賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「キャッシュフローツリー」です。
不動産を所有する代表的な5つの目的
皆さんこんにちは。コンサルタントの金井です。
前回の記事では、私が現在取得を目指して勉強している「CPM®」という国際資格について、最初に学ぶ「管理会社が持つべき倫理観」について書かせていただきました。
今回は「プロパティマネージャーのための金融計算と戦略」、いわゆるファイナンスの授業で学ぶ、不動産投資分析を行う上で欠かせないキャッシュフローツリーについて紹介していきます。
本題に入る前に確認しておきたいのは、管理会社で働く我々の使命が“不動産の価値の最大化=オーナーの収益最大化”であるということです。
それを達成するにはまず、オーナーが不動産を所有する目的を知らなければなりません。CPM®の授業では、代表的なものとして下記の5つが挙げられています。
<オーナーが不動産を所有する目的> 1.安定的な収入(キャッシュフロー) 2.資本の保護(安全性) 3.資本の増加(インフレヘッジ) 4.税務上の利得(節税) 5.レバレッジ(借りたお金を使う) |
ほかにも、「先祖代々の土地だから維持したい」「老後の年金を作りたい」など、一人ひとり理由はさまざまです。まずはオーナーの目的を知り、そのオーナーの目的に合致した提案をすることが、我々プロパティマネージャーに求められているスキルです。
提案・分析の前に、まず「キャッシュフローツリー」の確認を
オーナーの目的はさまざまと言いましたが、先に述べた5つのうち、多くのオーナーが不動産投資の1番の目的としているのは、やはり「1.安定的な収入(キャッシュフロー)」でしょう。
そうなると我々は、その物件がオーナーの求める収入を確保できる(できている)かどうか、投資自体の安全性が高いのか低いのかを、投資分析をして見極める必要があります。
そのため、まず作りたいのが次に示す「キャッシュフローツリー」です。
<キャッシュフローツリー> (1) 総潜在収入 (2) ▲空室損失・未回収賃料 (4) =実効総収入 (5) ▲運営費 (6) =営業純利益(NOI) (7) ▲年間借入返済額 (8) =税引き前キャッシュフロー |
キャッシュフローツリーとは、不動産投資における1年間のお金の出入り・税引前キャッシュフローが導かれるまでの流れをまとめたものです。このキャッシュフローツリーを作らずして、現実的な投資の安全性、投資効率を導くことはできません。
(1)「総潜在収入」とは、1年間満室で稼働した場合に得られる潜在的な賃料収入、つまり、想定できる最大の家賃収入です。
(2)しかし、総潜在収入はあくまで「想定」の数字でしかありません。現実的な数字を導くには「空室損失や滞納」により未回収となってしまう金額を見定めておく必要があります。
(3)また、実際の経営時には「賃料差異」が発生する場合もあります。ここで言う賃料差異とは、もともと募集していた賃料と、実際の成約賃料との差額のこと。募集賃料を下げて成約した場合はマイナス勘定ですが、逆に高く決まった場合はプラスで勘定します。
(4)そして、総潜在収入から②、③を引いたものが「実効総収入」。実際の収入を表します。
(5)収入が確定したら、次は支出です。「運営費」は物件の管理運営にかかる費用のことで、修繕費や募集広告費、固定資産税、火災保険などが含まれます。
(6)収入から支出を差し引くと「営業純利益(NOI)」が導かれます。この営業純利益(NOI)は、物件自体の収益力を表すとても重要な指標です。
(7)最後に、金融機関から受けた融資の「年間借入返済額(ローン返済)」を差し引きます。
(8)こうして、所得税等を差し引く前の「税引き前キャッシュフロー」が算出されることになります。
真に物件の収益力を表す営業純利益(NOI)
売買物件の広告などではよく、利回り〇%と書かれているのを目にします。
ほとんど場合は、総潜在収入を物件価格で割って算出されているのですが、我々が最も重要視すべきなのは、総潜在収入ではなく「営業純利益(NOI)」です。
先に述べた通り、総潜在収入はあくまで物件が“満室稼働”だった場合に得られる最大の収入です。
しかし実際には、必ず解約と空室損失が発生しますし、エリアの特性や物件の運営費等を考慮に入れなければ、真にその物件の収益力を測ることはできません。
物件の購入を検討しているオーナーから相談を受けたとき、表面的な数字だけを見て判断してしまえば、結果的にオーナーの利益を損なう結果にもなりかねないのです。
例えば、物件A、物件Bという2つのアパートがあったとして、どちらも価格は1億円、ローンの条件も同じとして年間借入返済額が300万円だったとします。
物件Aの総潜在収入が1,000万円、物件Bの総潜在収入が900万円であったとき、物件広告の利回りはAが10%、Bは9%となり、Aの方が一見すると収益性が高いように思えます。
しかし、次のような条件が付されるとどうでしょう。
物件Aの周辺は競合が多く、空室率は10%。成約のために多くの広告費が必要で、おまけに築古。年間の運営費は250万円です。
一方、物件Bは人気のエリアに位置し、空室率が2%の優良物件。築浅でメンテナンス費用も抑えられるため、年間の運営費は200万円で済みます。これを、キャッシュフローツリーで表すと次のようになります。
<物件A> 1,000万円 総潜在収入 ▲ 100万円 空室損失・未回収賃料 = 900万円 実効総収入 ▲ 250万円 運営費 = 650万円 営業純利益(NOI) ▲ 300万円 年間借入返済額 = 350万円 税引き前キャッシュフロー
<物件B> 900万円 総潜在収入 ▲ 18万円 空室損失・未回収賃料 = 882万円 実効総収入 ▲ 200万円 運営費 = 682万円 営業純利益(NOI) ▲ 300万円 年間借入返済額 = 382万円 税引き前キャッシュフロー |
総潜在収入で比較したときの収益性(表面利回り)が高かったのは物件Aでしたが、空室損失や運営費を考慮して計算すると、物件Bの収入が物件Aより32万円高い結果に。
営業純利益(NOI)でみた収益性(NOI利回り)では、物件Aの6.5%に対して物件Bが6.8%と逆転していることがわかります。
皆さんなら、どちらの物件を購入するようオーナーに勧めるでしょうか。また、総潜在収入でみる表面利回りと、営業純利益(NOI)でみるNOI利回りでは、どちらを真の収益性と考えるでしょうか。
空室損失や運営費は、エリアの賃貸需要や競合物件の有無、築年数などによって大きく左右される部分であり、物件が置かれている状況によって決まるため、基本的にどんなオーナーが買ったとしても変わるものではありません。
だからこそ、物件の真の収益力を表しているのは営業純利益(NOI)であるといえます。
キャッシュフローツリーを用いた分析を。
もちろん、全ての表面利回りが信用できないわけではありません。しかし、実務では物件を売りたいがために収益性をよく見せようと、表面利回りを高く設定しているケースが多く存在することは、皆さんもご承知のとおりです。
そして、そんな玉石混交の不動産市場からオーナーの目的に合致した物件を選び出すのが、私たちプロの仕事です。空室損や運営費等を試算し、真に物件の収益力を表す営業純利益(NOI)を導き出すためにも、キャッシュフローツリーを用いた分析を行なうことが重要になるのです。
さて、今回ご紹介したキャッシュフローツリーですが、もちろん投資分析はこれを作って終わりではありません。むしろ、作ってからが本当の分析の始まりです。
次回は、投資の収益性・安全性を測るための5つの利回りと2つの指標について解説を行います。