でも、もっと感性を駆使して、空室対策提案をすべきではないだろうか。
入居者ニーズアンケートで賃貸住宅にあってほしいもの第1位はインターネット設備、第2位は宅配ロッカーとかいうのは「正しい」が、はたしてそれに満足していていいのか。
自分の部屋を選ぶときに、駅からの距離とか、面積とか、間取り・家賃とかいろいろ決め手になるものはあると思うが、私は「デザイン」という要素をもっと大事にすべきではないかと思っている。
まさに、「機能の差別化」もいいが、「情緒の差別化」だ。
写真は、どちらも当社の企画で、物件内に「ラウンジ」を作ったものだ。特に、②の物件は劇的な効果が得られた。
3点ユニットバス、つまりバストイレ一緒のタイプのワンルーム120戸の物件があったのだが、3分の1の部屋がいつも空室だった。
毎月、空室を決めてもその分新たに解約が出て、空室数が変わらないのだ。
そこでオーナーに対してラウンジをカフェにしましょう、と提案した。予算はたったの260万円だ。
あとは何も変更していない。
すると、3ヶ月で120戸が満室になった。
これには流石に私も驚いたものだ。当社のカフェデザインが部屋探しの人の感性に響いたのだろう。
特に、実際にそのカフェを利用している人が少ないことからも、明確に、その存在、「デザイン」が評価されたと考えていい。
あらためて共用部のデザインの重要さを感じた。
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