賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「目標稼働率を達成するための平均空室日数」です。
「空室を早く決める」ための指標を手に入れる
こんにちは、コンサルタントの高橋です。
さて、賃貸管理会社にとって収入の柱となる「管理料収入」。ご存じのとおり、管理料とは、家主から委託された物件の建物管理・入居者対応など、賃貸管理業務を行なう対価として得られる報酬です。
相場は入居者の支払う家賃の数%が一般的で、基本的には「入居中の部屋」分しかいただけません。そのため管理会社にとっては、管理物件の入居割合を示す「稼働率」が重要な指標となってきます。そして、安定的な管理料収入が見込めるように、またオーナーへのアピールにもなるようにと、競合他社や近隣相場を意識して「目標稼働率」を定めることが多いでしょう。
しかし、せっかく目標を立てたものの、普段の募集業務では「早く決めるにこしたことはない」と、いささか漠然とした意識で取り組んでいる会社が多いように思います。これでは稼働率が下降気味になっても気付くことができず、月末、または期末になって蓋を開けると目標に全く届いていなかった、ということになりかねません。
そうした事態を避けるためにお勧めしたいのが「平均空室日数」という指標です。
稼働率から逆算、「平均空室日数」を算出
当たり前ですが、稼働率を上げるには空室率を下げる必要があります。
稼働している部分を何度見ても空室は埋まりません。そのために稼働率ではなく、あえて空室率を使います。
《式1》
式1は「稼働日数ベースの空室率」を求める式です。
分母は稼働可能な日数、分子は解約が出た場合に想定される空室日数を表しています。単純に今現時点の空室戸数÷総戸数で表す「時点ベースの空室率」に比べ、一定の期間で割合を出しますので、より正確な空室率を求めることができます。
《式2》
式2は式1を展開したもので、解約戸数÷総戸数を「解約率」としてまとめています。
解約率とは、総戸数の中で1年間に何戸解約があったか、その割合を表したものです。仮に管理戸数が1,000戸で年間200戸の解約があったとすると、解約率は20%となります。
ちなみに、解約率は月単位で大きく変動しますが、年間で計測すると実は大きな差が生じないのが特徴です。
例えば去年の解約率が25%だったとすると、物件や入居者層に大きな変動がなければ(合わせてコロナなどの経済的な影響も除外すると)、今年も±1〜2%程度の誤差に収まることがほとんどです。
《式3》
式3は式2をさらに展開したもので、空室率と解約率が判明している状態で1戸解約となった場合の平均空室日数を導き出す式となります。
指標を立てるにあたり、今回とくに着目してほしいのがこの「平均空室日数」です。
冒頭でも説明した通り、稼働率(または空室率)だけだと状況がリアルタイムではわかりにくく、気付いたときには「時すでに遅し」という結果になりかねません。
そこで、平均空室日数です。
平均空室日数を算出し、目の前の物件の空室日数と見比べれば、その物件が稼働率の達成に貢献しているのか、あるいは足を引っ張っているのかが明確になり、どう対策するかの判断がしやすくなります。
稼働率の目標を設定した場合に、目標空室日数、つまり「退去してから何日以内に決めなければならないのか」という具体的な日数を算出することで指標がはっきりわかるのです。
それでは目標稼働率を96%(目標空室率4%)とした場合、平均空室日数がどうなるのかみてみましょう。
なお、解約率は一般的に単身世帯で25%、ファミリー世帯で20%といえます。ここでは25%と設定します。
上の計算式によると、平均空室日数は58.4日となりました。
つまり、目標稼働率96%を達成するためには58.4日以内に決める必要があるということ。
逆の言い方をすると、すべての空室を58.4日より早く決めることができれば、目標稼働率96%はしぜんと達成できることになるのです。
空室を決める目標日数を社内で共有
目標稼働率(空室率)と解約率との関係で導き出される平均空室日数ですが、それをまとめたものが【表1】になります。
上で計算式を紹介しましたが、毎回確認していては時間の無駄ですよね。
まずは自社の管理物件全体の解約率を把握しておき、【表1】を使って目標稼働率から平均空室日数を速算できるようにしておきましょう。
仮に貴社管理物件の解約率が25%であるなら、空室率2%の平均空室日数は【表1】から29日と一目瞭然です。同様に、空室率5%なら73日、10%なら146日と分かります。
そしてこれらの数字こそが、貴社の目標稼働率に対する空室日数目標となります。
つまり、稼働率98%が目標なら1ヶ月(29日)で決める、95%なら2ヶ月半(73日)、90%なら5ヶ月…、という目標数字となるのです。
【表1】は貴社の目標と解約率に合わせてカスタマイズしましょう。
そしてゆくゆくは、表を確認せずとも社員全員が「96%が目標だから◯日以内に決めるんだ」と認識できる環境が構築されるとよいと思います。
デッドラインを超えない段階的な対策を。
注意しなければならないのは、申込みから契約開始まではタイムラグがあることです。
仮に退去から1ヶ月で申込みが入ったからといって、すぐに家賃が発生するわけではありません。
申込みから契約開始(家賃発生)までは平均2週間程度かかると考えると、目標平均空室日数の半月ほど前には申込みが入るようにしなければならないのです。
空室募集担当者は、自社の目標稼働率に対する平均空室日数を算出して、物件ごとの募集日数を空室一覧でこまめにチェックする必要があります。
仮に稼働率96%を目指すのであれば、60日がデッドラインとなります。
そして、退去前の-30日から0日(退去日)、退去から15・30・45・60日後と、経過日に合わせて段階的に対策していくことが必要です。
〈表2.空室日数に合わせた段階的な対策〉
また、月1回程度の定期的な会議を開き、デッドラインを超える(または超えた)物件を社内で共有して、早急に空室を決めきるための施策判断をするとよいでしょう。
段階的に対策をしていくことで、日々の忙しさを理由に行動が遅くなることも少なくなりますし、稼働率の向上やオーナーの信頼獲得にも繋がってくるはずです。
効果的な空室募集をするなら、目標稼働率に向けてスケジュールを作りやすい「平均空室日数」をぜひ活用してみてください。