賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「入居者クレーム対応」です。
入居者心理を理解してネガティブ感情をポジティブに
コールセンターに学ぶ入居者対応のポイント
こんにちは、コンサルタントの高橋です。
「仕事がつらい、もう電話に出たくない…」
賃貸管理の中でどうしても敬遠しがちな業務の一つ、入居者からのクレーム電話対応。近年、カスハラという言葉も取り沙汰されていますが、理不尽な要求をされたり、時には暴力的・侮辱的な言い方をされるケースも。「経験を積めば苦手意識もなくなるから…」そんなベテランの言葉とは裏腹に、その「経験」を積む前にストレスで離職してしまう若い社員も少なくありません。
もはや高負荷業務の代表ともいえるクレーム対応ですが、実は、電話応対時の気遣い一つで入居者のネガティブな感情をポジティブに変えることも可能です。入居者対応コールセンターとして20年以上培ってきた当社の考えを踏まえて解説します。
入居者は〝2つの欲求〟を抱えている
管理会社に連絡をする入居者にはどんな〝欲求〟があるでしょうか。まずは当然に、今の困った状況を改善したいという思いがあります。設備不具合なら修理・交換といった解決を望む〝物理的な欲求〟です。しかし私たち管理会社が物理的欲求を満たそう(解決しよう)と申し出ても、入居者が納得しないことは多々あります。
忘れてはいけないのは、物理的な欲求と対を成すもう一つの欲求〝心理的な欲求〟です。例えば、謝罪してほしい、今の状況をわかってほしいという、トラブル解決とは別軸にある入居者の気持ちです。クレーム対応を上手にこなすには、これら物理的欲求・心理的欲求の2つを同時に満たす必要があるのです。
①謝罪してほしいという心理
物理的な改善(解決)を得ても、入居者には解決までにかかった時間や労力、不便さを訴えたい気持ちがあります。暑い中エアコンが作動せずイライラしながら連絡をされているのであれば、解決のためのヒアリングの前に、まずは心理的欲求をカバーする「ご不便をお掛けし申し訳ありません」の一言を。原因や責任の所在はともかく、管理物件で不便を感じているのは事実ですからね。
②自分の状況を理解してほしい心理
もし入居者が同じ話を何度も繰り返すようであれば、それは自分の置かれている状況をわかってほしいという感情の表れです。すぐに解決策を提案するのではなく、十分な傾聴と共感によって心理的欲求を満たすことに重点を置きましょう。良かれと思って解決を急ぐだけが正しいとは限りません。
③自分が正しいと示したい心理
自分にも非があるのに、主張を曲げずにこちらの話を全く聞かない入居者がいます。掲示板や通知文でお知らせしたことを「そんなの聞いてない」と主張するようなケースです。この場合、いくらこちらに非がないことを主張しても、相手も後に引けないため話は平行線を辿ります。「掲示物をもっと目立たせるべきでした」「直接のご連絡も差し上げるべきでした」など対応した事実を伝えながらも、ここでは決して勝とうとしないこと。謝罪するポイントを見つけ、引き分けに持ち込むことが不満解消の近道です。
電話応対一つで解決スピードが加速
設備トラブルで激昂する入居者。状況確認のために質問ばかりしていると「いいから早く業者をよこしてくれ」とさらにお怒りになる方も。そんな場合は、「業者を手配するために何点か教えてください」「今からご案内することをお試しいただければ直るかもしれません」と『明るい未来』を先に伝えることで、協力的になっていただきやすくなります。
騒音トラブルでは、被害を訴える入居者からの中途半端な情報だけで、騒音元の入居者に事実確認をするのはNG。いつ・どこで・どのような音がしたのか、『具体的なヒアリング』を徹底したうえで騒音元にアプローチしましょう。伝える情報がクリアになると、騒音元の入居者も自分のどんな行動が迷惑をかけているか自覚しやすくなり、問題の長期化を初動で防げる可能性も高まります。
AI入居者対応も心理的欲求がカギ
近年のAIの進化は目覚ましく、入居者対応についてもAIが解決まで導いてくれる未来はそう遠くないでしょう。しかしながら、AIに任せられるのはあくまで〝物理的欲求〟の解決であり、残念ながら〝心理的欲求〟を抱える入居者の不満まで減らせるわけではなさそうです。そうなると、入電の総数は減らせても、心理的欲求を解消できないままの入居者の割合は増加することに。入居者対応を行う社員に、今より高度な電話応対技術が求められることにもなりそうです。
残念ながらもうしばらくは、賃貸管理と入居者対応は表裏一体。入居者満足度を上げる意味でも、社員の離職を防ぐ意味でも、電話応対のスキル向上・社員のストレス軽減を図ってみてはいかがでしょうか。