賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「物件価値をはかる5つの利回り」です。
物件の良し悪しの判断の基本「利回り」とは?
皆さんこんにちは。コンサルタントの金井です。
前回の記事では、私が勉強している「CPM®」という資格について、「プロパティマネージャーのための金融計算と戦略」——いわゆるファイナンスの授業で学ぶところの、不動産投資分析を行う上で欠かせないキャッシュフローツリーについて紹介させていただきました。
今回は、作成したキャッシュフローツリーをもとに、分析で用いる「5つの利回り」について解説していきます。
まずはキャッシュフローツリーの復習から。
キャッシュフローツリーとは、不動産投資における1年間のお金の出入りを一連の流れに沿って上から下へとまとめたもので、多くのオーナーが目指している「安定的な(定期的な)収入」「資本の保護」の達成のために、まず作成すべきものになります。
<キャッシュフローツリー> (1) 総潜在収入 ※満室だった場合の1年間の収入 |
では、知り合いのオーナーが「良い利回りの物件Aを見つけてさぁ。年間800万円も稼いでくれるんだよ! どう思う?」と話をしてきました。
皆さんなら、どのようなアドバイスをされるでしょうか?
条件は次のとおりです。
<物件Aの条件> (1) 物件価格 :1億円 |
分析に当たり、まずは上の条件をキャッシュフローツリーに落とし込んでみましょう。
<物件Aのキャッシュフローツリー> (1) 800万円 総潜在収入 |
はい、このようなキャッシュフローツリーが完成しました。
オーナーは物件Aを「良い利回り」と言っていますが、ここで注意しなければならないことがあります。
利回りにはいくつか種類があり、オーナーが言う利回りが、総潜在収入をもとにした「表面利回り」である可能性が高いことです。
ひと口に「利回り」と言っても、意味するものはさまざま。不動産投資においては次の5つの利回りを考える必要があります。
不動産投資における5つの利回り
<5つの利回り>
|
1.表面利回り
表面利回り=総潜在収入 ÷ 物件価格 |
物件が1年間「満室で」稼働した場合の利回りです。
売買広告などで見かける利回りは、ほとんどがこの表面利回りです。空室損失や運営費などが考慮されていないため、あくまで目安として考えなければなりません。この指標だけで物件の価値を判断するのは危険でしょう。
2.ネット利回り
NOI利回り=営業純利益(NOI) ÷ 物件価格 |
不動産の収益性を表す実質的な指標です。
前回の記事でもご紹介しましたが、営業純利益(NOI)は、周辺の市況や築年数など、物件が置かれている状況によって決まる空室損失や運営費を差し引いて考えているため、物件の真の収益力を表しているといえます。
このNO Iをもとにしたネット利回りこそが、物件の比較をする際に最も重要な投資指標となります。
3.自己資金利回り
自己資金利回り=税引き前キャッシュフロー ÷ 自己資金 |
投資した自己資金に対して、最終的な手取り収入がどれくらいあるのかを表します。
投資利回りを示すものですので、銀行からお金を借りて不動産投資を行う投資家からみれば、この自己資金利回りを高めることが重要となります。
4.キャッシュフロー利回り
キャッシュフロー利回り=税引き前キャッシュフロー ÷ 物件価格(初期投資総額) |
最初に投資した総額に対して、どれくらいの手取り収入があるのかを表す利回りです。
投資の規模と手取り額とのバランスを把握するものですので、事業全体のスケールと比較して「どのくらい儲かるのか」をみることができます。
5.返済割合
返済割合=年間借入返済額 ÷ 物件価格(初期投資総額 |
最初に投資した総額に対して、借入返済額がどれくらいかを表す指標です。キャッシュフロー利回りと、この返済割合の合計が、NO I利回りとなります。
不動産投資の大前提はオーナーの「目的」
さて、不動産投資における5つの利回りが分かったところで、物件Aについてもそれぞれ計算してみましょう。
<物件Aの各種利回り> (1) 表面利回り 8.0%(800万円 ÷ 1億円) (2) NOI利回り 5.9%(590万円 ÷ 1億円) (3) 自己資金利回り 10.5%(210万円 ÷ 2,000万円) (4) キャッシュフロー利回り 2.1%(210万円 ÷ 1億円) (5) 返済割合 3.8%(380万円 ÷ 1億円) |
それぞれの利回りを出せたら、いよいよ分析に入るのですが、オーナーにアドバイスをする上では一番大事な情報がまだ足りていません。それは「オーナー自身の目的」です。
オーナーが、不動産投資において何を一番重要視しているかということがわからなければ、この物件Aがオーナーにとって良い物件なのか、そうでないのかは誰にも分からないことです。
仮に空室が多くなってしまったり、長期間続いてしまったりした場合でも耐えられるだけの安全性を一番に考えるオーナーもいれば、多少のリスクを取ってでも、なるべく多くの収入を得たいと考えるオーナーもいます。
また、希望した額・期間・金利で融資が受けられるとも限りません。希望の条件で借りられないのなら、購入を見送るべきと判断することも多々あるでしょう。
今回のケースで考えれば、「30年・2.5%」で希望していたローンが「25年・3%」でしか借りられなくなったとしたら、年間返済額が380万円から455万円に増え、自己資金利回りやキャッシュフロー利回りが低下することになります。収益性を一番に考えるオーナーだとすれば、要求に満たない物件と判断できるかもしれません。
一方、借入期間を延ばしたり、安い金利で借りたりできれば収益性を高めることも可能です。どちらを重視するかは、やはりオーナーの希望によるのです。
ですから、オーナーにアドバイスする際は、オーナーの目的を見失わないようにしましょう。その上で5つの利回りを使い、額面だけでは見えない分析を行ないたいものです。
次回は「投資の安全性を測る2つの指標」について詳しくご紹介させていただきます。