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公開日:2022年4月13日

強制執行現場に密着。家賃滞納による「建物明け渡し」手順を追う

強制執行現場に密着。家賃滞納による「建物明け渡し」手順を追う
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「オフィスを飛び出しやってみた。」

このコーナーは、読者の皆さまに賃貸管理の「今」をお伝えするべく、弊社社員がオフィスを飛び出し、社内外のさまざまなイベントに参加する企画です。

 

今回のテーマは、家賃滞納者からお部屋を取り戻すための「建物明け渡しの強制執行」。家賃の支払いに応じない入居者を賃貸物件から強制退去させる手続きですが、賃貸オーナーはもちろん、賃貸管理会社であっても馴染みの薄い方は多いでしょう。

果たして、実際の強制執行はどのように行なわれるのでしょうか。首都圏で賃貸管理業を営む管理会社の強制執行の現場を取材しました。

滞納発覚から建物明け渡し訴訟まで

執行現場に横付けする大型トラック

現場は都内の2階建てアパート

訪れたのは都内にある木造2階建てアパート。狭い1Rが密集した単身者向け物件の2階の角部屋が、今回の執行現場でした。

入居者はAさん。20代前半の若い男性です。入居当初、近所の飲食店に勤務していましたが、失業。再就職できないまま家賃滞納が始まったと言います。

管理会社の担当者によると、強制執行時の家賃滞納額は12ヶ月分に膨れ上がっているとのこと。回収のめどは立たず、これ以上の損害を出さないため、訴訟による早期明け渡しを目指すことになりました。

支払い求めるも入居者と連絡取れず…

さかのぼること滞納1ヶ月目、入居者からの入金がないことを確認した管理会社は、まず電話やショートメールなどで入居者と連絡を取り、速やかな支払いを促します。それでも入金が見られない場合、担当者が物件を訪問し、状況を直接確認することになります。

Aさんの滞納時にも担当者は数回にわたって物件に足を運びました。

ところが、一度も姿を見せることはなく、電話にも出てくれなかったそうです。一方、電気やガスのメーターは止まっておらず、エアコンの室外機が動いていたこともあり住んでいる形跡はあったと言います。

▶関連記事:【コラム】家賃滞納の督促はスピードが命。管理会社が押さえるべき手順と注意点とは?

滞納3か月、建物明け渡し訴訟へ

その後も担当者は督促状を送ったり、安否確認のため警察と一緒に室内を確認したりしたそうですが、Aさんとは一向に連絡が取れず…。

ついに契約解除の目安となる滞納3ヶ月目に突入したため、契約解除の通知とともに、滞納分の支払いと、建物明け渡し請求を内容証明郵便で要求しました。

しかし、Aさんからはやはり音沙汰なし。止む無く管轄の簡易裁判所に建物明け渡し訴訟を起こすことになりました。

▶関連記事:家賃滞納者からお部屋を取り戻すには? 管理会社の「建物明渡訴訟」に同行してみた!

とはいえ、裁判には時間がかかります。今回も、ようやく明け渡しの判決が下りたのは滞納開始から9か月後のことでした。もちろん、その間の家賃も回収できません。

加えて訴訟を起こすにも、滞納の証拠書類などの必要書類を準備しなければならず非常に骨の折れる業務となります。必要なら弁護士や司法書士に訴訟の代行を依頼してみるのもいいかもしれません。

▶関連記事:入居者が家賃滞納のまま行方不明に。明け渡し訴訟を起こすための「公示送達」とは

強制執行【催告】の流れ

※イメージ写真

強制執行の申立て後、執行官と打ち合わせ

では、いよいよ本題の強制執行です。

強制執行は、主に執行日を告げる「催告」と、実際に執行する「断行」に分かれます。

手続きは判決後すぐに実施できるわけではなく、入居者が裁判所からの立ち退き要請になおも応じない場合、実施されることになります。大まかな手順は以下の通りです。

《強制執行の流れ》

  1. 裁判所に強制執行の申立て
  2. 裁判所から立ち退きを要請する催告書送付
  3. 執行官と強制執行に向けた打ち合わせ
  4. 強制執行の催告、執行補助者見積もり
  5. 強制執行の断行、鍵交換

貸主側はまず、強制執行の申立てを管轄の地方裁判所にすることとなります。

強制執行の申立てが受理されると、裁判所は入居者に自主的な立ち退きを要請する催告書を送付。入居者に対して、催告書に書かれた指定の期日までに建物の明け渡しを命じます。

しかし、それでもなお明け渡しが実現しないとき、ついに裁判所から執行官が派遣され、強制執行が始まることになるのです。

困ったときは執行官が頼りに

ここで登場する執行官とは、裁判の執行等の事務を担う地方裁判所に所属する裁判所職員のことで、強制執行を主導する立場となります。

執行官が決まれば、貸主側は執行官と強制執行の打ち合わせを行ない、明け渡しの催告日や、執行補助者(荷物の運び出しを担当する執行業者)の選定などを話し合います。本来、執行補助者は貸主側であらかじめ決めておくものですが、決まっていない場合は執行官から紹介してもらうことも可能です。

貸主側にとって、執行官は強制執行の良きアドバイザーと言えますので、判断に迷うときは積極的に助言を求めるといいでしょう。

強制執行が行なわれる木造2階建て

断行日を告知、残置物運び出しの見積もりも

催告では、執行官を中心に以下の関係者が顔を揃えます。

立会人とは強制執行の公平性を担保するための存在で、申立人(ここでは管理会社)と利害関係のない者が裁判所などから選ばれます。

《登場人物》

  • 執行官
  • 執行補助者の代表者
  • 管理会社の担当者
  • 立会人
  • 鍵業者(管理鍵がない場合)

催告で実施することは、主に入居者に対する明け渡しの期日の伝達自主的な明け渡しの催促残置物の撤去費用の見積もりとなります。多くの場合、入居者は不要な家具等を残して部屋を出ていますので、催告は入居者不在のまま進むことになるでしょう。

執行官と執行補助者は、強制執行で運び出す荷物の量を把握するため室内に立ち入ることになりますので、物件の鍵は忘れずに用意しておく必要があります。管理鍵がない場合はあらかじめ鍵業者を手配しておきましょう。

実況見分が終わると、執行官は「引き渡し期限」(催告日から1ヶ月を経過した日)と、強制執行の断行日(引き渡し期限の数日前)を記した公示書を物件内に貼り付け、現地を後にします(※ただし、実況見分で残置物の量が明らかに少ないときは「即日断行」となる場合があります)。

強制執行費用は貸主側の負担になりがち

その後、執行補助者から運び出す荷物の量に合わせてトラックの台数、作業員の人数などが書かれた見積書が送られてきます。今回は専有面積10㎡弱の物件で残置物の量が少なかったこともあり、強制執行にかかる最終的な費用は30万円ほどとなりました。

本来、こうした執行費用は明け渡しを命じられた入居者の負担となります。しかし、すでに入居者の行方が分からないときは費用を回収できないことも多いでしょう。その場合、強制執行費用が補償範囲に入るなら保証会社、そうでないならオーナーなどの貸主側が負担することになりがちです。

 

《参考:強制執行にかかる料金例一覧》

強制執行【断行】の流れ

残置物が次々と運び出された

家賃滞納による明け渡し物件は「ゴミ屋敷」の可能性も

強制執行の断行時には、執行官や執行補助者、管理会社、立会人のほか、荷物を運ぶための大型車両や作業員が集まります。運び出す荷物の量が多いほどトラックと作業員の数も多くなり、執行費用も高くなります。

今回、明け渡し物件にAさんの姿はすでになく、必要なものだけを持って退去した様子でした。残っていたのは、床に転がったビールの空き缶が数本と、散乱した郵便物雑誌類、コンロに置かれたままの残飯のこびりついたフライパン。また、部屋の奥には黄ばんだ寝具、埃を被ったノートパソコンなどもありました。

室内には酒の臭いが混じった異臭が立ち込めており、中に入るのを少し躊躇うほど。担当者によると、滞納を繰り返す入居者の物件はたいてい汚いらしく、いわゆる「ゴミ屋敷」となっている可能性も高いそうです。

そんな状況ですので、出入りする作業員たちは残置物の運び出しをしながら、放棄とチリトリを持って簡単な掃き掃除もしていました。

鍵交換をして執行終了

最後に鍵交換をして執行終了

幸い、今回は残置物の量が少なかったようで、運び出しは10分もしないうちに完了しました。残置物はその後、規定の保管場所で1ヶ月間保管され、入居者から引き渡しの要求がないときは廃棄処分または競売にて売却されることになります。

強制執行と聞くと何やら不穏な印象がありますが、実際には法に則って黙々と残置物を運び出し、物件を空にする作業という印象でした。

荷物の運び込みが終わるとそのまま解散となり、執行官や執行業者らは足早に去っていきます。そして最後に、管理会社の担当者が鍵交換をして強制執行は終了となります。

《断行日に入居者がいる場合》

ごく稀にですが、強制執行の断行日になっても室内にまだ入居者がいる場合があります。その場合でも強制執行は執り行われ、入居者は外に出されることになります。また、入居者自身も荷物の運び出しをしているときは、処分するもの・しないものを入居者に随時確認しながら運び出しをすることもあるそうです。

強制執行は避けるべき最終手段

強制執行の申立てから執行完了までの期間は、おおむね1ヶ月半程度。執行後、空室となった部屋は、原状回復工事を経てようやく新たな入居者を募集できるようになります。

しかし、家賃滞納が始まってからの期間を考えると、滞納額は十数カ月にも及びます。加えて、裁判にかかる費用や手間を考えると裁判による建物明け渡しは決して得策とは言えません。

なるべく強制執行を避けられるよう、家賃滞納が発覚した時点で入居者に滞納を常習化させない試みが大切です。


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