賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「ペット可物件のリスクヘッジ」です。
ペット飼育可のメリット・デメリット
こんにちは! コンサルタントの萩原です。
賃貸仲介・管理会社で培った12年間のリアルな体験を活かし、全国の不動産会社様の収益UP・業務効率化のご提案を現場目線で行なわせていただいております。
さて、皆さまは「ペット飼育可能物件」と聞いて、直感的にどのようなことを連想されるでしょうか。私が思い浮かべるイメージは次のようなものです。
《ポジティブ》
《ネガティブ》
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仲介だけでなく管理も経験してきましたので、どうしてもネガティブ目線が入ってきてしまいますね(笑)とはいえ、「ペット可」が強力な空室対策になり得ることは間違いありません。
そこで、いざ導入するとなったとき、ネガティブ要素を「どうすれば取り除けるのか」について具体的なリスクヘッジを考えていきましょう。
ペット可は空室対策・退去抑止に効果的!
さて、ペット可物件のリスクヘッジに触れる前に、そもそも全国にペット可物件は大体どのくらいあるのか、皆さんは予想できますか?
私がポータルサイト「LIFULL HOME’S」で調べたところ、空室物件の総掲載数は4,399,039部屋、ペット可(相談可含む)での掲載数は710,545部屋という結果でした(2021年2月8日時点)。エリアによって差はありますが、全体の割合で示すと、ペットを飼える可能性のある物件が全空室中16.1%しかないことが分かります。
最近は、ペット不可からペット可に条件変更するケースや、ペット共生を謳った新築物件が増えてきているものの、それでもまだ少ない割合に止まっています。
このように希少価値の高いペット飼育可物件ですが、空室対策に有効なのはもちろん、その供給数の少なさから「次の部屋を見つけにくい」という特徴もあります。よほどの理由がなければ引っ越しすることはないと言えますので、退去抑止(テナントリテンション)にも役立つことでしょう。
ペット可物件のリスクと、私のツラい体験談
一方、ペット飼育には、デメリットとして多くのリスクが付きまといます。
たとえば、
- 室内が荒れてボロボロになる(引っかき傷などの破壊行為、尿や嘔吐物によるシミ)
- 原状回復で必要となる莫大な退去費用を借主から回収できない
- 鳴き声や共用部での迷惑行為で近隣からのクレームが相次ぐ
- ペットが子どもを産んで増えすぎてしまう
私自身、上記すべてを経験し、解決するのに毎回非常に苦しい思いをしてきました。
特にツラかったのは、荒れに荒れた猫部屋の退去費用問題です。猫が部屋中で排泄を繰り返した挙句、建具に深刻な引っかき傷を残したことで、クロスやクッションフロアだけでなく、下地(コンパネ)の張替え、建具の交換、塗装塗り替えなど、総額100万円を超える原状回復費用が発生してしまいました。
保証会社の保証対象外だったため、貸主・借主の間に立って調整を行なうこととなり、最終的に80万円の借主負担で落着。しかし、借主が分割でないと払えないと訴えるので、支払い確約書を取り付けたうえで、そこから数ヶ月、入金確認と督促を行なう羽目になりました…。
幸いにも一年ほどで回収することができましたが、通常業務でもパンク状態だった私にとって、精神的に応えるものがありましたね。
初回契約時にできる4つの対策
1.金銭面でペット飼育専用の条件をつくる
そんなトラブルを数回にわたって体験したことおかげで、ペット可物件のトラブルを抑えるには、初回契約時の対策として次の4点が非常に重要ということが見えてきたのです。
▶工事費用確保のため「敷金・礼金」を上乗せ
敷金・礼金を【1ヶ月⇒2ヶ月】、または【2ヶ月⇒3ヶ月】にすることで退去時の担保を増やします。私の場合、猫を飼うときの条件として敷金を4ヶ月に設定したこともありました。
もちろん、敷金・礼金を増やすと初期費用が増えてしまいます。かえって空室対策の効果が薄れてしまうのではと懸念される方もいるかもしれません。しかし、賃貸でペットを飼おうというのに、最初から契約金を渋るような入居者であれば責任感の程度も知れるというもの。心は痛みますが、お断りする方が長期的に見て損はしないでしょう。
▶「敷金償却・敷引き」の特約
この特約は、賃貸借契約の終了時に修繕費の負担問題とは関係なく、貸主が預かった敷金から「一定額を控除する」というものです。西日本ではわりと一般的な商習慣と言えます。
原状回復ガイドラインに従うと、いくらクロスやクッションフロアが汚れていても、原状回復費用の全額を借主負担することはできません。どうしても減価償却・通常損耗に相当する額を差し引かないといけないからです。 いくら敷金を増やしても、そこから全額を充当できない(または全額返却しなければならない場合も)リスクがありますので、原状回復費用として初めから一定額を回収できるようにしておいた方が安心です。
▶退去費用を明記する
退去時に借主が支払う費用をあらかじめ決めておくのも一手です。清掃費として50,000円、建具全般の特別消毒費として50,000円というように、目的と金額を明記したうえで取り決めておけば退去時にもめることも少ないでしょう。ただし、予想される実損と比較して設定金額が高すぎる場合には、民法90条並びに消費者契約法9条1号により無効となる場合もありますので、注意が必要です。
2.ペットの飼育承諾書(使用規則)と写真の提出を求める
新規に契約する際は、借主に「ペット飼育承諾書」を提出してもらいましょう。入居者がどのようなペットをどう飼っているのか(飼うつもりなのか)、ある程度把握することができます。
承諾書に盛り込む内容は下記のとおりです。すでに提出をルール化されている方も多いとは思いますが、改めてご確認ください。
《飼育承諾書で確認したい内容》
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ここまで細かく取り決めをしておけば、契約違反が発生した場合でも、書面を盾に是正勧告をすることができます。使用規則は上記以外にも一般的に記載すべき内容が多くあると思いますので、契約書と分けて別紙で用意するといいかと思います。
また、契約書の提出とあわせて、ペット写真の提出をしていただくことも大切です。飼育するペットの種類について容姿面での裏付けになりますし、室外でトラブルを起こした際の特定にも役立ちます。
3.第三者機関による証明書の提出を求める
自己申告による書類の提出だけでなく、次のような第三者機関が発行した証拠書面の提出も徹底したいところです。
- 犬⇒犬鑑札、狂犬病予防注射済証、ワクチン接種証明書、避妊・去勢手術証明書
- 猫⇒ワクチン接種証明書、避妊・去勢手術証明書
【Point】 猫の避妊・去勢手術の証明書は確実に提出してもらいましょう。猫は発情期を迎えると特有の大きな鳴き声を上げるようになりますし、オスの場合はあちこちに尿を引っ掛ける排尿行動(尿スプレー)をすることもあります。 |
4.ペット仕様の部屋づくりでトラブルを回避する
ペット飼育可物件では、入居者がどんなペットを飼おうと鳴き声や傷、臭いを避けて通ることはできません。
そこで、ペット仕様のお部屋づくりを試してみるのもいいでしょう。傷や臭いに強い設備を導入すれば、高騰する原状回復費用に歯止めをかけることができるかもしれません。また、ペットが快適に過ごせる空間を提供することで、ストレスによる問題行動の低減や、お部屋の訴求力向上を図ることも期待できます。
▶壁クロスの工夫
猫の爪とぎ対策にはペット対応壁紙がお勧めです。ただ貼るだけではなく、腰高の位置を境に上部と下部で分け、上はニオイをバリアしやすいもの、下は汚れや傷がつきにくいものにすれば、効果的にダメージを軽減することができるでしょう。両方のクロスの間に見切り材を設置すると見栄えも良くなりますよ。
▶クッションフロアの変更
ペット用のクッションフロアにすることで、足音が響きにくくなったり、消臭加工によりニオイがつきにくくなったりします。耐久性にも優れていますので、退去時の張替えを最小限に抑える効果も期待できます。また、滑りにくいというメリットがありますので、ペットが歩いたり走ったりしたときの負担を減らすことになり、入居者への訴求力も高まるでしょう。
▶設備変更
ペット用の柵や潜り戸、キャットウォークなどを設置すれば、ペットがお部屋で快適に過ごせますので、ストレスが減り、引っ掻くなどの破壊行為を減らせるかもしれません。また、コンセント位置を高くすることで、ペットがコードを噛んで感電したりするような悲しい事故を防ぐこともできます。
ペット飼育可は初期契約での手続きが大切
仲介で働いていたころ、駅から遠く離れているせいで全く反響のなかった物件が、ペット飼育可に変えたことで、立ちどころに決まったということがありました。ほかにも、猫1匹から2匹までOKにした物件は、退去日前から次の申込予約が入ったことも。振り返れば、ペット飼育可のおかげで何度も助けられたものです。
一方、上で述べたように、猫の排泄物やひっかき傷で100万円近い退去費用が発生したお部屋もありました。
しかし、ペット飼育可物件で味わった苦い経験を振り返れば、初期契約の段階で手続きをしっかりと踏んでいたなら防げたはずのトラブルが多かったのも事実です。
リスクの多さから敬遠されがちなペット飼育可物件ですが、事前の準備次第では大きな空室対策になるでしょう。昨今のペット需要に合わせて、管理物件への導入を検討してみてもいいかもしれませんね。