「汚部屋」から火災リスク予見
想像力鍛え、被害低減
先月6月に、管理会社の担当者が業務上過失致死の疑いで書類送検されるというショッキングなことが起きた。
分譲マンションの管理会社のスタッフなのだが、賃貸経営管理会社でもひとごとではない。
これは3年前の2020年2月に逗子市で起きた、マンションの敷地にある斜面が崩れて下の歩道を歩いていた女子高校生が、60トンの土砂に巻き込まれて死亡した事故だ。
管理会社の当時の社員が斜面の「ひび」について報告を受けていながら適切な対応を怠った疑いがあるというのだ。
このエリアは「土砂災害警戒区域」に指定されていたそうで、国土交通省は、今回の事故は基盤岩の風化を原因に挙げていて、安全性を確保するために斜面管理がなかったために事故が起こったとしているが、直接的な原因は不明としている。
亡くなった女子高生の遺族は、マンションの住民(所有者)と管理会社を業務上の過失致死として刑事告訴している。
総額1億円以上の損害賠償を求めているようだ。
「斜面に数メートルのひびがある」とマンションの管理人から、事故の「前日」に報告を受けていたにもかかわらず適切な対応を怠ったということらしく、翌日の朝8時までにどこまでのことができたか正直疑問ではある。
しかし、この「ちょっとした懸念」が「大きな事故」に繋がる可能性の「予見性」について、今回は確認したい。
日常のマンネリした業務の中で、「斜面にひびが入っている」という報告を受けて、翌日の「斜面崩壊で死亡事故」を連想することは難しいかもしれない。
しかし、めったにないかもしれないが最悪のことを想像しなくてはいけないのだ。
「めったにない」ことは、0.01%以下の確率かもしれないが、起こってしまった当事者にとっては100%なのだ。当社は7300戸を管理しているが、毎年平均2人は室内で亡くなる。
自殺と病死だ。これは仕方のないことだ。
なぜなら、日本では毎年2万人以上が自殺する。
半分が仮に室内として、そのまた約4割が借家として、年間に約4,000人が賃貸住宅の室内で自殺することになる。
賃貸住宅戸数は約2,000万戸だから、2,000万室÷4,000人=5,000室となり、つまり5,000室管理していれば、必ず毎年平均1人は室内で自殺が発見されるということになる。
自殺があった部屋は「心理的瑕疵」のある部屋となり、賃料が下がる。不動産オーナーにしてみれば、まさか自分のアパートで自殺なんて、と思っているだろうが一定の確率で起こりうるのだ。
この逗子市での事件で思い出すことがある。
10年以上前だが、ある物件を担当者と見にいったときのことだ。
古い物件だったのだが、廊下を歩いているときにある部屋のドアが偶然開いて部屋の中を覗いてしまった。
それはいわゆる「汚部屋」だった。
ひどく室内が散乱していた。入居者はおじいさんだった。よく見ると扇風機が壊れて折れ曲がっている。
私はおじいさんに、「その扇風機の電源コード、コンセントは外れているよね?」と思わず聞いたのだが、「いや、ささっているよ」という返事。
私は担当にすぐさま指示をした。
火災が起こる「可能性がある」から、すぐに片付け専門業者に依頼して室内を片付けるようにしよう、おじいさんはおそらく自分ではやらないだろうから、オーナーの負担でもってやるべきとオーナーに言おう。
そして、そのリスクを管理会社として明確に提示したという証拠に口頭ではなく、メールでも行うように指示した。
もし、火災が発生して、類焼して隣家の方が万一亡くなったら、「汚部屋を見てしまった」管理会社も適切な対応を怠ったものとして、訴えられるかもしれない。
オーナーには「私たちはリスクをきちんと説明しましたよ、やらないのなら万一の責任はあなたにあります」と言っているに等しく、いわば脅しているようなものだが、その物件のオーナーはすぐに理解してくれて、業者手配のコストを負担してくれた。
しかし、1回では片付けられず、2回目の片付けの段取りをしていたときだ。本当にその部屋から火災が起きてしまったのだ。消防車が何台も駆けつけ、もう大騒ぎであった。
幸い、類焼もほとんどせず怪我人はいなかった。しかし、1回目の片付けを行なっていなかったら、もっと焼けていたかもしれない。
このように「めったにないから、まあ大丈夫」ではなく、「最悪のことを考えて動く」ことが大事だ。
しかし、担当スタッフの「想像力」の問題もあって、「リスク・マネジメント」が徹底されないことがある。
リスクに気づいてくれないのだ。
よく人は「適度な不安感」を持つことが大事という。
それは、日常生活において常にリスクがあることを意識することだ。
たとえば、自動車免許を取るときや免許更新時に、「交差点では一時停止のルールを守らない車が左右からやってくる可能性があるものとして、注意して通行しなさい」と教えられる。
自分自身はちゃんと交通ルールを守っていても、守らない車や自転車が横から急にやってきたら事故になってしまうのだ。
世の中は、皆がきちんとルールを守る人ばかりではないという認識が必要だということだ。
そういえば、20代の頃、同じ職場の人で何度も交通事故にあっている人がいた。
その人の運転なのだが、交差点でスピードを落とさず走り抜けるのだ。助手席に座っていて、これなら事故によくあうはずだと思ったものだ。
カーブでは、対抗車が突然スピードを出して飛び出してくる「かもしれない」のだ。当然、そういう場合でも対処できる程度のスピードで用心深く走っていれば、事故にあう確率は低くなるはずだ。
その他、「担当者が多忙で着手に遅れる、または忘れてしまう」、また「知識・経験不足でリスクに気づかない」ということもあるだろう。
多額の損害賠償を受けないように、またオーナーの資産を守るためにスタッフへの日頃の意識づけと、訓練・指導が重要だ。
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