宅建試験の民法・権利関係は、広い法律分野から出題されるため「どこから勉強すれば良いか分からない」「どれが重要か知りたい」という人も多いでしょう。
民法の中でも「抵当権・根抵当権」は毎年のように出題される項目の1つです。
どちらも一見複雑に感じますが、基本的なところをしっかりと抑さえておけば、いわゆる「捨て問」以外は正解を導き出せるようになるはずです。
今回は民法・権利関係の「抵当権・根抵当権」について解説するので、優先的にマスターしましょう。
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この記事で学べること
抵当権とは
抵当権とは、抵当権設定者(債務者)がお金を返せない状況になってしまった場合に、抵当権者(債権者)が抵当権設定者の「土地や建物」を競売にかけ、他の債権者に優先して返済を受けることができる権利のことです。
※混同しないように気を付けよう
抵当権設定者(債務者)=お金を借りた人
抵当権者(債権者)=お金を貸した人(銀行など)
抵当権のポイント
- 抵当権は土地や建物などの不動産だけでなく、地上権・永小作権にも設定することができる。
- 賃借権には設定することができない。
- 抵当権は当事者の合意があれば成立するが、第三者に対抗するためには登記が必要。
ここで勘の良い方は「1つの不動産に2人以上が抵当権を設定したらどうなるのだろう」と、疑問に思うかもしれません。
もし、1つの物に対してAさん・Bさんがそれぞれ抵当権を設定した場合には、抵当権の優劣は「登記の前後」で決定します。ですから、土地や建物が競売に出され、売れた場合のお金は1番最初に登記をした人(1番抵当権者)から優先して支払われます。
さらに、抵当権の順位変更は各抵当権者の合意によってすることができますが、その旨を登記しなければ効力を生じないことも覚えておきましょう。
抵当権の性質「付従性」
抵当権には「付従性」という性質があります。具体的には
- 抵当権は被担保債権が成立してはじめて成立する。
- 抵当権は被担保債権が返済などで消滅すれば、それに従い消滅する。
つまり、債務者が「抵当権を設定するのでお金を貸してください」と申し込んだが、そもそもお金が借りられなかった場合には、当然、抵当権も成立しません。
そして、抵当権の設定後、債務者がお金を返済し被担保債権が消滅すれば、抵当権も消滅します。
宅建試験の問題では「被担保債権が消滅したのに、抵当権が残っている」などという状況の選択肢が出ているので、正確に覚えておきましょう。
抵当権の性質「随伴性」
抵当権には「随伴性」という性質もあります。具体的には「被担保債権が債権の譲渡や相続により移転すると、抵当権も共に移転する」ことです。
抵当権の性質「物上代位性」
抵当権の性質「物上代位性」のポイントは、以下の2点です。
- 抵当権が設定された不動産の売却・賃貸・滅失・損傷によって競売にかけることができなくなった場合、抵当権設定者(債務者)が受けるべき金銭などを差し押さえることができる
- ただし、物上代位権を行使するためには、抵当権設定者(債務者)が金銭などを受け取る前に差し押さえる必要がある
たとえば、抵当権を設定していた建物が火事で焼失してしまったとします。建物を競売にかける予定があったとしても、焼失した後では競売にかけることができないため、かわりに物上代位権を行使することができます。
この場合、建物に設定されていた火災保険の保険金を、抵当権設定者(債務者)が受け取る前に、差し押さえて借金の返済に充てます。
抵当権が設定された不動産の成り代わり=「物上代位」と理解すると覚えやすいでしょう。
抵当権の効力と範囲
土地に抵当権を設定した場合、その効力は土地上の建物には及びません。同様に、建物に抵当権を設定した場合、その効力は建物の敷地には及びません。
しかし、建物に抵当権を設定した場合、建物についているエアコンや棚といった「従物」は、住物が抵当権設定時に既に建物に付いていたのであれば効力は及びます。
被担保債権の範囲
複数の債権者がいる場合、利息ついては満期となった最後の2年分についてのみ優先的に弁済を受けることができます。
しかし、後順位抵当権者がいない場合には、この2年という規定は適応されません。
抵当権と第三者について
ここでは、抵当権が設定された不動産の賃借権や所有権を取得した第三者について解説します。
抵当権が設定された土地や建物を借りた場合
ポイントは「抵当権と賃借権のどちらが先に登記(対抗力)を備えたか」です。
たとえば、以下のケースを考えてみましょう。
①Bさんは自分の所有するb建物に、Aさんのための抵当権を設定した
②Aさんは抵当権を登記した
③その後、BさんはCさん(賃借人)に「抵当権が設定されたb建物」を貸した
④Bさんの弁済が遅れたため、Aさんはb建物を競売にかけた
⑤競売によりDさんが落札した
この場合、Cさんは家から出ていく必要はあるのでしょうか。ポイントは「抵当権(Aさん)と賃借権(Cさん)のどちらが先に登記(対抗力)を備えたか」です。
Aさんの抵当権が先に登記されているため、Cさんは出ていかなければなりません。反対に、CさんがAさんより先に建物の引き渡しを受けて対抗力を備えていれば、Cさんが出ていく必要はありません。
抵当権のついている土地や建物を購入した場合
購入所有権を取得した場合も、ポイントは「登記の前後」です。
①Bさんは自分の所有するb建物に、Aさんのための抵当権を設定した
②Aさんは抵当権を登記した
③その後、BさんはCさん(賃借人)に「抵当権が設定されたb建物」を売却した
④Bさんの弁済が遅れたため、Aさんはb建物を競売にかけた
この場合でもポイントは登記の前後です。
Aさんの抵当権が先に登記されているため、Cさんは抵当権つきの土地を購入していることになり、抵当権が実行されれば土地や建物の所有権を失います。
根抵当権とは
根抵当権とは、不動産を担保とした時「上限額(極度額)」と「債権の種類」を決め、この一定の範囲内であれば何度も繰り返しお金を貸し借りできる権利です。
宅建の試験では抵当権より出題頻度は少なく、さらに「抵当権より難しい」と感じる方も多いですが、ポイントを抑えれば得点源にしやすいので、抵当権と比較しながら理解しましょう。
以下の例を元に見てみましょう。
飲食店を営むAさんは、毎月Bさんから30万円分の食材を仕入れる契約を結んでいます。
Bさんは契約だけでなく担保がほしいため、Aさんの飲食店に抵当権を設定しました。
抵当権は、30万円を支払い終わったら消滅しますが、毎月仕入れのたびに抵当権を設定するのはAさんもBさんも面倒ですよね。
このような場合に、根抵当権を設定しておけば「食材の仕入れのため」という一定の取引の範囲内で、上限額(極度額)まで何度も借りることができます。
根抵当権の元本確定とは
先ほどもお伝えしましたが、根抵当権は一定の取引の範囲内であれば、上限額まで何度もお金を借りることができます。
つまり、一度お金を全て返したからといって、根抵当権が消滅することはありません。そのため、期日を決めて、その時点でいくらお金を返す義務が残っているのか明確にすることを「元本確定」と言います。
もし、元本確定の期日を定めていなかったとしても、根抵当権の設定の時から「3年を経過したとき」は、元本の確定を請求することができる点も覚えておきましょう。そして、元本確定後は普通の「抵当権」と同じ性質になります。
根抵当権の特徴2つ
元本確定前の根抵当権には「付従性」と「随伴性」がありません。
元本確定前は、借りていたお金を全て返したからといって根抵当権が消滅することはなく、 またいつでも借りられるようになっています。
さらに、被担保債権が譲渡されても、根抵当権は移転しません。また、根抵当権は確定した元本のほか、利息や損害遅延金もすべて極度額まで担保するため、抵当権のように利息は最後の2年分という規定もありません。
まとめ
この記事では「抵当権・根抵当権」についてお伝えしました。抵当権・根抵当権のポイントは、以下の6つです。
- 抵当権は、第三者に対抗するためには登記が必要。
- 抵当権には「付従性」があり、被担保債権が成立してはじめて成立し、被担保債権が消滅すればそれに従い消滅する。
- 抵当権には「随伴性」があり、被担保債権が債権の譲渡や相続により移転すると、抵当権も共に移転する。
- 抵当権は物上代位権を行使することができる。
- 根抵当権には「付従性」と「随伴性」がない。
- 根抵当権は元本確定後、普通の抵当権と同じ性質になる。
どちらの項目も複雑に感じるかもしれませんが、基本的なところをしっかりと抑さえておけば、いわゆる「捨て問」以外は正解を導き出せるようになるはずです。特に、根抵当権は元本確定後、普通の抵当権と同じ性質になることを覚えておくと理解しやすいでしょう。
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