来たる台風、管理会社はどう備える?
近年、河川の氾濫や土砂災害により日本各地で痛ましい被害が報じられています。つい先日は静岡県熱海市で大規模な土石流が発生し、その被害は全国に大きなショックを与えました。大雨を原因とする災害は、川沿いをはじめ、山や丘陵近くの傾斜地や、建物が密集する都市部など、日本全国どこで起きても不思議ではありません。
特にこれからの時期、注意したいのは「台風シーズン」です。
今回寄せられた相談も、台風対策に悩む賃貸管理会社からの声でした。とはいえ、台風に対して管理会社にできることはそう多くありません。それでも物件や入居者を守るために、管理会社は最低限どのような備えをしておけばいいのでしょうか?
【相談ダイジェスト】
- 管理物件のある地域では最近、河川の氾濫や浸水など災害が頻発している
- 特にこれからの台風シーズンに備えて管理物件の防災対策をしておきたい
- 管理会社が事前にできる台風対策を教えてほしいと相談
- 台風通過後に管理会社がすべきことは何か
専門家の回答
冒頭でも述べましたが、台風対策をするにあたり、前提として賃貸管理会社にできることは限られてきます。
実際に大型の台風が襲来し、警報・注意報などが発令された場合は、自治体からの避難指示などに速やかに従い、行動するべきでしょう。
そうした緊急事態とは別に、記事では管理会社ができる最低限の台風対策について「事前対策」「事後対策」のふたつに分けて説明していきます。
賃貸管理会社ができる事前対策
まずは台風が来る前にしておきたい「事前対策」です。
台風対策の明暗を分けるのは事前の備えと言っても過言ではありません。台風襲来前の入居者対応、片付けておくべきもの、備蓄しておくべきものを確認します。
注意喚起・危険物の除去・設備の確認
【入居者への注意喚起】
台風シーズンになる前に、入居者に対して手紙や電話、掲示板で注意喚起をしましょう。注意内容としては次のようなものが挙げられます。
《注意喚起する内容例》
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【危険物の除去】
物件に設置してある現地看板やのぼりは、強風により飛ばされ、人や物を傷つける恐れがあります。現地に足を運び、飛ばされやすいものは事前に回収しておきましょう。
【扉をふさぐ】
一般的な開き戸は強風にあおられ手を挟んだり、破損したりする場合があります。物件の裏口など、入居者の出入りに支障がない限りは、掲示板などで通知したうえで施錠するようにしましょう。
ちなみに、「沖縄」のような台風頻発地域では、台風の間、オートロックの扉を開け放しにするのが常識となっています。
オートロックは停電すると開かなくなりますし、風圧でガラスが割れる恐れがあるため、非常に強い台風が予想される場合は入居者に告知したうえで開け放しにするのも一手でしょう。
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緊急時の備品・保険の確認
【ベランダのパーテーション】
台風被害で意外に多いのが、強風や飛来物によってベランダのパーテーション(へだて板)に穴が開くなどして破損する事故です。入居者が気にしやすい箇所ですので、あらかじめ予備を購入して備蓄しておくと復旧もスムーズでしょう。
【エアコン】
エアコンの室外機は台風に弱く、強風で室外機のモーターやブレードなどが壊れたり、冷却ガスが漏れてしまったりする恐れがあります。台風のときは、入居者に故障リスクを説明したうえで、使用を控えてもらうようアナウンスしましょう。
【オーナーの火災保険】
台風シーズン前に、オーナーに火災保険の内容見直しをアナウンスしましょう。火災保険では、床上浸水などの被害を補償する「水災補償」や、強風でドアなどが破損した場合に使える「風災補償」を付けられます。しかし、オーナーのなかには保険料を節約するため補償を付けていないケースもありますので、物件の災害リスクを考慮して、必要なら補償を付けるよう提案しましょう
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このほか、管理会社の事前対策として「食品や小物類を備蓄しておく」「社員の連絡網を作成しておく」といった備えをしておくといいでしょう。
なお、備蓄品の例は次のとおりです。
《備蓄品一例》
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ことわざで「備えあれば憂いなし」とも言います。上にあげた備蓄品をすべてとは言いませんが、できるだけ揃えておけば、いざというときにも安心でしょう。ちなみに、こうした備品類の「使用期限」「賞味期限」の管理担当も設けられると尚良しですね。
また、台風が来る前に備蓄品を入居者に対して提供できれば、入居者満足度の向上や物件保護にも役立ちます。
賃貸管理会社ができる事後対策
管理会社にとっては、台風が過ぎ去ったあとの「事後対策」も重要です。
管理物件の周辺には飛来物が散乱しているでしょうし、飛来物が当たって窓ガラスなどが割れているかもしれません。できるだけ早く被害状況を確認し、二次被害が起きないよう先手を打っていきましょう。
その際、基本となるのが管理物件の早期見回りです。
入居者からも「窓ガラスが割れた!」などの連絡が入ることが多いですが、そうした不具合への対応だけでなく、実際に現地を見て回り、異常がないかを直接確認できるといいでしょう。二次被害を防ぐだけでなく、オーナーや入居者の満足度向上にも繋がります。
主な点検ポイントは次のとおりです。
《点検ポイント》
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管理物件の水害リスク・土砂災害リスクのチェックも重要
台風対策では、念入りに事前準備を行ない、台風通過後はすみやかに事後対策を実施することが大切です。そのためには、有事でもスムーズに動ける社内体制を整えておく必要があります。災害時のチーム編成や、対応マニュアルを作成して、管理物件や入居者を守れるよう備えをしておきましょう。
また、管理物件の水害リスク・土砂災害リスクを事前に把握しておくと対策も練りやすくなります。
自治体のハザードマップのほか、国土交通省が公表している「重ねるハザードマップ」や、埼玉大学提供の「今昔マップ on the web」といったWebサービスを利用すると、管理物件の災害リスクを把握しやすくなるでしょう。
繰り返しますが、天災はいつどこで起こるかわからないものです。台風は毎年やって来るものですので、自分事として日ごろから抜かりなく準備をしておきましょう。
※この事例は2020年9月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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