賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「カスタマーハラスメント」です。
注目集めるカスハラ対策、企業の方針問われる
従業員を守ることが組織を守ることへ
こんにちは、コンサルタントの高橋です。
「ばかやろう!」
「女のお前じゃわからない、男に代われ!」
「夜中だろうが今すぐ来て謝れ!」
…なんとも荒々しい言葉ですが、これは弊社のコールセンタースタッフが入居者から実際に言われた言葉です。
賃貸管理・仲介の現場では、このような暴言を浴びせられた経験がある方も多いのではないでしょうか。度を超えた理不尽なクレームや言動。今はカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)という言葉で認知され、少しずつ対策もされてきましたが、未だに多くの従業員が精神的ダメージを負い、退職を選ぶケースも少なくありません。
表1は、カスハラ経験者の挙げたハラスメントの内容です。個人に対する暴言・脅迫だけでなく、執拗なクレーム・長時間の拘束といった従業員の生産性低下につながる事案もあれば、不当な苦情投稿・SNSでの誹謗中傷など、企業価値低下につながるような行為も目立ちます。
結論を言えば、企業はもっと主体的にカスハラ対策を行なうべきです。なぜなら、カスハラから従業員を守れるのは企業だけであり、従業員を守ることが組織を守ることに直結するからです。
「過度」のラインは企業が示す
同じハラスメントでも、パワハラやセクハラが「本人の感じ方」を判断基準とする一方で、カスハラは顧客の言動・要求をどこまで受け入れるかが「企業の基準」に大きく影響される点が特殊です。極端な話、「うちの会社は高級ホテルのように理不尽な要求にも絶対にNO!と言わない」という方針なら、顧客のどんな横暴もカスハラに該当しないことになります。
また、商品やサービスの不備に対する正当な苦情であれば、それはカスハラではなく大事な意見として真摯に聞き入れる必要があるでしょう。しかし、顧客もだんだんと熱が入り、口調が強くなったり、実現不可能な要求をしてきたり…は、ままあるものです。
その際、「過度」の線引きができるのは企業だけです。なればこそ、企業はその判断基準を事前に決めておくこと、そして、対応方針を従業員に示しておくことが必要です。
明らかなカスハラでも本人は気づけない
表2は企業としてのカスハラ対処方法になりますが、特に重要なのは「②相談対応体制の整備」でしょう。最も避けたいのは、本人が過度な要求をカスハラと認識できず、自分だけで解決しようと抱え込んでしまうこと。
社会人経験や上席対応経験が十分にある人は顧客の言動が「過度」かを判断できますが、クレーム対応に不慣れであったり、自分事として捉えすぎたりする人は、適切な判断ができない可能性が高まります。
かくいう私も、一度だけ判断のできなかった経験があります。まだ社会人駆け出しの頃、私は自分のミスで顧客を大変怒らせてしまいました。心からお詫びをしても許してもらえず、私は顧客の勤務先に行き、半ば軟禁され、脅迫めいた言葉を浴びせられ、土下座を強要され…。
今にして思えばカスハラ(いや犯罪レベルでしょうか汗)と判断できるのですが、事の発端が自身のミスだったこともあり、自分でなんとかせねばとなかなか会社に相談できずにいました。しかし最後は、会社の法務担当が「顧客の過剰な要求」と判断して案件をあっさり引き取ってくれました。その冷静な対応に、心底ホッとしたことを覚えています。
従業員配慮が顧客配慮につながる
適切かつ毅然としたカスハラ対応をするには、本人が抱え込まないようクレームのエスカレーション(上席に指示を仰ぐことや対応を引き継ぐこと)を確立しておくことが有効です。
弊社コールセンターは管理会社の入居者対応を一括代行するサービスですが、やはりエスカレーションをはじめ各種カスハラ対策を行っています。
コールセンターの立場からすれば、電話をかけてくる入居者は「顧客(管理会社)の顧客(大家)の顧客(入居者)」であり、とても大事なお客様ですが、それでもカスハラと判断できる場合には(管理会社にも相談の上で)厳正に対処します。
なぜなら、たとえ顧客であっても従業員の就業環境や精神的健康を脅かす権利はなく、また、企業から大切にされていない従業員が顧客を大切にできるわけがない、とも考えるからです。
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、基本方針から調査データ、判断事例などが掲載されています。参考にしてみてください。