賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」をオーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「テナント・リテンション」です。
解約抑止という名の空室対策
こんにちは!コンサルタントの萩原です。
賃貸仲介・管理会社で培った10年以上の現場経験を活かし、全国の不動産会社様の収益UP、業務効率化のご提案をさせて頂いております。
唐突ですが、管理会社としてオーナー様の賃貸経営を成功させる! と思った場合、大切なことって何を思い浮かべますか?
ガツガツ提案! 熱い気持ち!
…と管理会社時代の私なら言っているかもしれません。(冗談です笑)
一番身近なもので、避けては通れないことといえばリーシング(空室対策)でしょうか。
家賃収入最大化を目指す場合、もっとも直接的な手段は「稼働率の向上」です。皆さんもあれこれと空室を決めるための対策を講じていますよね。
しかし一方で、「空室対策をしない」という考え方もできると思います。
しないと言っても、もちろん空室を放置するわけではありません。
そもそも入居者が住み続けてくれていれば空室は発生しない、というお話です。
つまり、「空室をつくらない=解約をさせない」という「空室対策」も可能ということ。
今回は解約抑止という名の空室対策、
「テナント・リテンション」について考えてみましょう。
需給バランス崩壊で高まるテナント・リテンションの必要性
一昔前は全国に存在する貸家の数が、住みたいという需要に追いついていませんでした。
敷金2ヶ月、礼金2ヶ月でも部屋が決まっていた時代です。
つまり入退去が多ければ多いほど貸主は礼金で丸儲け。退去時の原状回復費用は敷金から払われていたので持ち出しも発生していませんでした。
貸主が圧倒的に強いと言われる時代です。そりゃあ不動産経営はお金持ちって言われますよね。
しかしそんな時代に終止符が打たれました。
なぜでしょう。
まず、総務省が発表している「住民基本台帳」の人口の推移表をみてみましょう。
図1:住民基本台帳 人口の推移表(総務省)
日本の総人口は平成21年を境に減少してきています。
少子高齢化が進んでいるからです。
次に、下記の新設住宅着工戸数の推移表を御覧ください。(総戸数、持家系・借家系別)
図2:住宅着工統計(国土交通省)
借家は毎年約40万戸が市場に提供され続けています。
人口は減っているのに住宅数は毎年増え続け、需要と供給のバランスが崩れていきます。
結果なにが起こるかと言えば、物件の供給過多による空室の増加です。
図3:住宅・土地統計調査(総務省)
上記表からも分かるように、1968年には住宅数が世帯数を超えました。
需要と供給の逆転です。この差は現在に至るまで広がり続けています。
引っ越しが気軽に。借り手有利となった賃貸市場
需要を上回る住宅の供給によって、貸主と借主の立場は逆転しました。
空室1室を決めるにしても礼金取得は難しくなり、逆に仲介会社に支払う広告宣伝費(AD)が一般的になったことで募集経費が増加しました。
また、国土交通省による原状回復のガイドラインもできあがり、貸主の立場は以前よりも弱いものになりました。
入退去の度に儲かっていた賃貸経営は、入退去の度に損をする形に変化したわけです。
さらには、借主が簡単に引越しできてしまう時代にもなってしまいました。
空室の増加によって競合物件との価格競争は激化。礼金なし、初回家賃1ヶ月無料、仲介手数料無料や半額など、様々な「値引き合戦」が展開された結果、借主は大きな費用をかけずに引っ越しできるようになってしまったのです。
借主が退去する理由は、たいていは結婚や転勤など必要に迫られてのものでした。
しかし最近は、「建物共用部や専有部への不満」「管理会社の対応不満」「周りの入居者への不満」「更新料払うくらいならこの機会に環境変えたい」といった解約理由も目立ちます。
これらはまさに、借り手市場の成立によるものでしょう。
とは言え、これらの解約理由、何か事前に対策できるような気がしませんか?
解約率からみる収支計算の差
では、解約の数によって実際の収入にどれほどの差が生まれるのでしょうか。
解約率を基にみていきましょう。
賃貸住宅における解約率とは「1年間でどのくらい解約(退去)が発生するか」を示す指標のことをいいます。
一般的な解約率は次の通りと言われています。
- シングルタイプ :20~30%程度
- ファミリータイプ :15~25%程度
これを年単位で表すと、このようになります。
- シングルタイプ :3.3~5年程度(1年÷解約率)
- ファミリータイプ :4~6.6年程度(同上)
実際に日管協が出している「賃貸住宅景況調査」の平均居住期間を御覧いただくと、シングル(学生、一般単身等)、ファミリーで同様の結果が読み取れます。
図4:賃貸住宅景況調査(日本賃貸住宅管理協会)
これを基に、ひとまず、ファミリーの平均居住年数を5年と設定しましょう。
この場合、1年間の解約率は20%ということになります。
(計算式:1年÷5年×100=20%)
次に、この平均居住年数を6年に延ばすことができたとします。
つまり解約率を、わずかですが16.6%(1年÷6年=16.6%)まで下げることができたらどうなるでしょうか。
両者の収支を比較してみます。
条件は次の通りとします。
【条件1】
70,000円×10戸の建物【条件2】
入退去のたびに空室支出5ヶ月分(空室期間3ヶ月・広告宣伝費1ヶ月・原状回復費用1ヶ月)がかかる。
年間の満室想定賃料は、70,000円×10戸×12ヶ月=8,400,000円です。
1年間の空室損を計算すると、
《解約率20%の場合》(全10戸なので年間平均解約数は2戸) 《解約率16.6%の場合》(全10戸なので年間平均解約数は1.6戸) |
満室想定8,400,000円から、それぞれの空室損をマイナスします。
《解約率20%の場合》 《解約率16.6%の場合》 |
年間の差額は140,000円。
10年間なら140万円の差になるわけです。
解約戸数についても10年間で見ると、20% ⇒ 20戸、16.6% ⇒ 16戸となりますので、合計4戸の空室リスクを遠ざけることができます。
オーナーには、解約のたびに【空室が長期化してしまうリスク】【長期化に伴う室内設備劣化のリスク】【競合物件との差別化による家賃下落リスク】などが降りかかります。
こうした解約ごとのリスクを遠ざける意味でも、解約の数は可能な限り減らしていく必要がありますよね。
ですから、「テナント・リテンション(入居者保持)」という対策が必要です。
「空室対策」というと、物件に魅力的な設備を足すことや契約条件を調整することをつい想像しがちですが、空室を減らし、オーナーの収支を改善し、解約のリスクを遠ざけることが空室対策であるならば、
「テナント・リテンション」もまた重要な空室対策のひとつであるはずです。
空室が出るたびに慌てて対策をするのではなく、空室が出る「前」に行動を起こし、オーナーの安定経営と収益最大化をサポートするテナント・リテンション。
次回はその具体的な方法について考えてみたいと思います。