仲介会社から突然の「賃貸借契約書への押印廃止」に動揺
法的・実務的に問題はないのか?
2022年5月、デジタル改革関連法の整備の一環で、宅地建物取引業法が改正。重要事項説明書(35条書面)や契約書面(37条書面)など、不動産取引にあたり宅地建物取引業者が交付すべき書類の押印が不要となりました。そうした流れに従い、不動産会社の中でも積極的に「押印廃止」の方針を掲げる会社も少なくありません。
とはいえ、一方的な押印廃止が取引先に不安を与える場合もあり得ます。今回、賃貸管理会社から寄せられた相談も、「賃貸借契約書に仲介会社の押印をもらえなかったが法的に問題ないのか」という内容でした。仲介会社は一方的に「今後は押印しない方針」を通知してきたと言います。この場合、果たして管理会社はどのように対応すべきでしょうか?
【相談ダイジェスト】
- 賃貸借契約書の取り交わしで仲介会社から「今後は押印しない」と伝えられた
- 仲介会社が押印しないことは法的に問題ないのかと相談
- 押印がないことで、実務面で影響が出る場合はあるのか
専門家の回答
法的に問題ないが、押印を求めるのも手
結論から言うと、賃貸借契約書に仲介会社の宅地建物取引士による押印を求めるかどうかは各社の考え方次第となります。法的な視点から言えば、契約書に押印がなくとも違法とはなりません。上述した宅建業法の改正により、宅建業者が交付すべき書類への押印義務がなくなったからです。つまり、仲介会社の押印廃止の動きや、記名のみの契約書を受け取ってほしいという主張は正当なものであり、落ち度のあるものではないのです。
しかし、取引は相手あってのもの。たとえ法的に問題がないとはいえ、押印廃止から間もない現状では、押印がないことで「正式な書類なのか借主が不安になるかも」「仲介した事実を隠したいのかとオーナーが思うかも」と、相談者のように不安を覚える管理会社がいるのも事実です。
《管理会社が抱く不安例》
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また裏を返せば、仲介会社が印鑑を押すことで、宅建業者が「会社として書類を作成した」「きちんと内容を確認して借主へ配布した」ことが伝わり、記名だけに比べて書類としての信用を高められるメリットもあります。
確かに、デジタル改革関連法に伴う宅建業法の改正により、37条書面への仲介会社の押印は不要となりました。しかし、押印は「なくてもよい」だけであって、してはいけないわけではなく、相手方の管理会社が押印してほしければ「求めてもよい」ということになります。つまり、押印が必要かどうかは契約の当事者や契約に関わる者の判断に委ねられていることになるわけです。
そのため、法的に問題がなくても押印があった方がいいと思う場合は、仲介会社に事情を伝えたうえで、実務的な対応として今までどおり押印をお願いするのもひとつでしょう。ぜひ社内で話し合い、今後の対応を検討してみてください。
【まめ知識】契約書面と37条書面は実は違う?
余談となりますが、37条書面への記名義務に関連して、そもそも宅建業法には「賃貸借契約書」に宅建士が記名しなければならない、とはどこにも書いてありません。というのも、本来、契約書と37条書面は別物だからです。
宅建業法第37条では、重要な権利義務や取引条件も、民法上「口頭」でも効力が生じるとされています。しかし、土地建物に関する重要な取引について書面を作成しなければ、将来の紛争の火種となる可能性も。そのため、宅建業者に法定の事項を記載した書面(37条書面)の交付義務を定めているわけです。
もっとも、この37条書面の記載事項はほとんどが賃貸借契約書と同じ内容で、37条書面と契約書をそれぞれ交付することは二度手間となってしまいます。そこで、現在の「宅建業法の解釈・運用の考え方」では、契約書をもって37条書面の代用とすることができると定められ、契約書面=37条書面として運用されているのが実態です。
従って、法的な考え方で言えば、ただの賃貸借契約書にも、37条書面の代用となる賃貸借契約書にも押印義務は不要となるのです。実務では全く関係ありませんが、賃貸借契約書についてのまめ知識でした!
※この事例は2023年11月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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