高まるペット可ニーズ、少ない供給数がチャンスに
2021年調査、5世帯に1世帯が犬または猫を飼育
賃貸住宅の差別化戦略として注目を集める「ペット可物件」。
効果的な空室対策として知られる一方、トラブルが不安で手を出せずにいるオーナーや賃貸管理会社も多いことと思います。
しかし、そんな貸主側の葛藤とは裏腹に人々のペット需要はますます過熱しています。一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2021年度の犬・猫の飼育世帯数は1082万8,000世帯。日本の全世帯数が約5700万ですから、およそ5世帯に1世帯が犬・猫を飼っていることになります。
加えて、ウサギ、ハムスター、鳥類、爬虫類、熱帯魚などを含めると、ペットを飼育する世帯の総数はさらに増えるでしょう。
ペット相談可の募集件数は全体の15%。エリア別にバラつきも
一方、高まるペット需要に対してペット可物件の数は絶対的に足りていません。
例えば、ポータルサイト「SUUMO」でペット相談可の募集件数を調べたところ、全国700万2,723件の募集のうち、ペット相談可は105万3,708件と全体の15%ほどに止まりました(2022年4月13日集計)。
一昔前と比べて増加傾向ではあるものの、すでにペットを飼っている入居者・これから飼いたいと思っている入居者のニーズを拾うのに十分な数とは言えないでしょう。
また、エリア別でも募集件数に開きが見られ、件数が比較的多い北海道20.4%、関東16.4%に対して、東北8.6%、甲信越・北陸7.5%と半分以下の結果に。物件の敷地面積の差や、都会と地方の違いがペット可物件の供給に影響を及ぼしているのかもしれません。
いずれにしても、こうした供給不足は裏を返せば物件周辺に競合が少ないということになります。賃貸経営にとってペット可のもたらすメリットはまさにここに理由があるのです。
※2022年4月13日集計
対策次第で「高家賃・長期入居」が期待
ペット可がもたらす3つのメリット
ペット可物件のメリットとして大きく次の3つが挙げられます。
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そもそもペット可物件の供給数自体が少ないため、ペットを飼いたい入居者にとってはペット可であるだけで貴重な選択肢となります。そのため、ペット不可に比べて入居者からの反響を得やすく、長期入居や高い家賃設定も期待できるというメリットがあります。
加えて、飼い主の中には自身の生活の利便性よりペットの生活を重視する人も多くいるものです。駅から多少遠くても、近所に広い公園があったり、河川敷があったりする方が喜ばれることも珍しくありません。
結果として、築古であっても、アクセスが悪くても、あるいは周辺に忌避施設があったとしても、ペット可というだけで決まりやすくなるのです。
また、ペット可物件はコンセプトが明確な分、ペット不可物件に比べて精度の高い空室対策がしやすいのも特長です。犬向けなら足洗い場や屋上ドッグラン、猫向けなら壁付きキャットステップや備え付きのキャットタワーというように、ターゲットに合わせた対策で多くの反響獲得が期待できるでしょう。
ちなみに、SUUMOリサーチセンターによると、ペット飼育者は非飼育者よりオンライン内見の利用率が高いという調査結果も報告されています。
ペットと一緒に住みたくなるような内装・設備を取り入れ、物件の見栄えにも気を利かせられれば、一層の空室対策が期待できます。
もっと知りたい!「ペット可物件の募集アイデア」 |
ペット可のデメリット、対策はチェック体制強化
とはいえ、メリットがあればデメリットもあるもの。ペット可にすることで、賃貸経営には次のようなトラブルも起きやすくなります。
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賃貸オーナーはもちろん、管理会社にとっても避けたいトラブルばかりですよね。こう見ると、ペット可物件は必ずしも良いことばかりではなく、相応のリスクを伴う諸刃の剣のように見えます。
しかし、それは貸主側が何の対策もしなかった場合です。ペットの管理やお部屋の使い方は入居者の責任と放任せず、例えば「飼育状況を定期的に確認する」「原状回復費用として敷金を多めにもらう」「傷つきにくい内装材を使う」といった工夫で十分に対処できるケースも多いでしょう。
そこで、ペットの賃貸トラブルが深刻化する前に、契約時・入居中・更新時に管理会社で必要なチェック体制を整えておくことをお勧めします。
ペット可のリスクヘッジ策として、例えば初回契約時には次の4つの対策が考えられます。
《初回契約時4つの対策》
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いずれも重要なリスクヘッジ策ですが、中でもセーフティネットとして押さえたいのが、「1.金銭面でペット飼育専用条件をつくる」こと。工事費用を捻出するため、あらかじめ敷金・礼金を増やしたり、敷金償却・敷引きの特約を結んだりといった方法があります。
また、退去時に清掃費として借主が支払う費用を契約段階で定めておくのもいいでしょう。入居者と事前に合意したうえで、貰い受ける費用の目的・金額を契約書に明記しておけば退去トラブルも少なくなるはずです。
もっと知りたい!「ペット可のトラブル対策」 |
ペット可に変更するとき何に注意すればいい?
既存入居者への配慮を忘れずに
賃貸オーナーとの間でペット可変更についての合意が固まったとき、次に気をつけたいのは既存入居者への配慮です。
というのも、既存入居者の全員がペット可物件に賛同するわけではありません。むしろ、ペット不可の物件だから契約した方もいるでしょう。その約束を覆して「ペット可」へと変更するわけですから、本来は既存入居者一人ひとりに個別に同意を得る必要があります。
実際に、急な条件変更が原因で入居者から「退去するから引っ越し代を払え」「慰謝料を払え」となるケースも見られます。ペット可に条件変更する際は、既存入居者の意向をうかがいつつ、慎重に手続きを進めた方がいいでしょう。
条件変更をトラブルなく進めるには、例えば次のような方法が考えられます。
《ペット可変更の注意点》
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既存入居者とのトラブルを避けたいのであれば、まずはアンケート調査から始めるのも一案です。ペット可変更についてアンケートを実施すれば、入居者がペット可に賛成なのか、あるいは誰が反対なのかが見えてくるかもしれません。
もし反対する入居者がいたとしても、その入居者の退去を待ったり、引っ越し先の紹介や引っ越し代の貸主負担などを交渉材料に退去を促したりできれば入居者も納得しやすくなるでしょう。
また、ペット可変更までの猶予期間を設定するのもひとつです。反対する入居者に向けて「一年後にペット可に変更します」と告げたうえで、その間の引っ越し支援を約束すれば、たとえ期限後にペット可変更を実施しても貸主側は入居者に十分配慮していたと言えるでしょう。
もっと知りたい!「ペット可変更の注意点」 |
増えるペット可変更の相談、チャンスを活かせる賃貸管理を
コロナ禍の後押しもあり、今後もペットブームは変わらず持続することが予想されます。そうなると、空室対策でペット可物件への変更を考えるオーナーからの相談も増えるかもしれません。
ペット可は確かにデメリットもありますトラブル防止に向けて必要な対策を講じられれば大きな空室対策になります。ここで紹介したリスクヘッジ策や条件変更時の注意点などに気をつけつつ、チャンスを活かせる賃貸管理に挑戦してみてください。