管理物件が全焼、入居者が死亡した場合はどうすれば?
近隣住宅にも類焼、火元は賃借人のストーブ
今回、管理会社から寄せられた相談は「管理物件の火事対応をどう進めればいいのか?」という内容でした。火事があったのは全10戸の木造アパート。賃借人のお部屋のストーブから出火し、建物は全焼、入居者1名が死亡し、近隣住宅2棟にも類焼したそうです。
現時点で失火した賃借人が借家人賠償責任保険(借家賠)に加入しているかどうかは不明とのことですが、こんなとき管理会社は、火事の事後処理をどのように進めればいいのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 管理物件が全焼、入居者1名が死亡し、近隣住宅2件にも類焼してしまった
- 火元は賃借人のお部屋にあったストーブと判明
- 賃借人が借家賠に加入しているかどうかは不明
- 今後の事後処理をどのように進めていけばいいのかと相談
専門家の回答
まずは賃借人の保険・オーナーの保険を確認
住宅火災があったとき、失火者に故意・重過失などが認められない火災の場合は、失火責任法により失火者は責任を問われないとされています。普通に考えると、「火災を発生させて他人の財産に損害を与えた」わけですから、被害を受けた側は失火者に損害賠償を請求できそうなものですが、法的には認められていないのです。
しかし、賃貸借契約を結ぶ賃貸人と賃借人の関係においては、失火責任法の規定は適用外となります。
というのも、賃借人はお部屋(賃借物)に対して善管注意義務を負っていますので、賃借人が失火によりお部屋を損壊することは、善管注意義務に違反した債務不履行となります。そのため、失火責任法の例外となり、失火者は損害に応じた賠償責任を負うことになるのです。
今回のケースでは、火元は賃借人のお部屋にあるストーブであることが分かっています。そのため、賃貸人は賃借人の善管注意義務違反による失火として、賃借人に対して損害賠償請求をすることができます。
そのような状況ですので、管理会社としては、オーナーの損害金回収の目途をつけるためにも、入居時に加入する家財保険など、速やかに賃借人の保険について加入状況・補償内容を明らかにすべきでしょう。
また、もし賃借人が無保険であれば、多くの場合、賃借人からの支払いは期待できません。その場合、頼みの綱はオーナーが加入している火災保険となりますので、賃借人の保険確認と合わせて、オーナーの保険内容についても補償範囲や特約などを調べておきましょう。
以上を踏まえ、火事後に行なう事後処理の大まかな流れは次のようになります。火事直後は管理会社も対応に追われることになりますが、オーナーと話し合い、一つひとつ確実にこなしていきましょう。
《火災後の大まかな流れ》
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火事の事後処理で発生する諸費用とは?
解体・撤去費など土地活用にかかる費用
次に考えたいのは、事後処理で発生するお金の話です。
火事があったとはいえ土地は残ります。今後の土地活用を考えるなら、損害賠償請求だけでなく、建物の解体・撤去費用も賃借人に請求していきましょう。ただし、建物は火事がなくても将来的に解体されるものです。法的に全額が賃借人負担になるとは言い切れませんので注意が必要です。
また、事故物件となりますので、土地を売買する際には必ず重要事項説明義務が発生します。その際、通常より取引価格が減額される場合には、減額分も損害として賃借人に賠償請求することが可能です(そのほか、土地のお清め・お祓いの費用も請求できます)。
土地活用についてオーナーの意向を確認し、賠償請求できるものがあるならしっかりと回収していきましょう。
焼け出された他の賃借人への対応
一方、管理会社としては、失火者への損害賠償請求だけでなく、焼け出された他の賃借人にも気を配らなければなりません。今回のように建物が全焼すると、法的にはその時点で賃貸借契約は解除となりますが、だからといって「はい、さようなら」とはいきませんよね。
焼け出された賃借人は住居を失い、これからどう暮らしていけばいいのか途方に暮れている状態です。管理会社としては、ひとまず賃借人の安全を守れるように、希望者に当面の宿泊先を確保するなどの対応をしていきたいものです。
ただし、宿泊費用は必ずしもオーナーや管理会社で負担する必要はありません。宿泊費用を賃借人負担とする際は、その旨の説明をしっかりとするとともに、焼け出されてしまった賃借人当人の保険で費用が補償されるかどうかについても確認してもらいましょう。
また、同じ賃料帯で管理物件に空室がある場合は紹介したり、他社物件を仲介してあげたりするのも手です。できる範囲で賃借人の生活をサポートしてあげられるといいでしょう。
近隣住宅に類焼した場合の対応
また、近隣住宅に類焼した場合は、近隣への対応も必要となります。
損害賠償請求が可能な賃貸人・賃借人の関係と異なり、被害を受けた近隣住民には失火責任法が適用されます。そのため、法的には損害賠償責任を問われることはないでしょう。しかし、管理物件の火事で迷惑をかけたことに変わりはありませんので、何もしなければ別のトラブルに発展するかもしれません。
そうならないように、また、今後の土地活用に向けて近隣住民と良好な関係を維持するためにも、何かしらお見舞金などを持参するのが賢明でしょう。
オーナーの火災保険には、代わりにお見舞金を出してもらえる「類焼損害保険金」などの特約が含まれている場合もありますので、いちど確認してみるといいでしょう。
無保険をゼロにする「総括保険」という選択肢
このように、管理物件でひとたび火事が起きると、オーナーの賃貸経営には深刻なダメージが及びます。そうした被害を最小限に抑えるには、やはり賃借人の借家賠への加入が欠かせません。
管理会社には、契約時の保険加入だけでなく、お部屋の更新時に保険証券の写しを提出してもらうなどの保険加入を維持する対策が必要です。もちろん、管理会社には大きな手間となりますが、オーナーの財産を守るには必要な手間ですし、それができる管理会社がオーナーに選ばれるとも言えます。
とはいえ、現実的な人的リソースの限界で無保険をどうしても防げない場合もあるでしょう。そこで検討したいのが「総括保険」です。
《関連記事》 ▶管理会社が加入する総括保険(筆:先原秀和/週刊住宅2016.10.17 掲載) |
総括保険とは、管理会社が一括で保険契約者となることで、入居者それぞれに保険加入してもらわなくても各戸に保険が適用されるという保険契約です。管理会社の手間も少なく、保険会社に入居者リストを提供するだけで、そのリストに記載された入居者を自動的に被保険者とすることができます。
既存の借家賠から総括保険への引き継ぎこそ面倒ですが、総括保険への移行が済んでしまえば、これまでの保険加入や更新手続きをすることなく保険未加入者ゼロを実現できるようになります。
総括保険で賃借人の無保険をなくなれば、管理物件の安全を守るだけでなく、管理物件としてもオーナーへの大きなアピールポイントになるでしょう。差別化戦略の一環として総括保険を取り入れ、オーナー提案に役立ててみてもいいかもしれません。
※この事例は2021年12月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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