「ニュースにヒトコト! 気になるアレに注目!! 」
このコーナーは、賃貸管理に関するニュースの中から気になるものをピックアップし、当社のコンサルタントがヒトコト言わせていただく企画です。
国交省、宅建事業者の「人の死の告知」で指針
事故発生から3年経過すれば告知義務なし
国土交通省は8日、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表した。
不動産取引に係る心理的瑕疵のうち、取引対象となる不動産において過去に生じた「人の死」について、宅地建物取引業者による調査や告知に係る判断基準がなかったため、円滑な流通・取引が阻害される要因となっていた。また、賃貸住宅オーナーが所有物件で死亡事故等が生じ「事故物件」として取り扱われることを懸念し、単身高齢者の入居を拒む事例も多かった。
こうした課題を解決するため、人の死が生じた不動産の取引に関して、宅建業者が宅建業法上負うべき調査や告知の義務の判断基準を、ガイドラインとして示した。
パブリックコメントを経て、ついにガイドライン実装へ
皆さんこんにちは。コンサルタントの金井です。
2021年5月のパブリックコメントを経て、ついに正式なガイドラインが発表されました。前回の「案」と比べて大きく変更されることなく実装されることとなりました。今回の発表に当たり、改めて中身を振り返っていきましょう。
ご存じのとおり、賃貸住宅における自殺や孤独死などのいわゆる「事故」は、一度起きてしまうと告知義務の対象となり、「家賃を大幅に下げなければ決まらない」「長期空室となってしまう」など、管理会社やオーナーの頭を悩ませてきた大きな問題です。
そして、これまでは告知が必要となる程度・期間が決まっていなかったことで、長年にわたり賃貸経営に影響を及ぼしたり、多くのトラブルを生じさせたりする要因となっていました。
しかし今回、国土交通省が発表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」により、告知が必要な場合と、しなくてもいい場合の明確な線引きがなされたことになります。
では、どのような場合に告知をしなくてもいいのでしょうか。ガイドラインのポイントは次のとおりです。
《告知をしなくてもいい場合》 【1】自然死・不慮の死(賃貸借・売買取引)
【2】事案発生からおおむね3年が経過した死(賃貸借取引)
【3】隣接住戸や通常使用しない共用部での死(賃貸借・売買取引)
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要するに、老衰や病死などの自然死についてはそもそもの告知は不要とされ、専有部や通常使用する共用部での自殺等についても、発生から3年を過ぎれば原則として告知の必要はないとされたわけです(※特殊清掃が行なわれた場合、事件性がある場合については告知が必要)。
これまで多くの事故物件が借り手を見つけられずにいたことを考えると、ようやく改善の兆しが見えてきたように思います。
ガイドラインが高齢者受け入れの追い風に
一方、ガイドラインの制定で高齢者をめぐる賃貸需給にも改善がありそうです。
というのも、孤独死のような「高齢者リスク」は、これまで高齢者の入居を阻む一因となっていました。ところが、ガイドラインにより早期発見ができさえすれば貸主は告知義務を負わないわけですから、見守りサービスなどと組み合わせることである程度のリスクヘッジができるようになったわけです。
少子高齢化が進む日本においては、空室対策として高齢者の受け入れが課題でしたが、今回の発表により高齢者の入居を促進する一助となるでしょう。
また、いわゆる「孤独死保険」についても、今後は需要・供給ともに増加することが予想されます。これまでは事故による家賃減額のリスクがいつまで続くのか不透明だったため、保険適用となる家賃補償期間は6〜12ヶ月程度のものが多くありました。
しかし今回の発表で、告知が必要な期間として3年という具体的な基準が示されたことにより、保険会社としては補償期間を3年として、そこから逆算したうえで保険料を設定できるようになったのです。
管理会社やオーナーとしても、事故による告知が必要となる期間をフルでカバーしてもらえる保険が増えれば、万が一への備えとして孤独死保険に加入を検討する方が増えるのではないでしょうか。
今回のガイドラインは、あくまで現時点で妥当と考えられる一般的な基準であり、取引実務や社会情勢、人々の意識の変化に応じて適宜見直しが行なわれることになります。
とはいえ、長く「事故物件」によるリスクに晒されてきたわれわれ管理会社やオーナーにとって、賃貸経営の追い風となることは間違いありません。今後の経過を見守りつつ、高齢者の受け入れや孤独死保険の活用について改めて検討してみるのもいいかもしれませんね。