雨漏り被害を「入居者負担」とする特約は有効か?
オーナーが賠償拒否、入居者激怒で泥沼に
今回、管理会社から寄せられた相談は、「雨漏りで入居者の家財道具に被害が及んでも、オーナーの責任としない特約は有効か」というものでした。
相談内容によると、物件では以前も雨漏りが起きており、オーナーは管理会社が手配した業者で修繕を行なったとのこと。しかし、今回また雨漏りが発生したことで、前回担当した業者に不信感を持ったオーナーは、自分で業者を選定し手配することに。しかし、手配に時間がかかったことで入居者の家財道具に被害が拡大。入居者は激怒してしまい、オーナーに損害賠償請求する事態となってしまいました。
一方、オーナーは、特約の「雨漏り等で入居者の家財道具に被害が出てもオーナーはその損害を負担しない」旨の条項を理由に、損害賠償を拒否。雨漏り修繕は負担しても入居者の家財道具までは面倒を見られないと主張しています。
果たして、この特約はどこまで有効なのでしょうか。また、トラブルを収めるために、管理会社はどのように対応すればいいのでしょうか。
相談ダイジェスト
- 雨漏りで入居者の家財道具に被害。入居者から賠償請求の連絡が届いた
- 特約の「雨漏り被害は入居者が負担する」条項を理由にオーナーは賠償拒否
- 雨漏り被害を入居者負担とする特約は有効なのかと相談
- オーナー負担となった場合、管理会社としてどのように対応するべきか
専門家の回答
入居者負担の特約「当然に無効」とはならない
問題の「雨漏り被害を入居者負担」とする特約。一般に借主不利の特約は無効だと思われるかもしれませんが、結論から言うと、特約は当然に無効とはなりません。特約が有効かどうかの判断は、賃貸借契約が結ばれた際の物件の状況や、賃料などを総合的に考慮し決めていくことになるからです。
例えば、ひどく老朽化した物件で、借主が雨漏り被害のリスクを知りながら安い賃料で借りた場合、「雨漏り修繕はオーナー負担とするから、家財道具は入居者の責任で管理して」とする特約は、必ずしも借主に不利とは言えません。借主はリスクを承知で借りていますし、リスクの代わりに賃料を安くしてもらう恩恵を受けているからです。
従って、特約が有効かどうかは賃貸借契約を結んだときの状況を調べる必要があります。そのうえで特約に合理性があれば有効、なければ無効という判断になってくるでしょう。
※ただし、賃借人が個人であった場合には、消費者契約法により特約が無効となる可能性もあります。
原則オーナー負担、入居者感情を考慮して早期解決を
上記を受けて今回のケースを考えると、契約締結の状況次第では、入居者負担の特約は必ずしも無効ではないということになります。
しかし一方で、オーナーには雨漏り修繕が遅れてしまったという過失があるのも事実です。「賃貸物を適切に使用収益させる義務」に違反していますので、たとえ特約があるとしても、オーナーには損害賠償責任があると言えます。
管理会社としては、上記の旨をオーナーに伝え、なるべく早く納得してもらえるよう努めたいものです。築古物件になればなるほど、今の入居者が退去してしまったら次がすぐに決まるとは限りません。解約抑止の点も考慮してオーナーを説得し、オーナーの納得を引き出していきましょう。
貸主・借主双方の保険適用の可能性を探る
雨漏り被害の負担についてオーナー・入居者と交渉を進めながら、合わせて確認しておきたいのがオーナーの火災保険です。
貸主側の過失で雨漏り被害が起きた場合、通常なら火災保険の補償外ですが、それでも保険が下りる可能性はないとは言えません。もし火災保険で補償を受けられるなら、オーナー・入居者の態度もやわらぎ、話がスムーズにまとまることも期待できるでしょう。ひとまず保険会社に連絡して交渉することをお勧めします。
また、入居者の家財被害について特約の通り、入居者の家財保険で対応してもらうようお願いすることも並行して進めましょう。
入居者にとっても、オーナーの火災保険の査定を待つより、自身の家財保険の方が早く補償を受けられる可能性があります。自動車保険などと異なり、家財保険で保険利用をしてもその後の保険料が上がりませんので、入居者の損にもならないでしょう。
もちろん、入居者感情を考えると難しい交渉になると思いますが、特約がある以上、入居者に全く責任がないとは言えない状況です。管理会社としては貸主側の非を認めつつ、何とか協力してもらえるようお願いベースで入居者と交渉していきたいものです。
※この事例は2022年10月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
【賃貸管理会社のためのトラブル解決事例】 |
【賃貸管理のトラブル・困った! いつでも相談したいなら】 |