賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「業務効率化のゴール」です。
ゴールは業務効率化、という誤解
こんにちは。コンサルタントの高橋です。
賃貸管理の現場ではIT化やアウトソーシングの活用など「業務効率化」が叫ばれて久しくなりました。これらの変化は人材不足、働き方改革、業務のリモート化など数々の課題を乗り切るための必要不可欠な存在となっています。
煩雑な入力業務を軽減するRPAやシステム連携、仲介会社対応を省力化するWEB機能の充実、入居者入電の対応負荷を減らすコールセンターの活用…、しかし単に目の前の課題をクリアするだけでは片手落ちです。
例えば、人材不足が解消された、社員が早く帰れるようになった、場所を問わず業務ができるようになった、これらは重要ではあるものの「マイナスがゼロに戻っただけ」とも言え、経営戦略的なゴールとは言い切れないからです。
迷走を生む、経営と現場の意識の違い
業務効率化のゴールは、ずばり社員の「労働生産性の向上」です。
労働生産性とは労働量(時間や人的コストなど)に対してどれだけの付加価値が得られているかの指標ですが、要はどれだけ売上につながる仕事ができているかということ。管理会社においては提案業務であり、特に管理受託営業がその代表格といえるでしょう。
おそらく経営者や会社の運営に携わる方は、IT化・アウトソーシングといった投資のリターンが単なる業務効率化だけでないことを理解されているはずです。
弊社クライアントの経営者の皆さまも、大半が効率化ツールの導入目的に「生産性の向上」「管理拡大」と回答します。
しかし、ツールの導入をもってしても、管理戸数に伸び悩む企業が多いことも事実です。ゴールが見えていても、想定通りに辿り着けない現実があるのです。
私はその原因に、まず「会社の考えが社員にうまく伝わっていない」ことを挙げます。
会社は社員に対して「効率化によって時間を作ったのだから、管理戸数をもっと増やせ」と成果を求めますが、ツール導入時の準備が不十分だと、ここですれ違いが起こります。
仕事柄、私は現場の方々にもヒアリングを行ないますが、現場社員の皆さんは往々にして「せっかく仕事が回るようになったのに、新しい仕事が増えては効率化した意味がない」と考えています。
つまり、会社が目指すべきゴールとして「労働生産性の向上」を掲げているにもかかわらず、社員は見せかけのゴールである「効率化」「業務負荷の低減」で満足してしまっているのです。(図1)
図1.業務効率化における目指すべきフロー
日頃から社員との足並みを揃える号令を
一言で言えば、すれ違いは「会社のメッセージ不足」が原因です。
「何も言われずとも自ら考え、売り上げを作る力」を社員に期待したい気持ちはよく分かりますが、しかし現実はそう上手くいきません。まず会社は社員に対して効率化の目的をはっきり伝える必要があります。
効率化は本当にやるべき重要な業務を選択するための手段であり、目指すべきゴールは別にあるのだと明示するのです。
管理を増やすことがゴールであれば、なぜ増やす必要があるのか、それがどのくらい重要な業務なのかを理解させなくてはなりません。
そして、言葉だけでなく徹底的に、社員がゴールへと突き進むための環境作りを行ないます。効率化によって捻出されたリソースが無目的に発散されてしまわぬよう、ゴールへと向かう道筋を会社主導で作っていくのです。
業務がいくらか削減されたところで、社員側は自然発生し続ける管理業務を理由になかなか余剰時間を活用しません。
しかし会社側がきちんとメッセージを発して効率化を断行すれば、会社の将来を左右する重要な任務があることを自覚し、前向きになる社員も出てくるでしょう。
また、レールが敷かれてしまえば言い訳もできなくなり、社員も覚悟を決めるはずです。各々回り方は違えども、結果として社員と会社が同じ方向を向くことになるのです。
もちろん、足並みが揃ったところで受託営業のスタート地点に立ったに過ぎません。
オーナー・業者訪問、セミナー開催、WEB集客、商品開発など営業のやるべきことは山積みです。形になるまで数年かかる施策もあるでしょうが、経営者側が功を焦ると社員の施策は長続きせず、どれも中途半端に終わってしまいます。
まずは売上の成果ではなく行動の成果に目を向けてみることも重要です。
何のために業務効率化を進めるのか。
それは、本来やるべき重要な仕事を選択するため、一人ひとりの生産性を高めるため、そして会社が求めるゴールに導くため。施策の前後だけでなく、日常的にメッセージを発信することも大切なのです。
効率化はあくまで「手段」であると全社で認識し、「ゴール」に向かって一丸となって取り組んで行く必要があるでしょう。