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【コラム】DCRを使って考えるリノベーション提案

2018.10.25
  • コンサルタントコラム

    【コラム】DCRを使って考えるリノベーション提案

    ローンを活用したリノベーション提案

    前回のコラムでは、数字を根拠にしたリノベーション提案手法についてお話ししました。

    今回は、そこからさらに1歩踏み込んだ、ローンと指標に基いたリノベーション提案についてお話しします。この提案ができるようになると、より大規模なリノベーション案件の提案ができるようになりますので、みなさん是非ともマスターしていただけたらと思います。

    前回の冒頭でも書いた通り、私たちの使命は

    「お金がないからリノベーションはしたくない」

    「リノベーションしないから空室が決まらない」

    「空室が決まらないからお金がない」

    「お金がないから…」

    …という『負の無限ループ』に陥っているオーナーを救い出すこと。

    お金がないということは確かに大きな障害ですが、何も行動を起こさなければ、オーナーは長期空室によって損失を被り続けるばかりです。

    ならば、答えはひとつ。

    ここは私たちが、

    「お金がないなら、お金を借りて儲けましょう!」

    と提案してあげるべきでしょう。

    DCR(返済倍数)という指標

    今回、着目したい投資指標が「DCR」です。

    DCRとは、「借入金返済額」に対して「NOI(営業純利益)」が何倍あるか、を表す指標です。当社ではこのDCRのことを、分かりやすく「返済倍数」と呼んでいます。

    DCRの計算式は以下の通り。

     

    DCR(返済倍数)= NOI(営業純利益) ÷ 借入金返済額

     

    先ほど「お金を借りて儲ける」と言いましたが、お金を借りる際の最大の懸念点は「お金を返せなくなったらどうしよう…」に尽きるでしょう。

    そこで、DCRの算出です。DCR=返済倍数とは、要は、「返済に対して収入が何倍あるか」の数値です。返済額に対してNOIが十分にあれば、「お金を返せなくなる」という最悪の結末を回避しやすくなります。

    闇雲にお金を借りてリノベーションをするのではなく、DCRから「借りても大丈夫な条件」を導いて、安全性の高いリノベーションを行なおう、という狙いです。

     

    一般に、DCRの数値目標は「1.5以上」と言われています。

    では、次の事例Aと事例B、DCRはそれぞれいくつでしょうか?

    そして、どちらのほうがDCRの判定としては「安全」な賃貸経営でしょうか?

    なお、どちらのNOI率も75%とします。

     

    <事例A>

    賃料12万円が10室、年間返済950万円

    <事例B>

    賃料5万円が6室、年間返済160万円

     

    いかがですか?

    NOIの算出方法は、私のコラムを読んでいる皆さんなら大丈夫ですよね。

    ではそれぞれの計算結果です。

     

    <事例A>

    12万円×10室×12ヶ月×75% ÷ 950万円 = 1.14(四捨五入)

    <事例B>

    5万円×6室×12ヶ月×75% ÷ 160万円 = 1.69(四捨五入)

     

    というわけで、DCRが1.5を超える事例Bのほうが「安全」な賃貸経営という結果になりました。

    このように、DCRは賃料の多寡ではなく、あくまで返済とのバランスによって判断を行なう指標となっています。

     

    さて、次はこれを「リノベーション提案」に活用してみます。

    つまり、私たちが最終的にオーナーに伝えたい結論、

    「オーナーさん、お金がないならお金を借りてでもリノベーションしましょう。今のままでは空室損が膨らんでいくだけです。今回の企画なら「返済できなくなる」ということもありません。自分のお金を使わずに賃料収入を増やすことができますよ」

    …を導くための「逆算」を行なうのです。

    DCRからの逆算で考えるリノベーション提案

    メゾンHARADAのリノベーション

    • 提案対象は築25年の2DK、40㎡、3部屋
    • どの部屋も105,000円で募集しているが決まらず、現在は空室
    • 値下げすれば決まると思われるが、その際の賃料想定は100,000円
    • 和室⇒洋室への改装、1LDKへの間取り変更、キッチン入れ替えのリノベーションプランを提案
    • 費用は一室180万円だが、3部屋まとめての発注で500万円となる
    • ローンを使う場合、条件は期間15年、金利2%
    • NOI率は75%とする

    まずは、先ほど学んだDCRを算出することを考えましょう。

    そのためには、まずは年間返済額の算出が必要です。

    お手元に金融電卓がある方は、一応、自分で計算してみてくださいね。

    期間15年、金利2%で500万円全額を借りますので、月々の返済は32,175円。年間の借入返済金額は386,100円と算出できるはずです。

     

    さて、この返済額をもとに、DCRが1.5を超えるようなリノベーションを行ないたいのです。

     

    仮に目標として、DCR=1.60を目指すとしましょう。

    すると、必要となるNOIを逆算することができるはずです。

     

      NOI〇〇万円 ÷ 返済386,100円 = DCR1.60

      NOI〇〇万円 = DCR1.60 × 返済386,100円

      NOI = 617,760円

     

    では、ここで一度考えを整理しておきましょう。

    このNOIは、あくまで「リノベーションのために借りたお金に対して必要なNOI」です。

    そしてこのリノベーションは、「賃料を上げて決めるためのリノベーション」です。

    つまり、このリノベーションを「(DCR的な判断における)安全」に行なうならば、「NOIが617,760円増えるくらい賃料を上げる必要がある」ということを示しています。

     

    NOIが617,760円も増える状況を作るには、実際にはどれくらい賃料を上げればいいのでしょうか。

    NOI率75%で割り戻してみましょう。

     

      必要な賃料上昇 = 617,760円 ÷ NOI率75%

      必要な賃料上昇 = 823,680円

     

    1室ごと・月あたりの賃料に直してみます。

     

      1室・月額 = 823,680円 ÷ 3室 ÷ 12ヶ月

      1室・月額 = 22,880円

     

    さて、ここで判断です。

    ここまでの計算結果から、DCR目標1.60を叶えるためには、この内容のリノベによって約2万3千円の賃料アップが必要ということが分かりました。

    果たして、皆さんのエリアでは現実的でしょうか?

    築25年、40㎡の物件です。洋室への変更&1LDKへの間取り変更で、12万3千円の家賃を取ることができそうでしょうか?

     

    「これは…、ちょっと厳しい…。上げられて1万5千円が限度…」

     

    もし、そのような結論だとしたら、このリノベのプランや借り入れ条件に調整が必要である証拠です。

    このままでは当然オーナーの納得は得られないでしょうし、無理に企画を進めたとしても、「決まらない部屋と借金だけが残った」という悪い評判が立ちかねません。

    貴社の信用を守るためにも、企画の見直しをしてみましょう。

    適切なプラン内容へと変更するには、どんな方法が考えられるでしょうか。

    プラン改善のための「施工費」「借入金」「DCR」の調整

     

    プラン改善において、注目したいのは次の3つの項目です。

    ■施工費が高すぎる

    施工内容に対して「2万円アップ」が現実的でないということは、そもそも工事のコスパが悪いということです。

    工事費を抑えることができれば、賃料を上げる幅も少なくて済むはず。施工費を落とすことで投資効率を高めるのです。

    方法は2つあります。

     1.もっと安い施工業者を使う
     2.施工内容を、もっと安くて賃料の上がるものに切り替える

    たとえば、500万円のリノベーションを「450万円でやります!」という業者を見つけられれば、それだけで投資効率は大きく改善します。

    ■借入額を少なくする

    DCRは前述の通り「返せなくなる」というリスクに対する安全指標です。返せなくなる、というリスクを下げるには、そもそも「たくさん借りない」という方法があります。

    つまり、自己資金の投入です。

    全額借入は理想ですが、100万円だけでも自己資金を投入できれば、DCRはかなり改善させることができるでしょう。

    ■DCRの目標値を下げる

    DCRの目標は1.5以上だ、とお伝えしました。

    しかし世間一般では、この数字よりも低い数値で投資を行なう人も少なくありません。要は、投資家本人がリスクをどれだけ取るか、という問題です。DCRが1.2でも、手元にNOIが残ることに変わりありません。

    また、DCRのジレンマは、DCRを高く設定すればするほど、必要になるNOIが多くなる=投資として現実的ではなくなる(そんな夢のような儲け話はない)、という点です。

    DCR=1.60の設定では「賃料2.3万円アップ」という現実的ではない結論が出た以上、これを少し妥協するのも選択肢のひとつです。基準は1.5以上と言いましたが、DCR=1.40でも、まだなんとかなる数値です。

    調整後のプランの確認

    では、今の改善点3つを反映して、改めて計算をしてみましょう。

     

      ・施工費:500万円 ⇒ 450万円

      ・借入額:満額借入 ⇒ 350万円(自己資金100万円)

      ・DCR:1.60 ⇒ 1.40

     

    金利2%、期間15年で350万円を借りた場合、月額の返済額は22,523円、年間で270,276円です。先ほどと同様に、DCR=1.40から、月あたりに必要な賃料アップの額を算出してみましょう。

     

      返済額270,276円 × DCR1.40 = NOI 378,386円

      NOI 378,386円 ÷ NOI率75% = 賃料上昇 504,515円

      一室当たりの賃料アップ = 賃料上昇504,514円 ÷ 3室 ÷ 12ヶ月

      一室当たりの賃料アップ = 14,014円

     

    …いかがでしょうか。

    確か、「上げられて1万5千円が限度」でしたよね?

    この企画であれば、現実的な賃料アップでリノベーションを実施できそうです!

     

    一点、気を付けたいのが、プランの調整によって「自己資金を入れている」という部分です。

    オーナーとしては、自分で入れた100万円を早々に回収したいはずです。何年で回収できるか確認しておきましょう。

     

      NOI 378,386円 - 返済270,276円 = 年間の手残り108,110円

      手残り108,110円 ÷ 自己資金100万円 = 自己資金利回り10.8%

     

    自己資金利回り10.8%ということは、9.3年で回収できるということです。

    この数値なら、ゴーサインを出してくれるオーナーも少なくないのではないでしょうか?

    お金がないと嘆くオーナーにも、お金を借りるのが怖いというオーナーにも、皆さんはきっとこう言うことができるはずです。

     

    「オーナーさん、お金がないならお金を借りてでもリノベーションしましょう。今のままでは空室損が膨らんでいくだけです。今回の企画なら「返済できなくなる」ということもありません。自分のお金を使わずに賃料収入を増やすことができますよ」

     

    まあ、実際には…、多少のお金は支払っていただかなければならないのですが。苦笑

     

    さて、以上でDCRを使った提案手法の説明は終わりますが、前回と今回とで、リノベーション提案には様々な提案の切り口があることを理解いただけたことと思います。

    「僕が気合いで決めますからリノベーションしましょう!」でダメだったなら、提案の切り口を変えましょう。

    数字でロジカルに提案することを覚えると、投資に対するオーナーの気持ちにも寄り添えるようになりますし、何よりきっと提案営業が楽しくなるはずです。これからも様々な提案手法を学んでいきましょう!

     

    それでは、また次回。

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